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09 03
2014

右傾化再考

凋落の断末魔――『日本人はなぜ世界から尊敬され続けるのか』 黄 文雄

419893830X日本人はなぜ世界から尊敬され続けるのか (徳間文庫)
黄 文雄
徳間書店 2014-05-02

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 嫌韓嫌中本とおなじように書店で多く見られるようになったのが、このような日本礼賛本。

 経済大国としての自尊心の凋落が末期症状だという気がする本である。ここまで露骨な礼賛本をかつて見たことはなく、礼賛本にしても科学的な装いをしていたり、自尊を抑え目にしていたように思うのだが、ここにきてなりふり構わない自尊心の栄養補給が必要になってきたことが見てとれる。

 経済大国の自負心は完全に壊滅したとみていいだろう。凋落するいっぽうの経済大国の自負心はなにかで穴埋めされなければならない。そういった衝動がこういった本にあらわれ出ているのだろう。

 謝罪や罪深い日本というアイデンティティは、経済大国の凋落によって耐えがたいものになり、自尊心と悪くない日本という国家像が必要となったようで、歴史像の修正や転換がひたすら求められているようだ。

 わたしはここに「戦後の終わり」を見るし、「戦前」といわれる時代ははじまったのではないかと思う。日本がふたたび尊大で放漫な国家像を抱かないように警戒が必要なんだと思う。

 内容としてはひたすら西洋人の目による日本のベタ褒め論が集められている。「日本スゲー、すばらしい、誇らしい」と思わせる言説ばかり。もちろん誇大や捏造はないと思われる引用だと思われるので、そのへんのあやしさ・いかがわしさを心配する必要はない本だと思う。

 日本は自信や自尊心をとり戻す必要があるというのはそのとおりだと思う。下り坂をすべり落ちるだけでは、劣等感と未来の悲観がいや増すだけである。ただ賞賛や礼賛の一面だけ見て、批判や欠点の面をまったく見なくていいのかという危惧は残るし、たとえ日本人が褒めたたえられようが、この本を読む個人としてのわたしは、この賞賛にひとつも貢献・関与しているわけではないことは謙虚に認めるべきだと思う。

 国家と個人は同一ではない、国家がいくら勝利しようが、評価されようが、個人の幸福や安寧と同一ではないと気づく人が増えたからこそ、戦後の経済主義一辺倒に距離をおく人が増えたのだろうし、明治の富国強兵でも日露戦争のピークを境に国家の繁栄と個人の幸福は重ならないことに気づかれたはずである。戦争の悲惨な結果も、多くの人に国家の戦争に反対する人を生んだし、国家と個人の幸福を分離しようとする人を増やしたはずである。

 そういった反省が、この自尊心の復興衝動によってかき消されないことを願うのみである。劣等感と悲観視から逃れようとする人はやみくもな誇大と尊大さに呑みこまれて、分別を失いそうで恐いのである。

 日本はこれからバランスのとれた自尊心をどうやって再興するのかという課題をスタートすることになるのだと思う。世界でどういった役割を担い、世界での評価を得て、自尊心を満足させる国家のポジションを描いてゆくのか、そういった分岐の時代に入ったのだと思う。グランド・デザインはまったくないのだが、凋落するいっぽうの国家像からはそういったうめき声が聞こえてきそうだ。


世界から絶賛される日本人: 日本人だけが知らない (徳間文庫)日本が戦ってくれて感謝しています アジアが賞賛する日本とあの戦争だから日本は世界から尊敬される (小学館新書)イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか (新潮新書)日本はなぜアジアの国々から愛されるのか

かつての日本礼賛本
ジャパン・アズ・ナンバーワン新装版 日本風景論 (講談社学術文庫)武士道 (岩波文庫)茶の本 日本の目覚め 東洋の理想―岡倉天心コレクション (ちくま学芸文庫)代表的日本人 (岩波文庫)


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戦前みたいに外国に迷惑かけずに自滅すればいいんですけどねえ
自尊心と被害妄想を膨らませて戦争するくらいなら、自信過剰・自意識過剰な没落国家として恥をさらす方がまし

外国への迷惑という発想も既に自意識過剰の現れかと
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