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03 15
2014

レイライン・死と再生

フロイトの汎性欲説をこえた古代イコン――『魔女はなぜ空を飛ぶか』 大和 岩雄

4479750339魔女はなぜ空を飛ぶか
大和 岩雄
大和書房 1995-12

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 帯にあるような魔女の宅急便のキキや魔法使いサリーがどうして箒をもって空を飛ぶのかという疑問から読んでもイタイ目に会う本だね。

 性的図像のオンパレードのような本で、出典はおもにギリシャ・ローマ時代から中世ヨーロッパまでで、これらの図像がいかに性的暗喩にみちていたかの例証になるような本。フロイトの汎性欲論を実地にやっていたような時代があったのだということがこれらの図像、美術品からわかる。

 大和岩雄は太陽信仰と性のかかわり、豊穣・豊作信仰のつながりをあぶりだしてきた人だから、この本はそのような追究の中の一連の方向性の中から出てきた本だといえるね。

 中世の魔女弾圧は、古代の豊穣と性の賛歌のような時代から、キリスト教の禁欲思想のうつりかわりの中であらわれてきた現象だといえるだろうね。おそらく豊穣で奔放な性の女権社会から、男性が性の管理と実権をにぎる男権社会に移行するさいに、女性の弾圧と批判化が必要になったのではないかという仮説がおもいうかぶね。

 豊穣な収穫のための奔放な性道徳の社会から、男が女性の性と出産をコントロールしようとして、豊穣と繁栄の大地母神は、魔女のような不吉で不気味な害をもたらす悪魔のイメージに変えられていったのだろうね。

 いわば「性の政治学」がこれらのイメージの変遷にあらわれているのであり、それは女権と男権の争いでもあったのだろうね。

 この本ではそのようなまとめ的なものはほぼなくて、イメージの連想法みたいなつながりばかりなので頭の整理はたいへん困難を感じる。「魔女はなぜ空を飛ぶか」といったタイトルの問いすら明快に氷解できたわけではない。

 図像を見るとローマ時代には男根に羽根のはえたブロンズ像を見つけることができるし、ギリシャでは巨大な男根像をもつ女性、男根が入った壷の布をとる女性には羽根のはえた男根をもっているし、何本か立った男根に木の実をふりかけている女性、十四世紀の絵ではヴィーナスの女陰からはなつ光で騎士たちが戦いをやめており、女性の陰部にカエルが張りついた「呪われた恋人」の板絵といった、まあフロイトの汎性欲説のような性にみちあふれた世界観をみとめることができる。

 このような性的イコンの頻出というのは、性が食糧・穀物の多寡に直結していたのだから、現代の性的規制の世の中には信じられないかもしれない。現代では性は豊穣や豊作をもたらしてくれるものではないのだから。

 魔女はなぜ空を飛ぶのかという問いは、19世紀に黒人奴隷たちの結婚のさい、ふたりが箒をとびこえた儀式に手がかりはあるのだろうね。箒は出産のさいに出入り口をはくものであり、境界をまたぐ道具である。また出したり入れたりする動作も性交的な象徴に近い。空を飛ぶのはフロイトもいっているような「性的エクスタシー」の暗喩でもある。それから文字通り、古代のイコンでは男根に翼がついていた。

 そういうイメージの連想がつぎつぎとつらなる頭の整理をまとめにくい本なのだが、空を飛ぶ性的エクスタシーをもつ女性が、悪魔・魔女とされた禁欲思想の変遷のうつりかわりに、魔女が箒にまたがって空を飛ぶというイメージがつくられていったのだろうね。つまり性的エクスタシーの禁圧が、空飛ぶ魔女に投影されているというわけか。

 箒をもった空飛ぶ魔女というイメージは、性的快楽の禁止・抑圧といった中世から近代にかけての「呪い」がかけられているのだろうね。

 ところでキキや魔法使いサリーの空飛ぶ箒にはどのような意味やエピソードがこめられているのだろうね。これらは性的なかかわり・態度がこめられていたのだろうか。現代ではこのような奥にしまわれてしまった性的象徴によってその態度の作法や文法を学ぶのだろうか。

 この本は魔女と空飛ぶ箒といった問いからは入りにくい本であり、おそらく太陽信仰と性の豊穣神話という問いから入らないとなかなか入りこめず、理解できにくいテーマかもしれないね。



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