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09 08
2014

右傾化再考

陥穽に陥らないために――『ナショナリズム』 浅羽道明



4480430512ナショナリズム: 名著でたどる日本思想入門 (ちくま文庫)
浅羽 通明
筑摩書房 2013-05-08

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 この本はおそらく2004年に小林よりのりの『戦争論』の影響でちくま新書から出され、2013年にちくま文庫から文庫化されている本だ。

 こんかい電子書籍版で読んだが、おそらくかつて読んだことがあると思う。いぜんはどんな文脈で読んだか忘れたが、こんかいは昨今の右傾化の懸念から読まれた。国家の自尊心はどうしたらいいのかという半ば暗澹たる気持ちからである。これまでの歴史観は自虐史観とおとしめられ、排他的な自画自尊の国家観が再興しようとしている。

 小林よりのりは個人で自尊心を立てられない者は集団賛美でいいのだといった国家主義の肯定の気持ちをもっていたらしいが、わたしは個人主義のアナーキー主義の心情からは離れられない。どうすればこの国家再興の流れに抗することができるのかというげんざいの思いから、この本になにかインスパイアされたものがうけとれたとは言いがたい。

 本の内容は近代の国家意識のない人たちから、国土のナショナリズムを打ち立てた志賀重昂の『日本風景論』や三宅雪嶺の『真善美日本人』などの戦前の思想家までさかのぼった本である。

 興味深いのは戦後のナショナリズム、本宮ひろ志の『男一匹ガキ大将』の大衆ナショナリズム、能力主義・官僚批判の司馬遼太郎の『坂の上の雲』の経済ナショナリズム、村上泰亮ほか『文明としてのイエ社会』の会社ナショナリズムを分析した章だろう。われわれ一般人が知らずにつちかってきたナショナリズム、国家への貢献主義を再確認させてくれる。

 基本的にわたしは戦後の会社主義すら国家主義にすぎないではないか、この心根をやめないかぎり戦争や国家主義の道はふせぎようがないという立場なので、一般人の会社主義や大衆ナショナリズムすら戦争への途上だと不気味に思っている。たいていの人はスポーツ・ナショナリズムや会社主義はいいじゃないか、楽しんだり当たり前といった姿勢に思えるのだが、戦後の人はあんなに戦争反対の立場と国家称揚の不快感をもってきたのに、この二律背反のすがたがどうも解せない。ナショナリズムの根幹、心根をぜんぜん捨てていないではないか。

 2004年のナショナリズムは萌芽のようなものだったかもしれない。それから十年後のいま、ヘイトスピーチは巻き起こるわ、格差からずり落ちた者がネトウヨに走るといわれているわ、とうとう戦後レジームの脱却を説く「日本会議」に占領された内閣まで組閣されたわ、悲惨さはいや増すばかりである。右翼はただの暴力団ヤクザと変わらなかった時代とまるで異なった、さまざまなところから国家的な心情がわきあがる時代である。

 経済大国的な自尊心が地に墜ちて、国家的な自尊心を再構築しないと人々のアイデンティティを支えきれない時代に突入してしまったのかもしれない。戦前の失敗を知っているはずなのに、どうして元来た道へ戻ろうとしているのだろうか。それとも元来た道と違う道を選んでいるのだろうか。

 どのような問いを立てれば、誤まった道への陥落をふせげるのだろうか。


新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論新装版 日本風景論 (講談社学術文庫)真善美日本人―付・偽悪醜日本人 (講談社学術文庫 (684))男一匹ガキ大将 第1巻

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)民族とナショナリズム〈民主〉と〈愛国〉―戦後日本のナショナリズムと公共性ナショナリズムの生命力ナショナリズムの世俗性と宗教性


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