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2013

映画評

織田作之助原作・映画『わが町』絶賛――過酷な労働自慢で妻と娘夫婦を死なせた男の半生

 56年(昭和31年)の古いモノクロ映画に『わが町』という映画があるのだが、これは絶賛する。織田作之助原作で、川島雄三監督の作品。

 織田作之助は『夫婦善哉』がなんどもドラマ化されているが、『わが町』という秀作もぜひドラマ化してほしいものである。司馬遼太郎の『坂の上の雲』にぜひぶつけたいね、日露戦争が出発点になっていることだし。

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 大阪の下町の庶民、タアやん(他吉)が主人公で、フィリピンのペンゲット道路で過酷な労働にたえたことを人生の誇りにしている男で、そのせいで妻と、男手ひとりで育てた娘と夫を死なせてしまう。

 ペンゲット道路は2600人の労働者のうち、600人もの人命を事故や風土病で亡くしてしまう難工事。

 いつも子供ができた女を放っておいて、フィリピンに出稼ぎにいくかという人生の選択に娘・孫の二代にわたって迫られる危機に問われる。

 妻は他吉がフィリピンに行って女ひとりで稼ぐ過労にたおれてすぐに亡くなってしまうし、苦労して育てた娘の夫もフィリピンにやってしまい、そこで伝染病で亡くなり、娘もショックで亡くなり、孫娘だけがのこされて、ふたたびもとの状態に逆戻り。

 孫娘も成人して婚約者をつれてくるのだが、こんどの婚約者は他吉のフィリピン自慢に抵抗して、「みんな日本に帰りたかったと違いますか、タアやんを恨んでいると違いますか」とつっかえす。

 そこでしょげかえった他吉はフィリピンでしか見れない思い出の南十字星を四ツ橋のプラネタリウムで見ながら死んでゆくという筋立てである。

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 冒頭のシーンに象徴的にあらわれているのだが、ペンゲット道路の完成から帰ってきた他吉は、日露戦争の凱旋帰国のお出迎えの行列にまちがわれる。これが意味することは、他吉というのはお国のためにたくさんの兵士を死なせた日本のすがたそのものであるということである。

 織田作之助の原作は昭和18年の戦時中なのだが、戦争批判に通じる話であり、また昭和31年の高度成長期前に映画化されたということはのちの労働至上主義、経済至上主義への批判にも重ねられることができる。

 他吉は過酷な労働が自慢で、そのせいで妻、娘夫婦を死なせてしまい、孫娘の夫もまた過酷なフィリピンに出向かせようとしている。同じ過ち、選択の危機をむかえているのだが、他吉はその過ちに気づかずに、妻と同様、娘夫婦を死なせ、孫娘の婚約者まで同じ道を歩ませようとしている。

 だけど、子供のころから他吉に負けない強情だった孫娘の婚約者・次郎は、他吉がペンゲットで労働者を死なせてしまったことを自慢ではなくて、かれらから恨まれるほどの過ちだったと告げられる。

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 まるで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のように過去の同じ過ちの時点につきかえされる。他吉は妻を過労で死なせてしまい、娘夫婦を死なせてしまってもまだ過ちに気づかない。そればかりか、苦労して育てた孫娘の夫婦も同じ道に歩ませようとしている。

 他吉の口ぐせは「人間はからだを責めて働かなきゃあかん」である。

 他吉にはたとえ労働者をおおぜい死なせようとお国自慢のために工事を完成しなければならないと考えている。それが他吉の誇りであり、男や娘の婿もそうしなければならないとフィリピンに追いやり、死なせてしまう。

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 だけどそれに懲りる他吉ではない。また一から孫娘を育てはじめるのである。

 孫娘の婚約者にも同じ道を歩ませようとするのだが、こんどこそは相手がだまっていない。他吉の誇りがまちがっている、死んでいったものたちは他吉を恨んでいると完膚なきまでに批判するのである。

 これは戦争によってたくさんの兵士たちが死んでいったことへの批判であり、戦後の経済主義のなかで労働者が酷使されているということへの批判にみごとに通じる。この映画はまさに日本の目的のため、お国自慢のために殺されてきた労働者・国民の告発の物語である。

 大阪庶民の豪快な男が主人公の物語にみえるのだけど、この姿にダブるのはまさに軍国主義に傾いた日本であり、戦後の経済主義に邁進した日本そのものの姿である。

 男たちを死地におもむかせ、それでいてまだ懲りずに同じ道を歩ませようとしている。そのために夫も妻もなくしてまた娘をひとりで育てることになるのである。同じふりだしにもどっているのに、お国自慢と誇りが忘れられない。

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 孫娘にその過ちを批判された他吉はしょげかえり、たいせつな働き道具の人力車まで失い、ケンカに巻き込まれて、さいご思い出の南十字星をプラネタリウムで見ながら、息をひきとる。

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 大阪下町の豪快な憎めない男が主人公の映画である。悪気もなく、くったくのない、下町の愛すべきただのオヤジである。娘も孫娘もりっぱに育てる。それでもまわりの女性たちや男たちをつぎつぎと死なせて、自分のしてきたことがまちがっているとは露とも思わない。

 明治から昭和にかけての日本はほんとうにこういう道を歩んできた。たくさんの男たちを殺して、妻や子供たちを苦しめてもまだ気づかない。そうしてまた同じ過ち・ふりだしに舞い戻るのである。

 織田作之助の見抜いていた日本の過ちはいつ終わることになるのだろうか。

 この作品は傑作だと絶賛したい。映画のほうはなにをいっているかわからないセリフも多いけど、昭和の知らない作品にこんな深いメッセージのこめられたものがあったなんて。



▼織田作之助の『わが町』は青空文庫で読めます。二編ほどありますが、こちらの『わが町』は初出形式のようですね。専用ソフトで読むのをおすすめします。

 動画のほうはこちらで見れるかもしれません。「わが町 主演:辰巳柳太郎 監督:川島雄三 1956年

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