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2014

書評 労働・フリーター・ニート

仕事が不満な人はぜひ――『仕事はどれも同じ』 キッツ+トゥッシュ

4484121158仕事はどれも同じ
「今やっている仕事」を「やりたい仕事」にする方法

フォルカー・キッツ マヌエル・トゥッシュ
CCCメディアハウス 2012-06-28

by G-Tools


 転職をくりかえす人、仕事に不満を抱く人にはぜひ読んでいただきたい。仕事に不満をもつ心理的な内容が俯瞰できて、目がひらかれる。アマゾンの古本で100円+送料ていどで手に入れられたので、安いものである。ドイツのベストセラーで、ビジネス書ではめずらしい。

 けっきょく人間は果てしない不満を抱くものであり、欲望は限りなく、情熱や好奇心はいつか慣れるものであり、ルーティンになる。不満は仕事や職場環境にあると思っていたけど、自分の内側、自分自身の考え方にあるものではないのか。わたしは自分の不満という心理状況に向き合っていなかったな、手放せずにいるんだなと思った。

 第Ⅰ篇は仕事の不満の内容を分析したもので、これはすばらしい。第Ⅱ篇はエクササイズになっているが、これにはしょうしょう失望する。認知療法や違う考え方のもち方をもっと提示してほしかったのだけど、自律訓練法とか漸進性筋弛緩法とかありきたいのセラピーはがっくり。おすすめできるのは第Ⅰ篇の仕事の不満内容だけ。

 仕事に不満を抱く一つに収入があるが、他人より多額の収入を得たいというのがモチベーションの源泉にあるが、世界中のどの仕事についても満足感を得るのは不可能であると結論づけられる。同僚とはりあって多くの収入を得てもつぎは社長の収入に不満を抱くし、社長は社長でほかの多額な収入を得ている他企業の社長に不満をいだく。

 成功を得てマスコミにステータスをもつことができた作家も同じこと。ステータスも他人より上であることが満足なのであるが、上には上があって切りがないのだ。歴史上の人物、来年に消えるかもしれない名声、安いギャラ、多忙さが不満になる。

 人を助ける有意義な仕事だと思われている医師だって不満を抱いている。単なる日課やルーティンになってしまい、自分の注射はべつに自分が打つ必要もない代替できるものである。多忙なのに薄給を不満に思い、事務書類が多量にあり、ほんらいしたかった人を救う仕事をできない。

 いつか自分の活動の意義と価値に慣れてしまう。たんなる日課に思えてしまう。高い理想的基準をもつ人は、自分の仕事は他人の仕事とは違うという意識に支えられている。みんなはわたしを頼ってくれていると。だから自分の仕事が入れ替えのできる仕事だと思ってしまうとたえられなくなる。

 自分の好きなことをしている芸術家だって、絵を描くより生産するような気持ちになったり、経営がのしかかると楽しみが不意に消えてしまうこともある。契約を獲得し、顧客の指示どおりに作業をおこない、請求書を書き、注文がいつでもくるようにすると、楽しみが即座に消える。気分しだいにできていた芸術が仕事になり、束縛し、拘束するものになる。

 仕事はどんな情熱をもつものでも、慣れてしまうものだ。情熱をとりもどせない。転職をしたとしてもさいしょは情熱をそそげるが、いつか慣れや退屈の意識はしのびこんできて、元の木阿弥にもどる。人が仕事を選び際はひとつの動機だけを重視し、一つだけに集中して、失望を味わう。株式投資のように危機管理を分散することによって損害を減らすように、仕事にもリスクヘッジが必要なのである。

 人は何かを得たらなにを得たで、そのうちに慣れてしまう。その立場を喜ぶ代わりにもっと多くもっている人、よいものをもっている人に目を向けてしまう。

 成功したテレビ・リポーターも数年後にはくりかえしの仕事やメンバーに退屈を覚えている。大企業の幹部も華やかな舞台とは裏腹にまいとしくりかえされる幹部会議、記者会見、株主総会にうんざりしている。

 自由業や独立は自由だと思われているが、顧客はうるさい上司や会社と違うレベルの過酷な注文や作業を要求するようになる。労働法に守られていた権利も、仕事をよそに変えられる危機から、条件を守ることもできない。

 わたしたちが逃げているのは、自作の現実からではないのか。自分自身から逃げようとしているのではないのか。

 けっきょく、わたしたちは不満や不公平を受け入れることができない。変えられない、自分の人生や運命をコントロールできない、無力な存在を受け入れられないだけではないのか。「なぜ、どうして」という疑問をずっと抱きつづけて、そのような思考は救いをもたらしたことはあったか。

 インド人の貧しくても厳しくても、受け入れる、満足する姿勢に著者たちは希望や理想を見いだしているようだ。不満や不快感を抱かずに、ただ世界のありよう、あり方をただ受け入れる。世の中がどうであろうと、それが自分にとってベストであると受け入れている。いささかインド人を理想化しすぎているのだが、べつの理想やありようを想像しないで、受け入れることに著者たちの目標や理想はあるようだ。

 この本を読んで仕事に不満をもち、転職をくりかえしきたわたしはどうやら仕事や職場に不満ばかり抱いてきたことがよくわかった。不満を抱くという思考のクセをまったく問題視してこなかったことにようやく気づいた。問題点は不満という現実の否認やほかのありようを求める想像だった。「あるがまま」を受け入れるなんて思想は山のように読んだのだが、こと仕事や労働にたいしては不満や不平を抱かずに、「あるがまま」を受け入れるなんてことがまるでできていなかった。

 不満なのである、現実を受け入れることを拒否するものは。「あるがまま」というのは、ほかのありようや理想を想像しないで、そのまま受け入れることなのである。不満という遮蔽物をうちたてると、まずは「あるがまま」を受け入れるという状態を得ることはできない。

 欲望は数限りなくとどまるところはないといった悟りの思想はいくらでも聞いた。だけど仕事や状況にたいする不満や欲望にたいしてそれを適用もしなかった。仕事や労働にたいする侮蔑心をもっていたので、自分の不満や軽蔑を問題化することもなかった。そのために不満という遮蔽物はいつまでも問題視されることはなかったのだと思える。

 不満のコントロールという問題がようやく浮き出てきたように思う。不満という問題、思考、想像という問題とつきあってこなかったなと悟らされた。



(文庫)もう、不満は言わない (サンマーク文庫)仕事でいちばん大切なこといつもの「グチ」がなくなる本なんとなく仕事がイヤッ!―職場の不満を解決する26の方法あなたは仕事が楽しいA子さん?不満だらけのB子さん? (知的生きかた文庫―わたしの時間シリーズ)


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