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06 12
2014

右傾化再考

明治維新はどこで失敗したのか――『日本近代化の思想』 鹿野 政直

41UUD3wVU-L__SL500_AA300_131.jpg日本近代化の思想 (講談社学術文庫)
鹿野 政直
講談社 1986-07

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 幕末や明治維新は西洋近代化を切り開いたヒーローたちを輩出した正義の時代と思われているようだが、「ほんとうにそうなのか」といった疑問を思いうかべさせてくれる本。いい本。

 講談社学術文庫では絶版になっているようが、どこかで復刊されるべき、再考に値する本ではないのか。

 明治維新は「上から押し着せに与えられた民主主義」であって、「下からわきあがって勝ちとられた民主主義」ではない。ゆえに「民富民権」路線にならずに、「国富国権」路線になる。

 民衆が自治的に運営する国家ではなくて、中央集権化によって運営される強権的な国家になる。

 「生活本位・住民本位・はたらくもの本位・生命本位」といったものが主体となる国家をこの国が形成しているといえるだろうか。

 そういう意味で、「明治維新はどこから失敗したのか」と問う意味は大きい。著者の鹿野政直は「その可能性がいかに抑えこまれていったのか」といった視角でこの本を書いたようだ。自治や国民主体といった「民主路線」である。

 わたしの歴史知識の少なさや明治初年代あたりの言葉の読みとれなさなどで、この本を噛みくだけたとはとてもいえないのだが、この本にはもっと吸収すべきたいせつな知識がつまっているように思われた。

 似たような史観として、色川大吉をあげられると思うのだが、色川大吉の民衆史観はすこしイデオロギーかかった偏りが感じられたのだけど、鹿野政直のこの本にはあまりそれは感じられなかった。色川は民権運動を追いすぎて民衆をヒーローとしてもちあげすぎていたかもしれない。

 富国強兵路線は松方財政で決定され、農民の収奪をつうじて国家の蓄積の基本路線は決まったと著者はいっている。街には工場労働や日雇いで搾取される貧民窟が形成され、女工たちの稼いだ外貨は国富に蓄積され、それが軍事化の資金につぎこまれた。

 日露戦争時期において、国民担税能力の限界をほとんど無視したかたちでおこなわれた。「一等国」の」虚名に酔いしれ、大国化・軍事化がおこなわれる中で、国民たちの困窮や貧窮はその犠牲となりつづけた。富国強兵、一等国の栄光・名誉は国民に負担を強いつづけたのではないのか。

 集権化は近代化の効率をたすけたが、国家の圧倒的な優位をも保障したのである。

 「世直しいまだ成らず」の心情がこの本の基底にあって、幕末におこりかけていたそれがいかに抑えられていったのかと問うことがこの本の意図のように思われる。

 民権運動は西欧志向ゆえにめざめたのであったが、それゆえに多くの人たちの生活上の実感をとらえることができなかった。変革の内在的な契機をとらえ損なったのである。戦後のマルクス主義の変革をのぞんだ若者たちも、農地解放によろこぶ農民に改革を説いて支持を得られなかったという話と同じ例を明治に見ることができるかもしれない。

 教育も日本人の国家主義化・画一化をおしすすめるイデオロギーの役割をはたしたのであり、国民の自治・自立を抑圧する方向にみちびいたことも忘れてはならない。自発性にもとづく多様性はそこでは許容されない。

 司馬遼太郎、半藤一利などの歴史観によって、明治の志士たちは偉くて、大正・昭和の指導者たちはおかしくなって「奇胎の40年」を生み出したという説を信じる向きも多いのだが、これは戦後の経済復興をはたすさいに再興を正当化するための都合よいイデオロギーになってきた感がする。

 福沢諭吉はさいしょ朝鮮の人民自身の開花を期待していたが、つぎに顧問として介入することを考え、さいごには軍事力介入による変化の強制を思うようになっている。昭和ファシズムからおかしくなったとされる軍国化の路線は明治の福沢によってすでに構想されていたのではないのか。そもそも富国強兵、植民地主義は明治からの路線ではなかったのか。

 ちなみに福沢諭吉は民衆の一揆を無智文盲の民ほど憐れみべきものはなく、自分の無智で貧困におちいったのに富める人を怨み、徒党をくんで一揆を図り、恥を知らない連中だと非難している。福沢がどの立場に立っているかよくわかる言葉である。

 軍事大国化をめざす明治国家とはげしく対立した内村鑑三は、大国化が軍事階級に権力の不当な賦与をもたらしたのではないかとのべる。内村は日清戦争を義戦とたたえたゆえにそれが掠奪戦にすぎなかったことを悟ると、日本人の罪悪を助けた恥辱のうえに明治政府の弁護の任にいっさいあたるまいと誓った。

 わたしの知識のなかでは明治からの歴史・近代からの思想といったものはつぎはぎだらけで、正確な像をもてているとはとうていいえないし、それゆえにこの本の多くの知識をとりこぼさざるをえないのだけど、明治維新は民衆や自治といった下からの民主主義ではなかったという楔は強く残った。


日本の近代思想 (岩波新書)近代日本思想案内 (岩波文庫 (別冊14))近代国家を構想した思想家たち (岩波ジュニア新書)歴史のなかの個性たち―日本の近代を裂く (有斐閣選書)現代日本女性史―フェミニズムを軸として


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