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09 17
2015

書評 社会学

かつてアメリカを憧れたように――『日本が好きすぎる中国人女子』 櫻井孝昌

日本が好きすぎる中国人女子 (PHP新書)
櫻井孝昌  
PHP研究所 (2013-09-24)



 みなさんも繁華街や観光地で中国人の多さを見たことがあると思うが、かれらの憧れの気もちはどのようなものかと思ったことはないだろうか。

 ことしの夏は中国人の爆買いをテレビはよく放送していたようだが、わたしも心斎橋が中国人ばかりに占領されているのを見て、中国人の日本への憧れのつよさを思い知った。

 ファッションのアフィリサイトを立ち上げたのだが、じつは中国人相手に売りたかった。中国語を勉強して、中国人向けのサイトをつくりたかった。どんなに中国人が日本に憧れているか、肌で知ったからだ。

 昭和に育った人なら、この感覚は知っているだろう。わたしたちはアメリカに憧れ、アメリカ人みたいになりたいと強く憧憬していた。その頃の感覚が中国にうつりかわり、その憧憬の対象が日本になったのだ。

 わたしはこういう図式で理解しているのだが、若いアメリカの憧憬を知らない世代がいるとしたら、こういうくりかえしのパターンが起こっているということを自分の身の上の体験として実感できにくいかもしれない。

 本書で韓流ドラマやK-POPで育った若い世代は、わたしたちがアメリカに憧れたように韓国に憧れるようになる、と恐ろしいことを書いている。わたしたちが文化的なキャッチアップ国だ、後進国だと思っている国がもう憧れの国になっているのである。世代の違いは恐ろしい。

 この書ではこんなに日本に憧れる女子がたくさんいるのにじっさいにもっているテレビやファッション製品は韓国製のものになっており、日本は最大のチャンスを逃しているのだとなんども連呼され、危機感が表明されている。

 日本はかつては製造国のキャッチアップの国であり、しだいに製品の品質が性能が世界でみとめられていったのだが、文化的にはまだまだ発信できる国ではなかった。日下公人が80年代につぎはソフトの発信国にならなければならないといっていたのだが、いつの間にか日本はそういう国になっていたのだ。

 でも日本のソフト発信は70年代からはじまっており、安い価格で買うことができる日本のアニメが世界で放送されることにより、影響力をじょじょに増していたようだ。アニメは子どものものだとか、幼稚なものだという前世代の価値観が、人々にあたえる影響の大きさを理解させなかったのだろうね。

 まあ人々は憧れの対象に関心と注視は向けるのだが、キャッチアップ国や後進国に目を向けたり、どんな状況なのか、気にすることはほとんどない。わたしたちがアメリカに憧れているころ、日本の文化がアメリカにカッコいいと認められたことはなかったし、日本の歌手が憧れの地アメリカに海外進出しても、ことごとく玉砕していたから、よくわかるのだけどね。

 この文化伝播のパターンがアメリカから日本へとひきつがれている。文化伝播のパターンはかなり図式的で理解しやすいものではないだろうか。この文化パターンをおおいに利用し、活用すべきだと思うのだが、本書の危機感にもあるように日本企業の進出熱や本気度は韓国に負けるようだ。

 後進国はほんとに興味ないんだよね。安い労働力として使うことには熱心だったのだが、消費の上客としての活用がいまいち盛り上がらないようだ。日本は製造国から文化的に憧れられる、文化的な発信国になったという自覚を強くもつ必要があり、それをしっかりと活用する時期になっている。後進国に関心がないためにこのような努力がおろそかになっている。

 アニメが世界じゅうで愛されていることは多くの人が周知していると思うが、中国では日本の女性ファッション誌が100万部の単位で売れるほど大人気であるということも忘れてはならない。ファッションで憧れられる国になるというのはそうとうのことである。おしゃれやカッコいいと思われる文化になることはなみたいていのものではない。

 中国では中国版の『ViVi』と『mina』が二大売れている派閥になっているようで、『ViVi』派は派手めなファッション、『mina』はそれよりおとなしめになるそうである。


  ViVi(ヴィヴィ) 2015年 10 月号 mina(ミーナ) 2015年 11 月号


 世界各国でも日本ほどおしゃれに自由な国はないと思われているようで、わたしたちが憧れたヨーロッパでも自分たちの街はおしゃでもないし、自由に服を着れない保守的な国と思っているようだ。こんな時代がくるとは思わなかった。

 そして本書で重要なことは、反日感情がさかんになったときでも、筆者は日本が好きで愛する女子やイベントがたくさん存在することを強調していることだ。テレビ報道を見る人は中国人は日本を嫌いなのだ、中国人の中には反日感情がうずまいているのだと思うのだろうが、日本を好きな女子、中国人はずっと健在だ。

 この理由はかんたんで、いっぱんの人たちはポップカルチャーが人生の中心なのであって、国家とか戦争、政治でアタマがいっぱいな人ばかりいるわけがないということだ。テレビや新聞は政治アタマで凝り固まっているのだろうが、一般人や庶民はそんな政治や国家でアタマがいっぱいになるわけがない。メディアの政治アタマはつくづくアホだと思う。

 本書の帯には竹田恒泰の推薦の帯がかかげられているのだが、世界でいちばん愛されているとかのナショナリズムで理解してほしくないと思う。これはナショナリズムのお国自慢の問題ではなくて、文化伝播と文化継承のくりかえされてきたパターンにしかすぎない。

 文化憧憬は「ミズモノ」であって、いま流行っていることも流行歌や芸能ネタのようにあっという間に忘れられ、飽きられる。ごく短いあいだだけの流行やトレンドにすぎない。わたしたちはいまもアメリカに憧れつづけているだろうか。アメリカの生活や文化にとことん憧れているだろうか。

 短いあいだのチャンス、長い歴史のなかで二度とめぐってはこない文化発信のチャンスを日本はいまつかんでいるということだ。

 「日本は日本にしかつくれないものをつくる国だ」と憧れられる国に思われるようになっているのである。



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