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02 18
2014

書評 心理学

「場の倫理」に抗する「個の倫理」――『母性社会日本の病理』 河合 隼雄

4062562197母性社会日本の病理 (講談社プラスアルファ文庫)
河合 隼雄
講談社 1997-09-19

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 自分でも問いたいことがわからないのだが、「男らしさの向かう社会」「女らしさに向かう社会」といったものがあるのではないかとこの本を手にとってみた。タイトルの「母性社会」のみをあつかった本ではなかったので、期待はずれ。

 自由主義は自立、独立をめざすということで「男らしさ」をめざす社会、福祉国家は女性の保護や依存をのぞむということで「女らしさ」をめざす社会といえないかといったことを思いついたのだが、その後との問いの方向がさだめられない。

 この本では「日本人の精神病理」や「日本人の深層心理」、「昔話の変遷」といったテーマが語られている。76年の出版でとうじは登校拒否などの子どもや教育の問題が社会の大きな関心であったことを思い出した。いまはそのような問題が主要関心事になることはなく、日本人の平均年齢が40歳といわれるように、社会もその関心事を年齢構成の大きい層によって動いてゆくのかもしれないね。

 ユングは神話や民話を心理的に読み解こうとしたのだが、いまのわたしは原始宗教としてそれを読み解きたい関心が強いので、どうも心理的解釈がしっくりこない。

 河合隼雄は母性社会的な日本において、「場」の平衡状態にもっとも高い倫理性をあたえるのが日本の特徴だといっている。父性原理は「個の倫理」。「場の倫理」というのはちかごろでいう「空気」を読むことであって、場を維持するために上位の者も抑圧を感じており、「日本ではすべての者が場の力の被害者だ」と感じている。

 「場」の力が強く働きすぎ、「個」を確立しようとすると、「場の力を破るもの」として作用するようになり、だから対人恐怖症の人は「場」や「間」をひじょうに苦手とするのである。学校のクラブではしごきや厳格な階級性があるのだが、集団のために個の否定がおこなわれる。つまり場のために自我がつぶされる動きと、個を確立しようとする自我の葛藤が、場を苦手もしくは恐れることになる対人恐怖がひきおこされるのではないかと河合隼雄はいっている。

 場の均衡は母性原理であり、個の確立は父性原理によってうちたてられようとしているのではないか。場から個を確立することは母なるものの象徴グレートマザーに自我を呑みこまれる力に抗うことであり、母親殺しとして象徴される。

 父親殺しは文化的な一般概念や文化規範から自由になることであり、日本人はいずれもその力に呑みこまれようとしているのではないか。母の呑みこむ力、父の拘束する力、いずれからも独立して殻を破ることができず、個を出そうとすれば押しとどめる力が働き、対人恐怖なり、場や世間を恐れる心に呑みこまれるのではないか。

 ちかごろでは「空気読めない人」が排斥される風潮が正当なものとされる。「呑みこまれる」力に呑みこまれることがまったくの正義や優秀なことになってしまっているので、ますます日本人は個の確立と反対の方向にいっているのではないか。

 場や空気といった母なるものの殻を破れないままで、日本人は合理性や個人主義、自我の確立といった父性原理をスープのような母性原理の海に呑みこまれてゆく一方なのか。そういう空気に流されやすい日本人の危険性は山本七平によって指摘されたことだね。

 しかし自我とはなにかとトランス・パーソナル心理学で、自我の「虚構性」を学んだものにとっては概念の意味がわからなくなってくる。その流派では自我は「思考による虚構の産物」である。自我とは自己賛美と自己価値称揚のための内なるつぶやき・キャンペーンのことである。虚構の価値構築が自我というものなのか。

 河合隼雄の文脈でいう自我というのは集団主義に抗する個人主義のことであって、場とか集団に流されない個人主義をうちたてることが近代の目標であり、近代の成熟ということなのだろうか。つまりは個人主義をいいかえただけなのか。

 なぜ日本人は画一的で無個性、没集団的で個性がないのか、個性を育てろとしょっちゅういわれていたことの心理学的バージョンのことなのか。この個性主張というのはけっきょくは消費社会の倫理に呑みこまれていって、高級品消費やワンランクアップ消費といった資本主義の木クズと化していった。

 集団のなかの個性、ほかの人とは違う、NOをいえる個人主義とはなんだろうね。列からはみ出る人間をとずっといわれつづけてきて、就活のときにはみんな同じスーツで列をはみ出ない。資本主義の大量生産と個性消費の拮抗を、言論面で補強しただけなのか。



父性的宗教 母性的宗教 (UP選書)「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))「空気」の構造: 日本人はなぜ決められないのか「集団主義」という錯覚―日本人論の思い違いとその由来心でっかちな日本人 ――集団主義文化という幻想 (ちくま文庫)


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