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08 19
2015

書評 社会学

非モテ街道驀進――酒井順子『オリーブの罠』



 「オリーブの罠」というのは、男のためにモテるファッションではなくて、自分のために自分の好きな服を着るように誘導した『オリーブ』のせいで、「非モテ街道をつっ走てしまったではないか、どうしてくれる!」という感じである。

 『JJ』や『CanCam』のような赤文字系雑誌なら男のためのモテ服で飾っていたらいまごろ結婚できて、子供を産んで、「ちきしょう、オリーブめ」とおっしゃりたいのだろう。

 ただあまりメッセージ色の強い分析ではなくて、オリーブに連載を高校のときから抱えてた酒井のオリーブ愛読者としての回顧録といった風が近い。「なつかしいあの頃のオリーブについて盛り上がりましょう」といったライトエッセイである。もちろん強く影響をうけたオリーブという雑誌はなんだったのかという気持ちが強いのだろう。

 自分のためにファッションを着飾ることは、男のためのモテを志向せずにやがて非モテ街道を邁進してしまうのか、と女性ファッション雑誌のことをよく知らないわたしには、あらたな気づきを与えてくれた。

 オリーブ系のファッションとは、アニメオタクに似ているということになるのか。過酷で残酷な恋愛市場からの解放をもたらしてくれるし、逃避をはかれる。アジールであったといえる。

 しかしファッションに着飾るということはまったく外交的・社交的なことであり、自閉的なアニメオタクとベクトルはまったく逆だと思っていたのだが、ファッションで着飾ることでも、非モテ街道に通じるとは、わたしには気づかない視点だった。

 そしてファッションオタクになることは自分の価値をあたえてくれて、学歴社会からの闘争やアジールになる。ファッションという価値は学業成績というランクからも解放して、自分の価値を高める別の尺度もあたえてくれる。

 そういう意味で学校に露骨に反抗したヤンキーと同じ対抗文化のカルチャーをもっていたことになる。でも戦後の若者文化というのはとことん学校文化に反抗したものから生まれてきたということに気づかされる。アニメやファッション、ヤンキー、お笑いといったものは学校に反抗し、ランクや価値を勝手に決められる学校という権威からの離脱や逃走をもたらした。

 学校というのは、「一大怨恨産業」であり、世の若者の怨みを一心に背負い、だけど逆に創造的文化の母体となった皮肉なものである。ありがとう、学校文化。若者文化をつくってくれて、ということになるのだろうか。

 「オリーブ」は男のために着飾る赤文字系雑誌から距離をおいて、つまり男と結婚して家庭のしあわせに収まるという戦後の女性の生き方、または恋愛至上主義的な闘争からも距離をおく、第三の道をひらこうとした。恋愛至上主義から逃走をはかったという点では、アニメオタクと同じ心情をかかえていことになる。

 「オリーブ」は東京の付属系高校のカルチャーもとりあげていて、でもその中には結婚して家庭におさまる幸福感と、自分のためにファッションを着るといった、この本のテーマである男にモテか、非モテかの葛藤があったということだ。

 ファッションは生き方をあらわすものであり、思想もふくむものなのである。モテか、非モテで自分の道をつらぬくといったことは生き方の思想である。保守的な家庭志向か、自分のために生きる個人主義の生き方か。オリーブはそういった生き方のはざまを、自分のために生きる生き方を女性に教えた雑誌だったということになる。

 オリーブが休刊したのは2003年ということでその後、女性たちの生き方はぎゃくに家庭志向の強い保守的なものが勢力をぶりかえているということになるだろうか。だけどそのパイは少なく困難な道になり、モテの競争や闘争はよりいっそう激しく過酷なものになっているといった内情だろうか。

 いまはあのころのような憧れやめざすものが消滅してしまった、あのころはなつかしい~といった雑誌に「オリーブ」はなってしまったといえるだろうか。


オリーブ少女ライフku:nel (クウネル) 2015年 09月号 [雑誌]モテたい理由 (講談社現代新書)「モテ」の構造―若者は何をモテないと見ているのか (平凡社新書)ファッションの文化社会学

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