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03 23
2014

右傾化再考

「頭からっぽ論」にずっこけた――『近代日本の右翼思想』  片山 杜秀

4062583968近代日本の右翼思想 (講談社選書メチエ)
片山 杜秀
講談社 2007-09-11

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 わたしはまったく個人主義的な人間なので、右傾化の心性がまったくわからないということで、右翼思想家の論理とはどのようなものかと批判の姿勢でこの本を手にとる。

 近代の右翼思想家をまったく知らないので謙虚に学べる本であるが、とちゅうからたんじゅんな「頭からっぽ論」に収斂される構成にずっこけそうになった。

「もう思考が止まっていたというほかない。
…うまくいかないなら、保留する。決定的なことは天皇に預けて考えないようにする。もう、ありのままに任せて、考えるのをやめる。考えなくなれば、頭が要らなくなる。
…頭がなくなると、残るのは首から下である。からだである。実際、「中今」状況下の右翼思想は、身体論にはまっていったように思われる」



 宗教批判によく用いられる「思考停止=盲従」の論理こそは、わたしは疑わしいと思っている。考えるからこそパターン的に恐怖に支配されて服従するのが、「こちら側」の服従の実態ではないかと思う。考えたらオリジナル的に批判的になって、服従や盲従をもたらさないといえるのか。考えることは類型的な恐怖に条件づけられることではないのか。

 本のなかばに安岡正篤が大きくとりあげられるのだが、この人の現代の捉えられ方は「歴代首相の指南番」たる東洋的自己啓発家といったところである。この本での役回りは社会改革より、人格陶冶にむかったターニングポイントとして捉えられている。過激な革命家、北一輝や石原莞爾のような社会改革の挫折としての。

 大正末期からはじまった「原理日本社」の思想はまるでこんにちのニューエイジ思想のようである。現代の解決法って、近代の歴史にもおなじように見つけることができて、こっ恥ずかしくなることが多々ある。

「生きて流動してとらえがたいものを、理屈や概念を持ちだして、さもとらえたように錯覚する思想である。
生きて複雑な世界を、ブルジョワジーとかプロレタリアートとか、もっともらしい概念を弄んで、異様なまでに単純化してしまう。そういう思想の害悪が、ありのままを感じる力を曇らせ、日本を殺すというわけである」



 わたしもニューエイジやトランスパーソナル心理学でこのような考えにもふれていたので、この説は納得するのだが、それが右翼思想だとか天皇支持にまわる理論がよくわからない。つまり社会思想まで敷衍しない。

「天皇の存在する日本は何もせずともそのままでよい国のはずで、どこが悪いからいじろうとか、体制を変革しようとか、余計なことを考える必要はないということである」



 著者の片山杜秀はこのような現状肯定の姿勢に、社会変革の挫折と滅亡をみているということだろう。批判的改善の消滅と現状肯定の思想だけがのこる契機をもたらした思想として。これはこんにちでは、自虐史観と自由主義史観という対比で、批判から肯定のすりかわりに同じような類型を見ることができるかもね。

 「いま」「現在」だけを肯定する思想はこんにちでも広範にあらわれる思想になっており、著者は近代にもあらわれたそれを「中今」というタームで、近代思想の流れに追っている。

 老子に影響をうけた伊福部隆彦、禅を哲学理論化した西田幾多郎、そして「俗流西田主義」としての山田孝雄、「事実主義」としての高山岩男といった流れに跡づけている。つまり現在肯定だけがめざされた思想がおおったということである、社会批判、社会改善の欠落をともなった。

 そして「頭からっぽ」論として夢野久作の『ドグラ・マグラ』がとりあげられ、「手のひら療治」や佐藤通次の『身体論』が「脳人間の」の対比としてとりあげられて終章。

 この本は過激な社会改革から現状肯定の思想へ、そして頭からっぽ、身体重視の流れとして近代右翼思想をとらえたかったようである。

 しかし、これはあまりにもたんじゅんな通史ではないかと、そんな「頭脳と身体」というたんじゅんな図式で批判できるものかという思いは、この本の意図がわかってから、完全にとらえられるようになったね。本体が見えて、ずっこけるほどの単純的な批判にむしろ驚いた。

 近代右翼思想をまったく知らない身としては学べることもおおいのだが、この本の骨子、「頭からっぽ」だから危険な隘路におちこんだ近代というストーリーはまるでワイドショー的批判であり、このたんじゅんな理論で満足していいのかと思う本であった。


人生は自ら創る (PHP文庫)天子論及官吏論 安岡正篤新版 合本 三太郎の日記 (角川選書)現代史への試み 喪失の時代 - 唐木順三コレクションI (中公選書)ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)



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ときどき拝見している者です。うえしんさんの労働論、有料でも紙媒体で読んでみたいです。
書評のブログは当り障りのない、主張のない、感想型や単なる知識披瀝型みたいなものが多いですが、うえしんさんのブログは読みごたえがあります。
主張があるため、突っ込みたくなるときもありますが、それがいいんだと思います。
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