HOME   >>  書評 小説  >>  文豪の生々しい人生――『名作はなぜ生まれたか』 木原 武一
10 14
2013

書評 小説

文豪の生々しい人生――『名作はなぜ生まれたか』 木原 武一

4569570003名作はなぜ生まれたか―文豪たちの生涯を読む (PHP文庫)
木原 武一
PHP研究所 1997-04

by G-Tools


 木原武一はずいぶんむかしに『続・大人のための偉人伝』とか『孤独の研究』などを読んだことがある。とくに哲学者等の生涯を紹介した『続・大人のための偉人伝』では、フリーターとして生きたソーローの人生をはじめて知ることができて、わたしの生き方に影響をあたえた。

 文学者や知識人の人生を紹介することで人生の指針をあたえてくれる本を書くことが多いのかな。あまり表にはなばなしく出ることはなくて、ひっそりとこつこつと手がたい本を世に出してゆくというイメージかな。

 この本も文豪の生涯を追った本でおもしろかったし、若い人には人生の指針や手本となる人を見つけられるかもね。

「私自身がもっとも関心を持っている作家の一面や、もっとも感動を受けた作品などにスポットライトをあてるという方法である。…この人物は要するにこういう人間なのだ、という、私なりの主観的判断というか独断の開陳である」



 客観的に百科事典的な解説はつまらなくなる恐れもあり、著者がどのように思い、どのような点で感動したのかといった「感情」を中心にした評論のほうがいきいきしていて、おもしろくなるのだと思う。文豪の生き方、生涯といった面が血沸き肉踊るといった感じで表現されているのではないかな。

 著者は41年の生まれで、学生時代にはサルトルやカミュが流行っていて、文芸サークルで夜が明けるまで熱っぽく議論をたたかわせる時代があったという。二十数年あとに生まれたわたしには文学を語っていいという雰囲気はさっぱりなかったのだけどね。

 著者は夜を徹しても語り尽くせない作家はドストエフスキーではないかというほど熱中している。感情描写が誇張され、形容詞はいっそう高ぶったものに書きかえられ、田舎のささやかな出来事が異様な雰囲気の物語にすりかえられる、といったドストエフキーの文章は、この演技クサさ、過剰さといったところで、わたしはニガテだったのだけどね。

 トルストイは「ものごとを軽く考えるということができない人間だった。すべてについて深刻に、それも徹底的に考えずにはいられない。そして、考えれば考えるほどわからなくなっていく。そのうえ、自分を思いどおりにコントロールすることができない」と書かれている。著者はドストエフスキーの熱情にうなされているのだが、わたしはトルストイの冷静さ、分析・批判のまなざしのほうが好みだな。

 人生の姿勢に関してはチェーホフへの洞察が身にしみる。

「そこでわかってきたのは、だれにもこの世の中のことは何ひとつわからないということである。彼の小説や戯曲のいたるところから聞こえてくるのは、人生の不可解さを訴える言葉である。…千年たったところで人間の生活は今と少しもかわりなく、謎にみちていて、人間はやはり「ああ、生きるのはつらい」と嘆くだろう」



 わたしはヘッセの小説にひかれることが多いのだが、ヘッセは同年代のものたちと同じようにやれなかった。「自分はみんなから絶望的にひき離されていて、自分には生きることが閉ざされていると思っていた」とヘッセはいう。それにたいして木原武一はいう。

「まだそれほど人生の経験がない十代の人間には、自分だけみんなと違ってなぜ悪いのか、と開きなおる自信がないのだ。それで、みんなと同調できないことをあたかも自分の罪であるかのように感じてしまい、親も先生もそのように思いこませようとする。…いちばん大切なのは、自分の心に忠実に生きることだとはだれも教えてくれない」



 学校というところは同調圧力につぶされるのは『車輪の下』でもえがかれているわけだが、その中で自分をへしまげないで自分の生きる道を見つけた人がなんらかの成果をのこせるのかもね。文学者にしろ、金持ちにしろ、人と違った見方を身につけられたから成功したという話も聞くしね。同調圧力に屈した人はだれかのあとをついてゆくだけの道を見つけるのだろうね。

 ヘッセはいう。

「神がわれわれに絶望を送るのは、われわれを殺すためではなく、われわれの中に新しい生命を呼びさますためである」



 この本では文豪の恋愛や情交関係が賛美ともとれるとりあげかたをされているのだが、モーパッサンは「色情狂」とか「好色漢」とあだ名されるほどの男だった。

 しかし小説のテーマは人間への不信と運命への不信と社会への不信、ありとあらゆるものの不信を語っていたとされる。男である自分への不信であり、モーパッサンは自分を信じられなかったのである。「悲しき雄牛」といわれたモーパッサンは自分の色情をコントロールできなかったのだろうね。

 あと、ほかにもたくさんの文豪たちの生涯や生き方が興味ふかく紹介されている。人生の指針や参考になるだろうね。

 ただふつうの人が文学者の人生を学ぶというのは、職業の性質が違いすぎることもありはしないかとは思うんだけどね。ふつうの職業につく人が人生の胆汁をしぼりだすような才能や技能を必要とするかという。自我の誇示という職業作家の性質も普通の職業にはよけいなものだしね。


続 大人のための偉人伝 (新潮選書)孤独の研究 (PHP文庫)快楽の哲学―より豊かに生きるために (NHKブックス No.1166)人生を考えるヒント―ニーチェの言葉から (新潮選書)人生に効く漱石の言葉 (新潮選書)


関連記事
Comment
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top