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06 13
2014

書評 心理学

「あなたが見たくないものはなんですか?」――『正義という名の凶器』 片田 珠美

4584124027正義という名の凶器 (ベスト新書)
片田 珠美
ベストセラーズ 2013-05-09

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 タイトルは共感することがらだし、片田珠美という精神科医はネットでなんどか炎上したことがあるので本ではどうなのかという興味から古本で。『他人を攻撃せずにはいられない人』が10万部とか。

 大きな炎上は二度ほどで、ネットでは香山リカとか和田秀樹とか著名な専門家でも妄言ばかりと叩かれる。

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 二本目の記事はフロイトの汎性欲説の解釈を扇情的につかったにすぎないのだけど、ネット住人には「異常性欲者」と叩かれる。一般の人には世の中をしたり顔で説明されることに不快感が強いようである。

 精神医学なんて科学のように実証も再現もされないジャンルなので、妄言や仮説ばかりという批判はどうしようもないと思うけどね。論理的説得性を積み重ねるしかないジャンル。

 この本はそのネット炎上の「私憤」のような応報を書籍にしたようにも見えるのだが、内容の論理展開にはべつに異常でもなんともなく、まとも。

 専門家はすくなくとも専門知識のたくさんの知識量はあると思うのだが、ネット住人はその蓄積と応酬する知識量をもっているのだろうか。すくなくともネット住人の批判は氏ではなく、フロイトに投げつけるものだけどね。専門知識の蓄積に目をふさぐようなことにならなければいいのだけどね。


 本の内容のほうは、正義に名を借りた歯止めのないバッシングへの危機感と警鐘のために書かれている。わたしもこの正義ゆえのバッシング過剰に違和感をもつものだが、本では直近の芸能ネタがとりあつかわれているので残念。

 わたしは犯罪者という悪のバッシングが正当化されたものでも、歯止めのないバッシングには脅威を感じるので、正義の正当化も問題にしてほしかった。戦争では敵攻撃の正当化が必ずおこなわれるものだから、この正統的な正義の懐疑こそ問われるべきだと思う。

 なぜバッシングが過剰になるかの説明には、投影や否認といったメカニズムで説明される。「自分のなかの悪」、「見たくないもの」、「羨望」や「嫉妬」など認めたくないものを他者に認めると、他者を徹底的に叩き、あたかも自分にはないように思うことができる。

 「内なる悪」や「弱さ」、「不都合」なものをぜんぶ他人に放り込んで叩けば、自分にはそんなものはないように思える。そういった心理的否認に他者バッシングはおおいに効用をもつというわけである。ユングの「影の部分」である。

「いじめっ子が否認したいのは弱さである。…そんな欠点など自分にはないと否認したいからこそ、それと同じものを相手の中に見いだすと、徹底的に攻撃することになる」



 『新約聖書』には犯罪者に石を投げられるのは、罪を一度も犯したことがないものだけといわれ、だれも石を投げなくなったという話があるがその逆である。罪を否認したいからこそ、石を投げるのである。

 著者のネトウヨ分析も書かれていて、人生がうまくいかないことを否認したくて、とつぜん脈絡無視の在日批判がおこなわれると。

 「正しい」と思い込む人は、「確信」と「訂正不能」という特徴をもつといわれるが、べつの視点を見ようとしないことが、現実を直視しようとしない現実否認を、雄弁に証拠立てるのかもしれないね。

 人は精神の健康上では現実否認はひとつの機能としてもつべきかもと思うのだけど、だれかを犠牲にするような、だれかを徹底的に破壊し尽くすような否認は現実に適合する手段ではないのは確実すぎる事実である。もっとうまい手段をもつべきなのであり、他者を攻撃しないような相対化とかあきらめの世界観をもったほうがいいのかもね。

 消費社会は可能性や夢を煽って、あきらめさせてくれないことが他者のバッシングを昂進させるひとつの原因となっているといっているけど、知識はその防御策をいろいろと説いているので、哲学や宗教のセラピーに学ぶのもひとつの方策と思う。

 この本に欠けていると思う視点は、正義こそを懐疑する視点だと先ほど書いたが、正義という美名ほど世界の歴史に残虐さとか凄惨さをもたらした言葉はないと思うので、他者の赤っ恥を暴き出すより、正義の赤っ恥をさらしてほしいと思うのだけどね。「正義」と「正しさ」に血塗られた歴史。人は正義の名の下になにをしてきたのか。



影の現象学 (講談社学術文庫)「嫌いな自分」を隠そうとしてはいけない「自分だまし」の心理学正義論の名著 (ちくま新書)正義の偽装 (新潮新書 554)


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