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09 08
2013

書評 小説

商家はなぜ三代で没落するのか――『ブッデンブローク家の人びと〈上〉』 トーマス・マン

4003243315ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫)
トーマス マン Thomas Mann
岩波書店 1969-09-16

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 商家は三代で没落するという話はたまに耳にする。この『ブッデンブローク家の人びと』は四代にわたる繁栄から没落の過程をえがいており、没落の要因をさぐりたいということで手にとった。

 学術書と違い、そのテーマに対する解答にうめつくされるわけではないので、小説というのはその記述や内容がなにを意味するのかつかみがたいことが多い。だからそのテーマだけに設定された学術書と違い、小説は敬遠していたのだが、しばらく岩波文庫では休刊されていて、ほしいときに見つからなかったこの本が復刊されていることを見て、思わず購入を決めた。

 家系の三代の没落というものは国家や文明の没落とも重なってきて、そのテーマは深くて大きなものだと思う。だいたいは勃興期は目標や理想が高くて猛スピードで成長するのだが、維持や保守の精神が強くなり、しまいには芸術や精神のほうに価値や意味が強く願われるようになり、繁栄力や生活力というのは衰退してゆくというのがパターンではないかと思う。

 日本でも明治からの昭和敗戦までの80年にこのパターンで推移したという見方もできるし、昭和敗戦からげんざいまでもバブル期の絶頂の頂点から衰退・没落してゆくパターンはそのまま80年周期をたどっていると見ることもできる。そういう意味で商家三代の没落は国家の没落、文明の没落にも通じる話だと思われるのである。

 わたしは小説の得意な読み手ではないので、案の定、この作品は登場人物が多くてだれがだれだか、なにがなんだかさっぱりつかめかねる過程をへたw 頭にほとんどのこらないw

 上巻でようやく頭に刻まれてくる話はトーニという令嬢が父がすすめる政略結婚の相手に心底、嫌悪感をしめすあたりからである。ここらから、ようやっとトーニという女性が主役あたりなのかと認識できた。

 正直に父にそのことを手紙でつたえても、父からはその感情を無視され、冷たく受け入れることを手紙でつたえられるのだが、この文面をうけたったときの気持ちがいかなるものか想像できるほど感情移入はできていた。

 トーニはその嫌悪する相手と結婚するのだが、その後の気持ちのありようが描かれないことが、なんとなく違和感を残すね。

 ドイツでは1848年ころに革命があったのかよく知らないが、料理人の女は主人の女にこんなことをつぶやいていた。

「もう少し待っていらっしゃいよ、奥さん、現状はもう長いことはありませんよ。べつの社会秩序の世の中になりますからね。そのときは、わたしが絹の服を着てソファにかけて、奥さんが、わたしの給仕をすることになるから。……(原文ではすべてひらがな)」



 制度にゆたうことの虚をつかれる言葉であるし、ブッデンブローク家が上流階級である事がわかる言葉である。

 トーニは嫌いだったグリューンリッヒ氏と四年間、結婚生活をおくり、子どもまでもうけるのだが、かれに破産の危機がおとずれると父のコンズルはあっさりと財政的援助をことわり、娘を離婚させる。

 破産を迫られたグリューンリッヒ氏の義父に頼りたいじりじりした気持ちがひじょうにつたわってくる緊迫のシーンなのだが、義父はきわめて冷酷に処理する。娘に夫に愛情があるかとたずねるその答えによって父は態度を決める。

「ああ……なんてことをお聞きになって、パパ!……一度だって、あの人を愛したことはないわ。……いつも、嫌で嫌でたまらかったの。……そんなことご存知にならなかったの……?」



 金の切れ目が縁の切れ目を忠実におこなった過程はじつにドライである。そして妻は夫にひとときも愛情を感じず、子どもをもうけるまでの結婚生活をおこなっていたのだが、破産の危機は手のひらを変えるようにこの商家の男の態度を急変させた。金と仕事のためだけの関係が冷淡にえがかれている。


 没落の要因だけをさぐりたいわたしにとって小説の内容はまことにうるものが少なく感じられ、中下巻を読み通すか躊躇していたのだが、ブックオフの100円本で奇跡のように中下巻を見つけることができたので、つづきは読むことになる。衰退とか没落の記述はもちろん下巻まで読まないと出てこないだろうね。

 
▼没落論
日本人はなぜ破局への道をたどるのか ~日本近現代史を支配する「78年周期法則」~ (ワニブックスPLUS新書)西洋の没落―世界史の形態学の素描〈第1巻〉形態と現実と企業文明の没落文明が衰亡するとき (新潮選書)国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源

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