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05 29
2014

書評 社会学

「上昇・東京志向」の終焉――『ヤンキー経済』 原田 曜平

ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体
幻冬舎 (2014-03-06)
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 はてな界隈でひとしきりふってわいたマイルドヤンキー論。「なんだ、ただの地元志向」ではないかと感じて、ネーミングのウソっぽさに不信感を思っていたのだけど、ふとブックオフで手にとってみるとおもしろかったので読んでみた。

 なにがおもしろかったというと、「東京上昇志向のアンチ、終り」を見せつけられたからだと思う。この「マイルドヤンキー」とくくられてしまった一群の人たちはとにかく「地元」から離れたがらない。

「だから、なんで(東京に)行かなきゃならないんですか? だって、僕、加古川の人間ですよ?」。「いや、だから僕、兵庫県の人間なんで、どうして大阪に行く必要があるんですか?」

 「東京・都市志向」がまったくない「地元族」の主張に笑ってしまった。選択肢とすら存在しない都市・中心主義。

 これは「東京上昇志向の終焉」といいたくなるのだけど、ぎゃくであって、むかしから存在していたけど、その東京・上昇志向がゆるくなってしまって、消費のターゲットとして地元族が浮上してきた、可視化されてきたということではないかと思う。

 ほんと大マスコミは「高学歴・都市志向」の人間ばかりとりあげてきて、あたかも「低学歴・地元志向」の人間は存在しないかのような放送をずっとくりかえしてきたからね。東京・上昇志向が弱まって、全国一律の消費市場が成立してしまったことにこの議論の浮上はあるのだと思う。

 このマイルドヤンキー論は、はてな界隈では「地方・ウチの田舎論」に収束したようにわたしには見えたのだけど、大マスコミの時代にはそれすらとりあげられなかった「地元感覚」というものが、個人も発信できるネットによって浮上しただけに思えた。

 このマイルドヤンキーと「名づけられてしまった」人たちは地元の小中学の友だちとつるむことをなによりも重要事項におく。だからこのマーケティングを志向した本において、こういう社交に重点をおいた消費販促をこころがけよと説く。

 だけどこの友だち志向は二十代だからこその行動であって、結婚や育児を境に遠ざかってゆくものではないかとわたしには感じられた。家族ぐるみの交際をいつまでもつづけてゆくものだろうか。

 こういう同調圧力にうんざりして地方や田舎を抜け出したいと思う人はたくさんいただろうし、田舎からの脱出願望が上昇志向の回路につながってきたのではないのか。地元族はその同調圧力をいつまでもこころよいものとして享受しつづけるのだろうか。

 ヤンキーと名づけられるにはもうムリだと思った若者たちの言葉がこの本にあげられている。「ルールは破りたくないっす」、「人に迷惑をかけたくないっす」、「警察に捕まるのは嫌っす」。これはヤンキーとくくるにはあまりにも反抗心が欠如しているだろう。「地元族」でしかない。

 この本は消費者をつかまえるためのマーケティング本なのであって、DQNな家庭環境とか下流とか非正規、地方や人生の停滞といったダークサイドの問題はほぼとりあげられていない。地元族は仲間との「無限ループ」の毎日を志向しているのだが、そこに問題はないのか、いつまでも継続できるものかという深みはないように思われた。

 このマイルドヤンキー論というのは、「上昇・東京志向」の終った地点で、これから社会はどこに向かうのかといった問いの題材に投げ出された材料なのだと思う。「下り坂」の社会において、次世代の人はどこに向かうのか。

 「無限ループ」や「終りなき日常」といった批判からではなく、それを享受し、いつまでもつづくことを願う地元族は、「停滞・下り坂日本」においてひとつのロールモデルとして提供されたわけだが、はたして多くの人はこの舵取りに満足するのだろうか。

 これはヤンキーすらでないと思ったのだけど、ヤンキーの終焉は「上昇志向圧力・強制」といったものが終焉をむかえたがゆえに反抗する敵を失ったがゆえの同じ面かもしれないと思える。ヤンキーというのは上昇志向に刃向かったロー志向主義・アンチ上昇志向をずっとめざしていたのかもね。

 「世界の頂点」をめざしたかった一群の人たちはこのローカルの地元志向の人たちをもう一度、世界競争に組み入れたいという野望をもつのだろうか。そしてそれは可能なのだろうか。


▼マイルドヤンキーのテーマ曲にふさわしい曲なんだそう。


▼郊外論とヤンキー論とつながったところに『ヤンキー経済』はあるのかもね。
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