HOME   >>  右傾化再考  >>  卓越した社会精神史――『昭和維新試論』 橋川 文三
07 12
2014

右傾化再考

卓越した社会精神史――『昭和維新試論』 橋川 文三

4062921936昭和維新試論 (講談社学術文庫)
橋川 文三
講談社 2013-09-11

by G-Tools


 昭和の軍国化にいたるまでの明治からの社会精神史、社会心理史といったものをほとんど見たことがない。なぜ軍国化にいたる社会精神を、それまでの時代は醸成していったのか。そういった問いに答えてくれる本に出会ったことがない。

 柳田國男の『明治大正史 世相篇』や色川大吉の『明治の文化』、鶴見俊輔の『戦時期日本の精神史』といった本にもそのようなことは読みとれなかった。

 橋川文三の『昭和維新試論』はそういった問いに答える本で、ひじょうに重要な本だというたしかな手ごたえを感じた。

 ただこの本は時代の社会精神をその時代に特有・顕著なひとりの無名に近い人物をとあげることによって、時代をうきぼりにするようなかたちをとっており、主体を社会精神にとり得なかったことにすこしの限界と魅力減を感じるのだが。

 この本は大正10年、1921年の安田財閥当主の暗殺事件からとりあげており、この事件が社会のターニング・ポイントを画した一事件だと見ている。どうもこの大正年間あたりに「国家衰亡の危機」や「維新以来の未曾有の大騒擾」といった社会雰囲気がおおっていたようである。元老や財界などのこれまでの支配層もそうとうに自信を失っており、このターニング・ポイント時代の舵切りの失敗がのちの軍国化をかたちづくったと思われる。

 1917年、大正6年にソ連の社会主義革命がおこっており、貧者の革命、権力者・富者の一掃といった思想が日本も流れ込んできて、これまでの国権的政府に対する反感や意義申し立てがそうとうに高まっていたように思われる。安田事件以後につづくテロ事件も、既得権力層の一掃という思想をいだいており、この社会主義運動に抗するかたちで政府は皇国主義を喧伝していったことが、誤れる選択肢を導いてしまったのではないかという思いにとらわれる。

 右翼思想はそのお膳立てや源流を提供したが、皇国思想とはまた違ったものではなかったのか。2.26事件をおこした青年将校、思想的影響をあたえた北一輝のえがいたヴィジョンとはまったく異なった軍国化が、その後をおおっていった。政府が社会主義のつきあげを喰らい、やむをえずもちだした皇国思想に国家は導かれていったのではないか。平等化、民権化の政府ではなくて、強権的・圧力的国家を国は選択したのではないか。

 明治32年ころにもすでに青年層において、国家英雄論より醒めて人生問題にうつろうとする兆しがあらわれていた。「人生とはなにか」「われはどこから来てどこに行くのか」といった内観的煩悶の時代がやってこようとしていた。明治34年、1904年に日露戦争ははじまるのだが、明治期のピークころにはすでに国家主義より、個人主義の青年がより台頭しようとしていた。

 橋川文三は国会図書館で日清戦争ころの雑誌などを読みあさっていると、すでに「いかにして成功すべきか」「かくのごとき人物は成功す」といった成功哲学の記事の氾濫におどろいたといっていたが、はたして民衆の多くは国家英雄に胸躍らせるより、個人的利益に邁進していたのではないのか。日本人はそんなに国家主義的だったことがあるのだろうか。

 橋川はこのような個人利益的な志向は帝国主義的心情に転化するといっているのだが、わたしにはいまいちわからない。

 大正年間に国家衰亡の危機感が世をおおい、人々は建設的努力をあきらめ、個人・文化的享楽に身をまかせるか、あるいは一部に国家破壊の言動をもつものもあらわれる。このいくつかの選択肢の中で、社会主義のつきあげ、青年将校のつきあげ、そして違う道を選んだ政府といった分岐点において、昭和の軍国化・皇国化は選択されていった、とわたしには思える。

 国内騒乱を戦争でそらすのは国家の常套手段だといわれるが、そのような道を選んだのだろうか。なかばヤケの結果が出るとしても、やむをえなかった時代要請があったというべきか。

 なお、この本はKindleではじめて購入・読書した。紙本とほぼ違和感なし。物体感のないのは残念、ぱらぱらとめくって全体をつかむ展望をもちにくいのが玉にキズといったところか。


▼中島岳志の問題意識と同じだと気づいたこのごろ。
昭和の精神史 (中公クラシックス)現代史への試み 喪失の時代 - 唐木順三コレクションI (中公選書)血盟団事件朝日平吾の鬱屈 (双書Zero)秋葉原事件―加藤智大の軌跡


関連記事
Comment
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top