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09 04
2014

日本崩壊80年周期説

だれでもないただひとりの私と他者を求めて――『不可能性の時代』 大澤 真幸

4004311225不可能性の時代 (岩波新書)
大澤 真幸
岩波書店 2008-04-22

by G-Tools


 たいへんスリリングな謎解きの興奮とたのしみを味わさせてもらった良著である。解読と理解のひらめきに出会えることの喜び。戦後社会の解読をここまで濃密に楽しませてくれる本はそうなかったと思う。

 戦後の時代区分を「理想の時代」、「虚構の時代」、「不可能性の時代」とより分けて、それぞれの時代の特徴に迫ってゆく。

 たいへんに示唆に富む目を見開かせてくれる良著であるのはまちがいないと思うのだけど、この本を読んでいるときは思考の道すじについてゆき、謎の解読にひざを打つのだが、本を閉じてしまうとどうも現実との接点・整合性を見つけられないような気がした。

 つまり草のなかをより分けるような「虫の目」で論考がすすむのだが、「鳥の目」のような鳥瞰的な位置づけが見えない。というか、オタクや大きな犯罪事件だけの分析をおもにして、時代の分析をできるのかという思いがむくげてくる。

 観念やトピックだけを結びつけて、おおぜいがそこで息づいているだろうビジネス社会の大多数の動向といったものがはぶかれており、それで戦後史を描けるのかという欠落を感じる。ふつうの意味での歴史・出来事史といったものがここでは主役ではないのである。

 理想の時代、虚構の時代というのはそうおおげさなことではなくて、高度成長期に邁進した時代と、アニメやアイドルに夢中になった時代の区分けということで、そう斬新な切り口ではないはずなのだが、そういう身もふたもない接点をあまりあらわしてくれない。

 オタクとか不可能性の時代で追い求められていることはなにかといった問いに集約できると思うのだけど、虫の目の論考ではそういう鳥瞰がはぐらかされる。

 不可能性の時代ってなんだとなると、けっきょくは、大量生産時代のだれでもありえた規格品の取替え部品でしかないわれわれが、どうやってかけがえのない、取り替えの効かない「唯一性」のわたしになり、ただひとりの恋人や他者と出会うのかといった話に思える。

 だれでもないただひとりの自分と、だれでもない恋人や他者にめぐりあいたい、そういった欲求を追い求めているのが虚構や不可能性の時代ではないのか。

 オタクは他者を徹底的に排除するが、自分の趣味と似た同類だけをはげしく求めている。家族もこの人でなければならないという絶対性の関係でもない。それで前世のソウルメイトが求められたり、インターネットで同好の者を探す。だれでもないただ一人の他者と自分。大量生産の規格品的人生からの脱却を求めているということではないのか。

 反復や無限ループに閉じこめられる多くの作品がとりあげられて、終わりの宣言が遇有性を必然性へと転換する魔術のようなものだといっている。われわれの社会は終わりを確定すること、決着をつけることに特別の困難をおぼえている。必然をひきうけるには、全的な破局をもたらすこと、これが求められているのではないのか。

 現在を破局として捉えることによって崇高性や超越性を確保できる。悲惨な破局が迫っているとき、威厳を保つ者がいるとすれば、その威厳は絶対性をもつことができる。なんだか黙示録的な予言になるのだが、必然性・絶対性を求めたわれわれは、最終的にはカタストロフィーをひきよせてしまうのだろうか。

 日本の80年周期のカタストロフィーというサイクル論にわたしはこだわっているのだが、必然性を求めたあげくにわれわれの社会は壊滅をもたらされるのだろうか。


夢よりも深い覚醒へ――3・11後の哲学 (岩波新書)現代社会はどこに向かうか《生きるリアリティの崩壊と再生》(FUKUOKA U ブックレット1) (FUKUOKA Uブックレット)国土論時間ループ物語論ウェブ社会の思想―“遍在する私”をどう生きるか (NHKブックス)


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