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10 29
2014

右傾化再考

わかりやすく読みやすい――『昭和史 1926-1945』 半藤 一利



 わかりやすさと読みやすさにおどろいた。名著といっていいのでしょうね。昭和の開戦にいたる歴史を知りたいのなら、まずはこの本を読むべきなのでしょうね。

 ただわかりやすさゆえになんのひっかかりもなく、書評は一文で終わってしまいそうな勢いになる恐れもある本である。批判や違った立場から見る客観的な見方もぜひつけ加えたいところである。

 この本はおもに軍部や天皇、国際情勢から見る開戦史、戦争史といったことになるのだろう。国のゆくえを決めたトップにおいてどのような交渉や思惑がはたらいたのかといった「決定にまでおける交渉史」がおもな場面になっている。この交渉や決定が違っていたら、どうなっていたか、戦争は防げていたのではないかといった歴史のイフを考えられるような視点から捉えられている。

 ここにはとうぜん国民の感情や状勢は大きくとりあげられることはないし、橋川文三のような右翼思想からの昭和史といった視点も欠けている。国民や庶民が後押ししていった戦争史といった視点がない。

 天皇側近・元老たちが「君側の奸」とよばれ、軍部に嫌われて、庶民にも過激派の行動をゆるすようになった経緯もくわしくはない。昭和史にいたる前日譚には庶民の貧窮とマルクス主義の勃興という流れがあったのだが、そのことにもふれられていない。軍部が暴走するにいたる背景といったものが、昭和史に限定されているだけに見えてこないといった面もあると思う。

 国民感情の熱狂と新聞のあおり方を時系列に描いた本に、前坂俊之の『太平洋戦争と新聞』(講談社学術文庫)という本があり、詳細すぎて読む込むことが少々難儀する本であるが、けっして庶民や新聞はだまされたのでも、反対していただけではなく、みずから加担していった側面も強いことがわかるようになっている。戦争のきっかけになった満州事変をいちばん煽っていたのは、新聞と国民である。

 『昭和史』はおもに暴走する軍部とそれに疑念を抱き、押しとどめようとする天皇といった場面が多く出てくる。しかし天皇は昭和のはじめから政治に口を出せないように追い込まれていたし、軍も政治に口出されないような体制が早くも生み出されている。その段階で戦争への道は決まっていたのかもしれない。

 イギリスやアメリカと敵対していった様子もわかりやすく記述されている。西欧がやっていた植民地侵略に手をのばそうとする日本と西欧は敵対するようになり、仲のよかった関係はどんどんこじれてゆき、日本は軍部を中心に意固地や戦闘状態になり、米英に制裁を加えられたといったかたちになるのだろうか。ソ連のスターリンの裏での暗躍もなかなか奇怪である。

 国際政治におけるパワーゲームの中で日本はどのように自ら首を絞めていったかがわかる昭和史になっているのかもしれない。

 昭和の戦争にいたったくわしい過程を知らない人はぜひこの本を手にとると、わかりやすい開戦史が目の前に開けてくる内容になっている。


太平洋戦争と新聞 (講談社学術文庫)昭和維新試論 (講談社学術文庫)それでも、日本人は「戦争」を選んだ重臣たちの昭和史 上 (文春学藝ライブラリー)昭和天皇独白録 (文春文庫)


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