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09 29
2014

右傾化再考

新聞はどのように死んでいったか――『太平洋戦争と新聞』 前坂 俊之

4061598171太平洋戦争と新聞 (講談社学術文庫)
前坂 俊之
講談社 2007-05-11

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 新聞はどのように死んでいったのか。

 時系列に事件や出来事がならべられていて、じょじょに言論弾圧の増してゆく様が描かれていて、経緯がかなり詳細につかめる本である。ただ詳細を極めていて、労作なのだろうが、読みやすいとは感じられなかったが。

 読後感はかなり最悪な気分になった。世の中がいやになるほど、救いのない話に思えた。首を絞められ、逃げ道のなくなってゆくさまが、リアルにつづられている。こんな状態になってもなお言論人でいられるものかと思った。

 こういう軍部による言論統制は物語や映画によって啓蒙されているものをあまり見たことはないのだけど、ぜひともなんらかの方法で知っていたほうがよいと思う。

 でも新聞は一方的に弾圧・統制されたばかりではなく、満州事変のさいは口をきわめて強硬論に賛同したのだし、国連脱退前にも弱腰態度の政府を批判して世論を煽ったし、読者数も数倍に拡大したのだから、一方的な抑圧者というわけにはいかない。そういう態度ののちに軍部に手も足も縛れてゆくのだから、協力者のひとりであった面もいなめない。

 1933(昭和8)年に高橋是清蔵相が閣議で荒木陸相に詰問している。

「世論も国論も今日は全くありはしないないじゃないか。何とか一つ軍部に不利益なことを言えば、直ぐ憲兵が来て剣をガチャガチャやったり、拳銃を向けたりして威嚇する。世論も国論も今日絶対にないじゃないか。言論の圧迫、今日より酷いことはない」



 そして犬養首相が射殺された五・一五事件をもって政党政治と、言論の息の根はとめられた。著者は排外ナショナリズム、軍国主義を煽り、政府の満豪政策の弱腰を責め、軍部の独走を支持したツケがあらわれたのだといっている。

 しかしこういった情勢においても批判をあらわす新聞や言論人もいないわけではない。「大阪朝日」ではテロを弾劾した。

「国家多難の歳、恐怖時代を現出せしめんとする最も憎むべき所業である。…議会政治と政党の形式以外に暴力その他の非法活動によって獲得される政治に対して、国民多数がそれより以上の信頼を払い得ないことは言を俟たないのである」



 「福岡日日新聞」でも批判がおこなわれた。

「もし、かくのごとき要求をいれるならば、これ政党が軍部の手先となり、軍部専制の道具に使われるものというほかなく、軍部のためにデクノボウとなりてまで、しいて内閣を組織せねばならぬ必要は毛頭ない」



 新渡戸稲造は講演でいっている。

「わが国を亡ぼすものは共産党か軍閥である。どちらが恐ろしいかと問われれば、今では軍閥と答えねばなるまい。軍閥が極度に軍国主義を指揮するとそれにつれ、共産党はその反動で益々勢を出すだろう」



 そして新渡戸は新聞で批判され、自宅に右翼が押しかけたりして陳謝したりするのである。

 美濃部達吉や河合栄治郎はこのような世の中でも批判を怠ることなく、それによって追いつめられてゆく。

「暴力の前にいかに吾々の無力なることよ。だが、この無力感の中には、暗に暴力賛美の危険なる心理が潜んでいる、これこそファシズムを醸成する温床である。暴力は一時世を支配しようとも、暴力自体の自壊作用によって瓦解する」



 だれもがテロに震えあがった中で河合の勇気は軍の恨みを買い、著書が発禁となり、翌年起訴された。

 この本は満州事変から太平洋戦争勃発までを追ってゆくのだが、昭和15年は物資の大半をアメリカの輸入にたよっていた現実が記述されている。鉄鋼の70%、石油・ガソリンの80%、工作機械の70%。まともではないのである。それと昭和20年の降伏時点でも海外兵力の70%は中国にいたというのは意外であった。

 戦時体制になると新聞はすべてを軍におうかがいをたてたり禁止事項と照らし合わせないとものを書くこともできない状態になっており、もう死んでいるか、軍の広報機関にしかなっていない。

 反骨精神の桐生悠々は開戦直前に『他山の石』を廃刊に追い込まれ、ガンで亡くなる。

「喜んで超畜生道と堕落した地球の表面から消え去ることを歓迎する。戦後の大軍縮を見ることなく、この世を去るのはまことに残念至極」




新聞と戦争 上 (朝日文庫)大本営報道部―言論統制と戦意昂揚の実際 (光人社NF文庫)そして、メディアは日本を戦争に導いた検証 戦争責任〈1〉ナショナリズムとメディア―日本近代化過程における新聞の功罪


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