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10 06
2014

右傾化再考

レイシズムの先にあるもの――『人種偏見』 ジョン・ダワー

人種偏見―太平洋戦争に見る日米摩擦の底流
ジョン・W. ダワー
ティビーエス・ブリタニカ



4582764193容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別 (平凡社ライブラリー)
ジョン・ダワー John W. Dower
平凡社 2001-12-10

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 古本屋の100円本でジョン・ダワーの『人種偏見』という本をみつけてラッキーと思い買ったが、これは2005年に読んだ平凡社ライブラリーの『容赦なき戦争』の改題前のタイトルだった。

 いぜんは文明のヒエラルキーという文脈で読んだが、こんかいは戦前の精神史の文脈で読みたいと思っていたので、問題なく再読した。戦前の戦争へのきっかけ、超国家主義へと変貌する基点に、人種差別という要因はどれほどはたらいたのだろうか。

 この本は86年に出版されており、とうじは日米の貿易摩擦によりアメリカの憤激の感情がかなり高まっており、このままいくと戦時中の悪夢が再来するといった懸念上に書かれた本であるということがわかる。

 しかし本文中ではあまりその示唆はなく、えんえんと人種憎悪と人種偏見がこれでもかこれでもかとまくしたてられて、かなり倦む、読むのが疲れる本である。こんにちのヘイト・スピーチの先にはこのような畜生道、地獄があるといった警鐘としてこの本は役立てられるだろうか。

 こんにちでは災害報道で数人、数十人が亡くなるとたいそう気が滅入るのだが、この戦争記述においては、数万単位の人間が殺し合いで殺され、残虐行為、非人道的行為が山のように出てくる。アメリカ人が、日本人が非難できる範疇ではなくて、双方、悲惨の極をきわめていた。一方的非難などできる立場には双方にはあらず、この本ではどちらも公平に目配りしている。

 そういった中でお互いはそれぞれの敵をどう表象し、概念化し、憎悪を増幅させていったかといった内容がおもな軸になる。アメリカ人は日本人を猿や害虫と見なし、全滅や民族壊滅を願うようになる。もはや「人間」の概念ではないのだから、慈悲や情け容赦はいらないという思考になってゆく。

 44年12月に著名な知識人があつまって、「日本人の性格構造」を討議する。パーソンズ、ミード、ベイトソン、エドガー・スノウ、ヘレン・ミアス。そして日本人は未熟であり、不良少年のようであり、原始的であり、集団神経症だとそれぞれがのべた。これをアメリカ人におきかえても同じだろうという内省はまれであった。

 ジョン・ダワーの立場ももちろん次のとおりである。「「日本人」を、他の人種や国民とだけではなく、非キリスト教徒、女性、下層階級、犯罪的な分子といったものと差し換えることができるのである。…つまり西洋の意識に記号化された基本的には決まりきった概念であり、日本人専用のものでは決してなかったのである。」

 われわれはいつでも敵対する他人や集団を、劣等や侮蔑の対象としてカテゴリーづけ、しまいには「人間」の範疇からひきずりおろして、非人間的で残酷な行為や制裁を正当化し、それをおこなってきた。戦時中でも、平時中でもそれはいつでもおこなわれて、自分の内にはそれが絶対的に存在しないとして、敵を糾弾する。ときには内部の人間を排斥するためにそのカテゴリーが適用されて、残酷な感情が爆発される。いつものパターンである。

 対して日本ではアメリカ人は「鬼」と表象することが多く、浄化の対象としてアメリカ人を描いた。鬼は悪魔的な存在でありながら、温情的な面もみせる「神」でもあり、それが戦後の「鬼畜米兵」から「親米」に急転換した理由だとのべられている。

 敵国を描く風刺画で日本人はルーズベルトやチャーチルを悪魔の顔として描いた。アメリカ人は無数の猿として日本人を描いた。

 日本のプロパガンダ冊子でアメリカは、個人主義や物質的欲望によって植民地獲得に走り、そのために世界に修羅道に陥れたのだと非難していた。この憎悪の対極に位置するものは集団への帰属であり、国家へ奉仕することである。この個人主義と集団主義の対立は、日米双方のプロパガンダになり、おたがいを非難するための道具になった。おたがいの美徳は非難の対象である。日米がこういった軸で憎悪と戦闘をおこなっていたとはね。日米が鏡になったんだね。

 この本は敵国の顔や表象がどのようなものになるのかといった像を客観視して、冷静にその愚かさをながめられる高所に立てるようになることを意図して書かれたものだと思う。われわれは憎悪や非難に駆られると、他者や他集団を、劣等や犯罪のカテゴリーに押し込めて、みずから犯罪的、非文明的なおこないや制裁を正当化する行為に駆られる。

 相手は獣や犯罪者であるから、裁いても、葬ってもよいと、みずからも獣や犯罪者になり下がる。いつものパターンである。いつになったら、このレベルから抜け出されるのだろうね。


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