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09 22
2014

右傾化再考

私的エゴイズムの延長――『日本ナショナリズム論』 津田 道夫

P923001656.jpg日本ナショナリズム論
―愛国心にたいする羞恥を (1968年)

津田 道夫
盛田書店 1968

by G-Tools


 古本屋でたまたま見つけて、「大衆ナショナリズム」の項までふみこんでいるから読んでみた。1968年(昭和43年)刊で、橋川文三もこの年にナショナリズムの本を出しているから、右傾化の懸念がこの前後に襲っていたようだ。この年は明治百年記念式典など復古調の動きがめだったそうだ。

 著者は社会主義者、共産党員(?)のようで、そういった色調もおおいのだが、さいごの章以外は党内内輪のような話は少ないのでそう読みにくい本ではない。

 著者はさいしょに戦時中のファナティックなナショナリズムが敗戦を機にころりと民主主義、親米に移りえたのかと問いを発するのだが、庶民はたんに物欲エゴイズムの延長でナショナリズムを支持しただけで、敗戦後の奇異は転換は、その物欲エゴイズムの解放でしかなかったといい放つ。そのリアリズムに笑った。

 私的エゴイズムの延長でしかなかったのである。だから企業帰属の意識、企業参加の意識も、ナショナリズムまで数歩の距離しかないと警鐘する。わたしも企業忠誠はナショナリズムとほぼ変わらないと感じてきたので、この容易な転換をひじょうに恐れている。

 戦後から23年後に出されただけに戦時中の記憶もなまなましく、軍隊の人権無視、無法地帯の様相も、私的エゴイズム同様、日本社会のこっけいさがにじみ出ていた。規律がしっかりしているように見えて、内部では無法地帯の私的制裁、気晴らし、復讐、暴力がはびこり、市民も空襲の激化により怨嗟の声をあげ、非合法な投書・落書き・私語がおこなわれ、軍人は公然面罵される光景さえ見られるようになった。ナショナリズムは敗戦を待たずに内部崩壊の過程をさすらっていた。

 大衆ナショナリズムの項では、マイホーム主義と企業活動のありようが分析されるのだが、これが国体ナショナリズムによういに転嫁するエゴイズムであることはわかるだろう。私的エゴイズムを満足させるものとして、ナショナリズムはその延長に存在するのではないか。

 この本のサブタイトルは「愛国心にたいする羞恥を」である。マイホーム主義の中に幻想を偽善を羞恥を感じろという。私的エゴイズムの延長としてのナショナリズムに羞恥を感じろということだろう。たんなる物欲エゴイズムの延長としてのナショナリズム。敗戦にころりと変わったように、エゴイズムが満たされればいいだけのナショナリズム。

 ネットでも著者の評は少なく、この本が今後読まれるべき本であるかは微妙なところかもしれない。


侵略戦争と性暴力―軍隊は民衆をまもらない日中韓を振り回すナショナリズムの正体ナショナリズムの現在――〈ネトウヨ〉化する日本と東アジアの未来新・現代思想講義 ナショナリズムは悪なのか (NHK出版新書)ナショナリズムの復権 (ちくま新書)


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ナショナリズムは当為
ここでは、ナショナリズム(国民国家主義)は「脱国家主義」に対する概念と解釈します。脱国家主義にはコスモポリタニズム、市民社会主義、地球市民主義、グローバリズム、共産主義世界同時革命、アナーキズム等が考えられます。両者を対比して考えた場合、早晩ナショナリズムは消滅して、「脱国家」が実現すると単純に考える人が少なくありませんが、果たして、そうなるのでしょうか。



ナショナリズムは情意に偏重しており、脱国家主義は知に偏重していて、どちらか一方のみでは決して成り立たないもので、両者は重層的に共存するものであり、それ以外にはあり得ないと思います。知の所産を文明と解し、情意の所産を文化と単純に解してみると、知は、その特性上、飛翔して、一般性・普遍性を求めるところから脱国家、情意は、その身体性ゆえに、地に足をつけて、特殊性・個多性を志向するナショナリズムとなる傾向があると思います。国家とは文明を土壌にして文化という花が咲く処と解することができます。



「知は存在」を求め、「情意は当為」を求めるものです。当為のないところには倫理は成り立ちません。しかし、知(純粋理性、悟性)は倫理を決する資格がないにも関わらず、錯覚して、情意を越権し支配しようとするところに深刻な問題が出て来ます。



一国内のナショナリズムと脱国家主義のバランスは、国際情勢によって変るものですが、健全なナショナリズムは、両者のいずれかに極端に偏らないバランスの取れた状態だと思います。



私たちに知・情・意のバランスのとれた人柄・人格があるように、国家にも「国柄」というものがあると思います。
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