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07 14
2014

右傾化再考

大富豪が暗殺された大正10年の本――『黄金王の死』 米山隆夫

        ougonou.jpg  『黄金王の死』 米山隆夫


 大正10年(1921年)に一代で巨富を築いた安田財閥の当主・安田善次郎が暴漢によって暗殺された。その大正10年に出された本を近代デジタル・ライブラリーでダウンロードして、キンドルで読んだ。

 近デジは印刷ボタンで20コマずつダウンロードできる。キンドルは随意の場所で拡大ができるから、PCでの無骨な拡大しかできない機能とちがって、PDFの一ページずつの閲覧ができて、近デジ読書に最適。

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▲暗殺された大富豪・安田善次郎


 大正10年という年あたりは、橋川文三によると、「国家衰亡の危機」や「維新以来の未曾有の大騒擾」といった危機感が日本をおおっており、この大富豪の暗殺事件がその後の日本をかたちづくるターニング・ポイントになったようだ。

 大正6年、1917年にソ連革命がおこっており、日本でもその後、米騒動や戦後恐慌がおこり、格差や貧富の差といった不平等が問題になり、社会主義革命の気運がみなぎっていた。この革命気運を政府は徹底的に弾圧するのだが、そのことによって政府や軍部は誤った道にすすんでいってしまったのではないかと思う。

 その嚆矢となるのが、朝日平吾という世俗での成功を勝ちえなかった大陸浪人による安田財閥創始者の暗殺事件ではないだろうか。

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▲安田善次郎を刺殺してみずからも命を絶った朝日平吾


 この暗殺犯は、こんにちでいえば池田小学生殺傷事件や秋葉原事件に似ているといえないだろうか。自分の不遇や自殺衝動を、社会の無関係な人にぶちまけて自分の怨念や執念を晴らす。

 大正のような時代背景が違っておれば、社会主義のような不遇者の権利回復・社会革命の夢にかくれて、みずからの正当性を主張できた。だが、こんにちには革命思想もイデオロギーもない。ために衝動的で無目的な無差別事件をおこす。こんにち、それを説明する言葉は心理学的な用語しかもたないのである。

 この暗殺事件以降、おもに右翼思想家を中心に既成権力のトップたる政財界をねらった暗殺事件が頻発することになる。根底には格差や貧困の問題に手を打てない、野放しにしたままの政財界への怒りや怨みがあり、社会主義への革命の意志があった。それが軍部の青年将校などによって実行にうつされていった歴史が、その後の日本を決定づけていった。国内革命が海外戦争にずらされていったというのが、真相ではないだろうか。


 『黄金王の死』という本はその暗殺事件がおこったその年(大正10年)に出された。暗殺された大富豪がケチで社会還元をちっともなさず、みずからの財を貯めるだけの守銭奴・吝嗇家であるという非難がとうじの社会にあったことを伝えている。社会世情としても、大富豪にたいする風当たりはつよいものであったようである。金を使いきれないほど貯めても、死んでしまったらなんにもならないといった教訓もふくめている。

 遺体の引き取り人のなかなか見つからない朝日平吾の経歴もしらべあげられていて、大陸浪人や事業の失敗など不遇な人生の遍歴をたどっている。事業をもくろんでは渋沢などの富豪に金の無心をたのむといった行動をおこなっており、事件当初は安田にそれを断られたことによる衝動的事件だとも報じられた。朝日は死後の処理に何通かの遺書をしたためており、それはあたらない。

 朝日の葬儀は労働組合や支援者が盛大におこない、マスコミが英雄視したために37日後に原首相の暗殺をまねいたとwikiに書かれている。

 暗殺されても富豪は味方されず、とうじの社会主義革命あるいは平等化・富の公正分配を期待する世情があったということがこの本からうかがい知ることができるのではないだろうか。資本主義のひとり勝ち、格差や貧者の怨恨や憎悪が溜まりつづけていた時代だったということができるかもしれない。こんにちの世情といかに似ていることか。


 安田財閥は戦後GHQに解体を命じられたが、こんにちではみずほ銀行や安田生命保険、損害保険ジャパンなどとして残っている(wiki)

 オノ・ヨーコは安田善次郎のひ孫にあたることを知った(オノ・ヨーコって、一体何者?)。ジョン・レノンも暗殺されており、このつながりはなぜと思う。文中でも善次郎の墓前には衆議院議員・星亨を刺殺した犯人の墓があったとか。


朝日平吾の鬱屈 (双書Zero)銀行王 安田善次郎: 陰徳を積む (新潮文庫)成り上がり 金融王・安田善次郎 (PHP文芸文庫)富の活動儲けすぎた男 小説・安田善次郎 (文春文庫)

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