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10 20
2014

右傾化再考

文芸評論家はどうも――『昭和精神史』 桶谷 秀昭

4167242044昭和精神史 (文春文庫)
桶谷 秀昭
文藝春秋 1996-04

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 文庫で700ページにおよぶ大著を読みながら思ったのは、文芸評論家は肌が合わないというか、イメージや感覚がどうもわたしにとっての明晰さをもたらさないということである。この文章、なにいってんだろと思う文脈に出会って、とちゅう飛ばし読みのようなページ繰りもおこないながら、敗戦の最終章が感慨深いもので終わった印象。

 文芸評論家が書いた精神史だからときに文芸論もはさみながら、歴史の「事実史」も追われる。昭和10年代に作家たちは『墨東綺譚』や『雪国』のような自閉的な作品を書いたのかといった章は興味あったが、わかったかのようなわからないような。前線の兵士は戦記物を好まず、美しい山水、日常の物語を好んだようだ。

 基本的にわたしが昭和の精神史に期待することは、明治末に煩悶に落ち込んだ青年たちがマルクス主義に出会い、その後にどうして右翼思想や日本回帰に流れていったのかという精神の内実に迫る書である。桶谷秀昭のこの精神史はその過程をふかく追ったわけではないので、わたしには不満足なものに思えたのだろう。

 冒頭に生田長江の大正末・昭和初期におこなった予言――日本的伝統回帰がおこって急転直下がおこるだろうといったような精神史があげられているのだが、わたしはこの過程にいちばん興味がある。

 外来思想の播種と収穫で捉え、明治末には自然主義と個人主義があった。昭和の初頭にはマルクス主義という播種があり、昭和7、8年ころから日本回帰という収穫がおこったという。日本回帰はマルクス主義と同じ本能の別のあらわれだというのである。こういった精神史をいちばん深く追究したいのである。

 厭世と過激な国家主義は樗牛において一枚のカードの表裏だという指摘がある。隠遁とテロリズムが結びつく、それは大正に明治国家が空洞化していたときに生まれたという。

 大著なのでいろいろな感慨を抱かなかったわけではないのだが、そういった幾箇所か抜き書きもしたいわけではないが、わたしのテーマとは焦点が合っていなかった書というしかない。

 なおこの作品は平成4年に毎日出版文化賞を受賞している。同じようなタイトルに竹山道雄の『昭和の精神史』という本があるが、これは圧倒的な名著だとわたしは思っている。


昭和精神史 戦後篇 (文春文庫)日本人の遺訓 (文春新書)昭和の精神史 (中公クラシックス)知識人―大正・昭和精神史断章 (20世紀の日本)昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)


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