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11 09
2013

日本崩壊80年周期説

詳細からみえる大局――『日本の失敗』 松本 健一

4006031343日本の失敗―「第二の開国」と「大東亜戦争」 (岩波現代文庫)
松本 健一
岩波書店 2006-06-16

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 日本の40年ごとの上昇と下降の状況を知りたいからこのような近現代史の本を読んでいるが、わたしのなかにはなぜ日本はまちがったのか、あやまった道におちいったのかというよくある問いはない。もうこのパターン的思考ばかりなぜするのかとぎゃくに問いたいほどだけど、そろそろ違う問いかけのすじ道をつくったほうがいいのかもね。

 近現代史の本はあまり読んだことがなかったから、こういう追求や思考パターンをするのかといった感銘のほうが先に立つね。全体としてのまとまった感想をいだきにくく、個別に印象にのこった部分を羅列してゆくしかないね。

 アメリカが文明国とよばれるようになったのは、1898年の米西戦争に勝ってからだ。日本がそうなったのは1905年の日露戦争からだ。いがいにこのふたつの国の列強入りは近い時代だったようで、あんがい双子のようなものだったといえるかもしれない。植民地侵略するようになって文明国とよばれるようになったことに岡倉天心が疑問をていしている。

 日本陸軍の仮想敵国は日露戦争以後、第二次世界大戦までロシアだった。じっさいの相手は中国であったが、ほんとうの敵はロシアだった。第一次世界大戦のあと、アメリカに転じた。

 北一輝は日米戦争がはじまると敵国となるのはアメリカだけではなく、イギリス、中国、ソ連が加わって世界大戦になると警告していた。これまでの権益がいっきょになくなってしまうから、対米戦争はどうしても回避しなければならないといっていた。

 日露戦争以後、日米間の葛藤は中国の権益をめぐっておこっていると北は考えていた。中国を舞台に日米帝国主義の覇権競争がひきおこされていたのだ。このまま放置すれば、破滅的深淵に突入するだろう。

 石橋湛山は大正9年に書いている。

「欧米の諸強国は、最近の五年に亙る戦争に於いて、疲れに疲れた、ヘトヘトになった。如何なる事情があっても、当分戦争する気はない。然るに強国を以て任ずる国に、戦争をし足らぬものが二つある。米国と日本だ。しかもこの両国は実は資本主義の真盛り期に属し、殊に戦時中、両国の政治を支配せる資本家階級は、経済上の意外なる幸運に接して、さもなくば、数十年でも達し難かるべしと思われる程の大発達を、僅々数年間に成就し、今日はその得意驕漫絶頂に立て踊っている」



 第一次世界大戦の戦争特需が、戦地にならなかった日本とアメリカの資本階級に利益をもたらし、戦争への誘引をたぎらせていたということだね。

 石橋湛山は、大英帝国がその戦略をテリトリー・ゲームからウェルス・ゲームへと転じつつあることを敏感にとらえていたそうだ。テリトリー・ゲームは長い目で見れば、経済的に引き合わず、民族主義的な抵抗もひきおこしやすい。世界はこのようなルールに変わろうとしていたのに、日本は満州に手を伸ばし、世界とアメリカとに衝突することになるんだね。

 もう国際法、世界史のヴェクトルにそむいた侵略であると、世界に認識されるようになっていた。満州事変は「世界大戦によって惨禍を蒙った諸国が樹立した戦争制限と防止の新組織の上に加えられた最初の重大な打撃であった」(スチムソン『極東の危機』)。

 石原莞爾は辛亥革命をみて、中国人は「高い文化」をもっているが、「近代国家を建設する」ための「政治能力」はもっていないと思うようになった。満豪問題を解決する唯一の方策として日本がそこを「占領統治」するしかないと満州事変という謀略を計画するようになった。石原莞爾は中国人の民族的独立、幸福を中国人側にひきよせて考えていたとは意外だね。民族主義者の心根を理解する人だったが、他国にそのようにされる抵抗には気づけなかったようだ。

 満州国はアジア解放の礎石として考えられていたそうだね。農民大衆の熱烈な支持のうえに独立国家をつくり、既得権の返還と援助をおこなうと考えていたそうだね。勤労大衆を資本家政党の独裁および搾取から解放し、アジア解放の原動力になる理想国家がめざされていた。これは腐敗した政党政治に憤りを燃やしていた青年将校たちとの日本での理想の具現化だね。石原は軍中央はこの動きに賛成してくれないと悟り、関東軍だけで謀略を計画し、軍もその方向に思わずひきずられたかたちになったということだ。

 第9章でとりあげられた昭和11年の2.26事件後の議会での斎藤隆夫の名演説が青年将校たちの心理をたくみにえぐりだしている。

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 ▲斎藤隆夫(wikiより)

 こんにちの政党、財閥・支配階級はことごとく腐敗堕落している、これを放置するば日本はかならず滅亡する。日本国家の大改造をやるしかない。北一輝などの本を読んで刺激されたという思想の単純さ。すぐ一部の不平家や陰謀家などの言論を信じ、複雑な国家社会の認識をあやまることが、青年将校のおこした事件の大原因だったと。こういう軍部にたいする批判はこの後、消えてゆくわけだね。

 日清戦争後、ヨーロッパ人はこれほどまでに忠実に国際法を守った国は日本以外にないと驚嘆されていた。日露戦争でも傷病兵を病院に運ぶためのロシア軍の白旗のたびに日本軍はその砲撃をいっせいにとめていた。

 しかし太平洋戦争から聖戦のために「生きて虜囚の辱めを受けず」という考え方に変わり、国際法のかわりに聖戦の大義のために潔く死ね、ということになった。それゆえに敵兵にも捕虜となることを認めなくなる。南京の日本軍ははじめから捕虜をつくらない方針だった。それなのに「投降者」がぞくぞくとあらわれて、始末に終えなくなった。そのために片っ端から「片付け」ざるをえなくなったという。自分たちを縛るルールが鏡のように相手の国に向かっていたことがわかるね。

 以上で銘記しておきたいところの抜き書きは終り。じつに微に入り細にうがち、詳細に入り込んでいる近現代史だね。大局が見えなくなる難点もなきにしもあらずだけど、微少な部分から大局が見えてくるという本でもあったのかな。


最終戦争論 (中公文庫BIBLIO20世紀)国体論及び純正社会主義(抄) (中公クラシックス)石橋湛山評論集 (岩波文庫 青 168-1)評伝 斎藤隆夫―孤高のパトリオット (岩波現代文庫)思想としての右翼


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