HOME   >>  書評 心理学  >>  恐れという「マボロシ」――『薬なし、自分で治すパニック障害』 森下克也
01 13
2015

書評 心理学

恐れという「マボロシ」――『薬なし、自分で治すパニック障害』 森下克也

薬なし、自分で治すパニック障害 (角川SSC新書)
森下克也 
KADOKAWA / 角川マガジンズ (2014-03-27)


 パニック障害とはふしぎな症状である。電車などで動悸、めまい、呼吸苦におそわれ、そこから電車や人ごみなどを不合理に恐れるようになる。人間の恐怖というものがいかに実体のないものに恐れるのかというひとつの証左であると思う。

 有病率は4%といわれ、100人に4人はかかるという、うつ病と同じありふれたよくある病気だそう。

 動悸やめまい、呼吸苦におそわれ、「自分は死ぬのではないか」「電車に乗れなくなったらどうしよう」「自分はどうなってしまうのだろう」と恐れるようになり、そのことによって恐れの「自己洗脳」や「強化」をおこない、「般化」とよばれるほかの場所での恐れにひろがってゆく。

 「すべては無知からはじまる」といわれているように、「先の見えない恐れそのもの」が恐怖をひろげる。不可視の恐れをとりのぞくためには「見えるようにすればいい」。パニック障害は、たまりにたまったストレスによって、ストレスにたえられなくなった身体が、本能的な「逃走」のかまえをとるためにおこるもので、「死にいたることはない」のである。それを知らないで不合理に恐れることによって不安の強化を上書きしてしまうのである。

 「やばいぞ、このままここにいたら心臓が止まってしまうぞ、早く逃げろ、緊急事態だ」と体は知らせるのだが、それはたまりにたまったストレスのせいで、その場所とかかわりはない。動悸は「逃げよ」という過剰な演出であって、あたかもほんとうに命が脅かされていると見せかけて警告をつたえようとする信号にすぎない。演出にだまされてはならない、緊急事態でないと知ることがたいせつである。

 「心臓は悪くないんだ、だから死ぬこともないんだ」「命にかかわることではない」と知ることが改善のポイントなのである。劇的に改善する人は、「発作が起きたときは起きたときだ」と達観して、症状を過剰に恐れず、無視するくらいの気持ちでいられた人である。そういう人は速やかに症状が消えたという。不安の対処法はそれに抗うのではなく、並存させて、勝手に収まるまで放っておくという方法が肝心なのである。

 「どうしよう思考」というものが恐れを増大させる。「どうしよう」から先を考えることができない。「心臓が破裂してしまったらどうしよう」とか「電車から永久に出られないんじゃないか」と、「どうしよう」と不安に思う先から一歩も進めない。

 「自律神経の症状だから死ぬことはない」「恐がることはない」という言葉はひたすら心のかなでつぶやくことが効くという。言語化は、人がものごとを認知するメカニズムそのものであり、ウソでもいいからつぶやきつづけると、通常の認知になってゆく。症状の原因もわからず、ひたすら「どうしよう」と恐れつづけると、不安の場所を増大させてゆくプロセスと同じである。人はこの心のつぶやきによって、恐怖なり、安心なり、ものごとの認知を強化させてゆく。

 「どうしよう思考」は「こうしよう思考」に変えたらいいと説く。どうしよう思考では先の見えない恐怖があおられ、問題の解決法が見つからず、不安がつもる。だから問題の解決策が見えれば、人はだいぶラクになる。「音楽を聴いて気をまぎらわせよう」「いつでも出られるようにドアの側にいよう」「どうしてもダメなら抗不安薬をのもう」と先行きの解決策をもつだけでも安心できる。語尾に同じように「~いいや思考」とつける方法も効く。

 だいたい本書の肝はこんなところである。人間の不安や恐怖は「オバケ」である。実在しない恐れに脅かされて、それでも逃れられない。まだ物語や観念は対処の段階が軽いものだが、身体症状の恐れになるとその「実在性」は数段高くなる。言葉や観念がつくりだした恐れが身体上で実演され、その恐怖ゆえに恐れの場所がひろがってゆく。人間はもともと不合理なものに恐れるものである。言葉でつぶやいた恐れがまた自分の恐れを強化・補強するスパイラルに落とし入れる。恐れの対処法、共存して必要以上にこだわらないといった対処法が試される症状だといえるだろう。

 医者は薬物療法が中心になって、五分間診療で終わることが多いようである。時間がかかるより、薬物を処方するしか経営がなりたたないからだという。薬物の問題は、事実はそうではないのに、症状は「恐ろしいもの」として認識されてしまうことである。得体の知れない恐ろしい発作というブラックボックス的な認識はふせがなければならない。ただ薬物は助けるものとしての使用は推奨されている。

 本書ではほかに自律神経を安定させる方法、薬物療法、漢方薬、認知行動療法などが紹介されている。

 この不安症状というのは、人間の不安や恐怖にたいする対処法が試されているのだと思う。不安を無視や放ったらかしにすることができれば不安は増大することはない。しかしそこに「どうしよう」とか「どうなるのか」という恐れの言葉や思考を上書きしつづければ、どんどん不安の場所は大きくなってゆく。おおぜいの前でしゃべることの緊張とおなじようなもので、緊張はなかなか解けないものである。それが必要以上に恐くなれば、そのような場所を避けるようになる。

 その対処法の間違いの上に死ぬほどの恐れの発作に出会うと、不安や恐怖の言葉をつぶやきつづけて、恐れのスパイラルを招いてしまう。不安や恐れという「マボロシ」の対処法の選択が問われる問題といえるだろう。


不安もパニックも、さようなら 不安障害の認知行動療法:薬を使うことなくあなたの人生を変化させるためにパニック障害からの快復 こうすれば不安や恐怖は改善できるパニック障害と過呼吸 (幻冬舎新書)脳内不安物質 不安・恐怖症を起こす脳内物質をさぐる ブルーバックス途中下車 パニック障害になって。息子との旅と、再生の記録


関連記事
Comment
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top