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10 05
2013

歴史・地理

差別と権力――『「芸能と差別」の深層』 三国 連太郎 沖浦 和光

4480420894「芸能と差別」の深層
―三国連太郎・沖浦和光対談 (ちくま文庫)

三国 連太郎 沖浦 和光
筑摩書房 2005-05

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 芸能人といえば、こんにちは世間の表舞台に立つ有名人となっているが、むかしは河原乞食といって差別される身分であった。そういう出自をさぐった俳優の三國連太郎と民俗学者の沖浦和光の対談集。三國連太郎は民俗学に造詣がふかく、ひけをとらない。

 この人たちは差別されること、被差別民といったものにロマンすら感じているように思えるのだが、どうして被差別民にそのようなまなざしを向けるのだろうか。被差別民は権力や支配者から弾圧され、差別されてきたことに権力への対抗や怨念をいだいた存在として、反逆精神の温床としてノスタルジーを感じるのだろうか。

 三國連太郎はいっている。

「やはり時代を主導する精神に疑問を抱き、既成の支配体制の矛盾を批判して、時代のあり方や人間の生き方を、飽くことなき追求していこうとする意欲――それをどう表現していくかという貪欲な意欲が、その時代を生きようとする芸人にとって本当に大事なんですね」



 差別されていた被差別民にいちばんその矛盾と疑問が生まれやすいということなのだろうか。

 沖浦和光が『四谷怪談』の鶴屋南北をずいぶん評価しているのだが、これはただのおどろおどろしい幽霊奇譚の物語ではない。『忠臣蔵』の脱走者・伊右衛門が主人公。

 「生命を捨ててまで主君に義理を立てる必要がどこにあるのか」と伊右衛門は考え直して、悪事にも手を出して生き抜こうとする。立身出世のためには手段を選ばない近代的エゴイストの先駆者としてえがかれている。貞操一途のお岩が古い時代の女を演じ、伊右衛門が武士道の倫理に反逆する男を演じている。

 お岩の亡霊に祟られている場面で、回り舞台がまわって四十七士が討ち死にする場面に交替する。お岩がこんな物語だと知らなかったが、いまだに『忠臣蔵』は正月になんどもドラマ化されるように現代でも会社のために討ち死にするような精神にうけつがれているのだろうね。そういう精神はわたしにはまったく理解できないのだけどね。女の貞操と主君の忠誠心はパラレル、と現代でも通底することをいっていたのだろうね。主君に忠誠を立てないと女に怨まれますよ。

 芸能が差別されたことはこんなことばにあらわれている。筑前の芦屋役者のことば。

「あたしが役者をやめた頃は、まだ芝居の役者は世間から乞食かなんぞのように、さげずまれておったんです。芝居の座を解散にふみきったのも、これが一番の原因ですたい。そん時、あたし達は先祖が役者やったということを、断じて押し隠そうと誓うて、衣装や小道具、書きものなんかを残らず処分してしもうたんです。それは明治三十六年のことでした」



 差別というのは定住の農民を高きにおき、定住しない漂泊民や山人・海人などを最低位におく為政者の都合であったり、また仏教の獣の殺傷の禁止などの戒律によってつくられた位階だと思うのだけど、為政者に決められた差別や階層を人はよく信じる気になったと思うね。動物を殺傷してはならないといっても、ほかの生命を殺して食べる人間がそんなことをいっても飢え死にするしかない、壮絶な「純潔神話」なんだけどね。

 いまでも被差別は声を押し殺して語られたりするのだけど、動物を殺して食べているわたしたちはその根拠を問えるのかと思うね。為政者が都合でつくった「フィクション」より、「事実」と思い込む捉え方がいまも支配的なんだろうかね。

 芸能というのは神霊を招きよせるシャーマンの神事からはじまったといわれる。神を歓待するための芸能であった。それが差別されていった歴史はどことなく神に性を捧げる売春の歴史とも近いものがあるね。芸能はすっかりとさげずまれ、芸能乞食とまでささやかれるのだが、それだけに権力にたいしての矛盾や抵抗、磨ぎすまれた感性といったものが生まれやすいのだろうね。

 権力はどんどん力をもつことが多いのだけど、どこかにそれに抗するもの、歯止めをもつものをもたないと、社会や生命は病み衰えてゆくのだろうね。芸能や芸術は、そういったものの役割を忘れれば、だれからもかえりみられることもなくなるのだろうね。


東海道四谷怪談 (岩波文庫 黄 213-1)旅芸人のいた風景―遍歴・流浪・渡世 (文春新書)「悪所」の民俗誌―色町・芝居町のトポロジー (文春新書)日本民衆文化の原郷―被差別部落の民俗と芸能 (文春文庫)親鸞に至る道 (知恵の森文庫)


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