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2014

右傾化再考

戦争を喜んだのは国民――『昭和史の逆説』 井上寿一

昭和史の逆説(新潮新書)
井上寿一
新潮社 (2012-10-05)


 ちょっと読みとりにくい本だったかな。この時代のしっかりした流れを把握していたら違ったのだろうけど、逆説と通説を比べることができなかったというか。わかりやすかった半藤一利の『昭和史』を読んだあとだからなおさらだ。

 たとえば第六章の「アメリカとの戦争は避けることができた」のタイトルはなかなか期待するものだったけど、内容がてんで読みとれなかった。日本は英米の包囲網によってやむなく戦争に追い込まれた、ローズヴェルトの陰謀があったという説があるのだが、開戦は回避可能だったというのだが、本文からその反論を読みとれない。ちくしょうという感じだけど、この本から読みとれなさを感じていたから、やっぱりなという感じもした。

 全体的に軍部の暴走説に異をとなえるのが本書の特徴なのかな。

 第五章では「戦争を支持したのは労働者、農民、女性だった」という章がある。1937年の首都南京陥落によって戦争に勝った、戦争は終わったという国民の祝賀ムードと実感があった。軍需景気によってデパートの売り上げは記録的になり、軍需産業の生産ラインはフル稼働になり、労働力が不足、賃金上昇、完全雇用といった戦争景気によって国民は潤った。それまでの昭和恐慌、世界大恐慌によって疲弊していた国民にとっては「天佑」だった。戦争は最大の景気刺激策だったのである。

 まえに『太平洋戦争と新聞』を読んだが、この本には満州事変のときも国民は新聞とともに勝利や戦争への渇望を煽ったことが細やかに書かれていた。

 『昭和史の逆説』には国連脱退へといたる松岡洋右の緊迫したジュネーヴ総会でのやりとりが描かれているが、「失敗した、申し訳ない」と思っていた松岡と違って、国民や新聞はかれを国民的英雄に祭り上げたのである。

 政界や外交は軍部の暴走を止めていたのだが、隘路に落ち込むように戦争に導かれていったのが昭和であったのかもしれない。戦争を煽り、政府のへっぴり腰を批判し、参戦への熱狂をはやし立てていたのは新聞であり、国民であった。国際スポーツで日本の勝利を喜ぶ国民とおなじようなものである。

 国民は戦争の被害者、軍部暴走によって戦争に巻き込まれたといった責任逃れにたいして、一矢を報いたいというのが著者の狙いのひとつかもしれない。


昭和史 1926-1945 平凡社ライブラリー 671そして、メディアは日本を戦争に導いた太平洋戦争と新聞 講談社学術文庫それでも、日本人は「戦争」を選んだNHKスペシャル 日本人はなぜ戦争へと向かったのか 上 (NHKスペシャル)


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