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07 02
2014

右傾化再考

閉塞の打破をめざした超国家主義?――『現代日本の思想』 久野収 鶴見俊輔

4004120411現代日本の思想―その五つの渦 (岩波新書 青版 257)
久野収 鶴見俊輔
岩波書店 1956-11-17

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 昭和31年(1956年)に岩波新書から出された本である。とうじの価格は100円。

 白樺派、共産党、生活綴り方運動、超国家主義、実存主義といった項目で語られている。ダンスをすることが「アカ」とよばれた時代があったり、明治末から大正はじめにかけて実存主義が紹介されていたことなどが目をひいた。

 わたしの読みたかったことは「超国家主義」の項目で、久野収が書いていて、ほかの章は鶴見俊輔が書いている。

 超国家主義の源流、昭和維新はそれまでの国家機構と明確な切れ目をつくることができなかった。大正10年(1921年)に安田財閥の当主安田善次郎を刺殺した朝日平吾の遺書にはなまなましいまでの既成権力にたいする怒りと憎悪に満ち溢れている。

 こんにちでいえば、ニューヨークの「1%がすべてをもっている」デモに近いかもしれない。すべて清算しなければならないといった思想をもっていた。とうじの人はゴロツキやヤクザもののやった犯行にすぎないと見なしていた。

 その後、首相原敬が朝日や北一輝に影響された青年に刺殺される。2年後の1923年の関東大震災に大杉栄ほか17名が虐殺されたのは、こういう情勢にたいする報復だったのかもしれない。

 伝統国家主義にたいする総カウンターのような思想が、昭和維新あるいは超国家主義の発動にはあった。

 久野は伊藤博文のつくった明治国家の天皇の権威には、「顕教」と「密教」があって、絶対専制君主としての顕教と、制限君主の密教があって、初等教育では断定的な顕教がおしえられ、高等教育では憲法などに制限された君主であることをつげられたとする。

 明治の末には啄木が指摘したように立身出世の回路も固定化して働かなくなっており、上からのすくい上げによって防止してきたカウンター・エリートにたいする抑制も効かなくなりはじめていた。そして外来近代思想も疑念にまとわれ、天皇をシンボルとした超国家主義が爆発しようとしていた。

 天皇への批判や懐疑がシステムの根底をゆるがしかねないゆえに、これの弾圧もしゅうとうをきわめた。学者たちは顕教と密教、タテマエとホンネを使い分けることができず、犠牲者をおおく出した。

 流動性がなくなり、腐敗や権力が固定化してしまった伊藤博文の明治システムを壊そうとした動きが、北一輝や青年たちを駆り立て、超国家主義へと走っていった。天皇の国家から国民の天皇に変えようという思想を表明したものに北一輝と吉野作造がおり、北は社会主義革命、吉野は議会政治をとおした改革をうったえた。

 北はもたない者はもてる者に宣戦する権利があると主張した。太平洋戦争の予言であり、また社会主義の基本的な考え方ではないだろうか。

 久野収は昭和の超国家主義は明治の国家主義に敗北したといっている。国民は経済的破局による国内対立の物心両面の抑圧にたえかね、この矛盾をそらす対外侵略の軍部の方針になびいていったのだと。

 それなら昭和の軍国化は明治国家の末裔になる。この明治への総カウンターが既成権力にのみこまれ、またはすくいあげられることによって、昭和の国家は超国家主義のキメラとして立ち上がったのだろうか。


 精神状況をたどると、大正・昭和と現代はおどろくほど符合している。国家目標の終焉による漂流と下落、流動化の窒息と閉塞。その既成権力を打破しようと立ち上がった北一輝や吉野作造。

 とうじは労働争議や社会主義運動といった現代とは違いすぎるカウンター勢力があった。しかし底流と状況は通底している。経済的衰退にともなう自尊心の衰微をおぎなうかのように民族的自尊心を高めようとする右傾化の流れもあらわれてきた。

 わたしたちは軍国化の時代は知っているが、そこにいたった精神の道すじは知らないと思う。そこにいたった精神の凋落の挑戦を、現代はもう一度受けているといっていいかもしれない。閉塞を打ち破ろうともがいた結果がカタストロフィーをまねいたとするのなら、クラッシュにおちいらないソフトな着陸を見いだせるだろうか。


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