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08 06
2014

右傾化再考

昭和9年の共産主義者への異常視鑑定――『思想犯罪の諸問題』 菊地甚一

sisouhanzai1.jpg  『思想犯罪の諸問題』 菊地甚一
 日本犯罪学会出版部
 昭和9年 1934年


 近デジでダウンロードして読書である。大正・昭和の精神史をうきぼりにしたいと思ったら近デジは宝の山なので、この一般ウケしそうもない近代思想の書評をいつまでもやめられそうもないw この時代は現代とそっくりな合わせ鏡だと思っているので、将来を占う意味でこの時代の精神を追うことがやめられない。

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 近デジはKindleでダウンロードして、上図のようなすこし印刷のつぶれた活字を読んでいる。Kindleやタブレットなら、PCではむりな、どの地点からの拡大もできるから、必携。PDFリーダー・アプリも赤ラインを引けるから、ほぼふつうの読書と同じクオリティで読める。


 この本を読んだのは、大正・昭和期において社会主義運動というのはどうしておおくの検挙者、獄死者を生むような弾圧、思想統制がおこなわれたのかという疑問からである。こんにちではそのような本を書店で見つけることはほぼできないようで、思想が弾圧された時代の教訓を得られないということは残念である。

 大正時代はソ連革命がおこって米騒動がおこり、戦後恐慌が農民や都市民を襲い、貧困や格差に打ちのめされた時代であり、そういった時代に労働争議や社会主義運動、富豪や政治要職者の暗殺がひきおこされる、未曾有の「国難」にさらされていた時代である。

 大正デモクラシーという前向きなイメージでとらえられることが多い時代なのであるが、橋川文三によると為政者は政権の自信をうしなっており、維新に匹敵するほどの危機感を抱いていたという指摘がある。だからこそ、社会主義は政権打倒をくわだてる脅威として、弾圧されたのだろう。それほどまでに政府為政者は自信と信念がゆらいでいたのではなかったのか。

 このような国内騒乱があったこそ、昭和初期の軍国主義にのりださざるをえないという政権側の事情があったのではないのか。この国内危機が襲ったがゆえに、のちの軍国主義はその打破策として頼らざるをえなかったのではないのか。溺れる者のワラに思えてくる。

 この本は「日本犯罪学会出版部」というおそろしい出版社から出されている。目次は以下のようなもので、「精神病学的考察」という章があるように、社会主義思想をもつことは「精神病理」とされていたのである。どうもこの著者・菊地甚一という人は戦前の犯罪心理専門家だったようである。

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 この本でよくわかったのは、社会主義と共産主義の違いである。社会主義は議会政治によって改革をなそうとし、生産の手段だけ所有するが、共産主義では議会政治ではなくて暴力的手段で政権をとるしかなく、私有財産もみとめないといった違いがあるそうである。あくまでも昭和の犯罪と決めつけたころの認識であるが。

 心にのこる記述は検挙者がどうして「赤化」したのかといった生育歴であったり、巻末にある監禁によって精神異常をきたす者への記述であったりする。とくに中本たか子というプロレタリア文学者から左傾化した女性の観察・供述の内容がおおく割かれていて、牢獄に入れられて異常者あつかいされる当局の視線がよく感じられた。

 この著者からはむろんときの政府の危機感、焦燥感といったものはうかがえないのであるが、思想や学問といったものを弾圧しなければならなかった政府の余裕のなさや度量のすくなさ、民主度の度合いといったものが透けて見えるだろう。

 じつはこの時点で明治政府はいったん大きな改革を迫られていた、明治維新のような大改革が民衆に必要だと思われるほど追いつめられていたと捉えることが大事なのではないかと思う。だからこそ後のカタストロフィーをまねいたのではないのか。

 こんにち軍国主義の大きな後悔のためにうしろからの視点でしか見えなくなっているが、その地点にいたった精神の流れを再現することの意義のほうが大きいのではないかと思っている。現代は、その精神の流れのミゾにぴったり落ち込んでいるように思えるのである。


明治からの社会主義を描いているよう。


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