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07 07
2014

右傾化再考

時代の節目を告げる重要な本――『時代閉塞の現状』 石川 啄木

B009IXM7C4時代閉塞の現状 (強権、純粋自然主義の最後および明日の考察)
石川 啄木
2012-09-27

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 時代の節目をとらえた重要な本と思ってきたけど、たいしたことを語っているように思えなかったことで残念感を感じた。閉塞状況をうったえたという時代の宣告の重要性はのこるのだけど。

 1910年、明治43年に書かれている。幸徳秋水らアナーキストらが処刑された大逆事件があった年で、日露戦争の勝利の1905年から5年後のことである。青空文庫、アマゾン電子ストアで無料で読める。

 「我々青年を囲繞する空気は、今やもうすこしも流動しなくなった」

 明治43年にはすでに青年にこう思われている。組織は完成にたっし、青年には立身出世の道は断たれている。明治末にこのような閉塞におちいっていた事実が重要なのである。

 大学卒業者の半分は職を得ることができずに下宿屋でごろごろしている。三十円以上の月給をとることもできない。「遊民」というふしぎな階級が増えつつある。かれらの仕事は父兄の財産を食い減らすこととむだ話をすることである。

 こんにちのニートやフリーターのような人々の発生である。明治末の青年に未来の夢が見れなくなっていたことが、歴史として重要な節目なのである。その後、日本がどういう目に転がり落ちていったか。

 「国家は強大でなければならない。ただし我々だけはそれにお手伝いするのはごめんだ!」 教養あるすべての青年がそう思っているのではないかと啄木はいう。

 「国家は帝国主義でもって日に増し強大になっていく。だから我々もよろしくその真似をしなければならぬ。正義だの、人道だのということにはおかまいなしに一生懸命儲けなければならぬ」

 帝国主義というのは倫理観の破綻、欠如と思われていて、その推奨は個人では道徳をうしなった金儲けに推進するのがスジだといった論理を感じとっている。国家が倫理を守らないおこないをしているのだから個人の金儲けも同様でいいはずだ。国家は倫理を代表もしているのである。

 未来を奪われた現状に対して、元禄時代の懐古がブームになったという。それから樗牛の個人主義があらわれたり、宗教的欲求の時代にうつったという。

 この後、大正教養主義や「煩悶の時代」をむかえるのだが、啄木はその先駆精神を感じとっていたことになる。大正の青年は哲学や宗教、教養に人生の煩悶の答えをさがし、「自分探し」の旅にさまよっていた。

 1910年から11年後の1921年、大正10年に既成権力にたいする総抹殺をめざす思想が生まれていて、安田財閥の当主暗殺や原首相刺殺の事件がおこり、政治テロや政治クーデターの時代にむかってゆく。この間、第一次世界大戦の戦争景気があったり、その後1923年、大正12年に関東大震災がおこっている。さぞかし終末観を感じさせたことだろう。

 そして満州事変がおこるのが1931年、昭和6年のことである。啄木の「時代閉塞」から21年後のことである。1936年、昭和11年には主だった政府機関をねらった2・26事件がおこり、軍部が権力を掌握してゆく時代になってゆく。「時代閉塞」から26年後のことである。あとは軍国ファシズムの色にそめあげられた時代。

 時代閉塞を打ち破ろうとした試みは労働争議や社会主義運動といった面でおこなわれた。だが政府は徹底的に弾圧、とりしまり、ときには虐殺や監獄死をまねく非情な制裁をおこなった。

 青年たちのエネルギーは閉じこめられ、そのガス抜き、目をそらすために海外戦争はおこなわれたのではないかと見立てもできる。青年の上昇やポスト希求の道が閉ざされて、行き場をうしなったとき、社会はどういう目にあってゆくかをしめしているように思われる。イスラム圏でいわれる人口急増にたいするポスト要求の「ユース・バルジ」に近いのではないか。

 この明治末から昭和初めにおこった精神の流れは、現代のバブル崩壊以後の失われた20年、ロストジェネレーション、下り坂の時代精神とぴったり符合するのである。だから啄木のこの本はひじょうに注目していた。

 こんにち右傾化やヘイトスピーチによって、一世代前にもてていた経済的自尊心を埋めるかのように「民族的・国家的自尊心」をもちあげようという精神の流れがおこってきた。ますます似てきた時代精神に危機感を感じずにはいられないというわけである。

 立身出世と国家的自尊心を得られなくなったとき、人々や若者はどういった道を経るのか。それを立てなおそうとしたときにわれわれが忌み嫌う軍国化の流れに引き寄せられていったのではないのか。


大逆事件と知識人―無罪の構図文学者たちの大逆事件と韓国併合 (平凡社新書)煩悶青年と女学生の文学誌-「西洋」を読み替えて近代日本と「高等遊民」―社会問題化する知識青年層文明国には必ず智識ある高等遊民あり


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