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08 24
2013

書評 小説

ヘッセは仏教をどう理解したか―『シッダールタ』 ヘッセ

4102001115シッダールタ (新潮文庫)
ヘルマン・ヘッセ
新潮社 1959-05-04

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 ヘッセは仏教をどのように捉えていたかという目で読む。西洋ではショーペンハウアーだったり、ニーチェだったり仏教に影響をうけた知識人は多いね。

 「シッダールタ」という仏陀の本名を冠しているから仏陀の人生をえがいているのかと思っていたら、どうも仏陀と同時代を生きた同名の人物が主人公だと考えるべきなのか。

 いちばん目をひくのは沙門の道からぬけだして愛欲と金銭欲の世界にいりびたることである。仏陀の物語として読むとこれはなかなか衝撃。自我を殺そうとして沙門のプライドという自我からぬけだせなかったシッダールタの意図した選択なのか。つぎの文章がいちばんよく理由を語っている。

「彼は常に自負に満ちていた。常に最も賢いもの、最も熱心なものであった。常に衆に一歩さきんじていた。常に知者であり、精神的なものであり、司祭であり、賢者であった。この司祭根性の中に、自負の中に、この精神性の中に彼の自我はしのびこんで、そこにしっかりと根をおろし、のびていった。その間、彼は断食と苦行によって自我を殺そうと考えていた。いかなる師も自分を救いえなかったという、隠れた声の正しかったことを、彼は知った。だからこそ彼は俗世に入って行かなければならなかった。享楽と権勢、女と金にふけらねばならなかった。彼の内の司祭と沙門が死ぬまで、商人となり、ばくち打ちとなり、酒飲となり、欲張りにならねばならなかった」



 かれは賢者や知識人という自我を殺すために愛欲や金銭欲にふけろうとしたのである。それらの中に欲深い自我を見出した。だから墜ちなければならなかったのである。

「「さぐり求めると」とシッダールタは言った。「その人の目がさぐり求めるものだけを見る、ということになりやすい。また、その人は常にさぐり求めたものだけを考え、一つの目標を持ち、目標に取りつかれているので、何ものも見いだすことができず、何ものも心の中に受け入れることができない、ということになりやすい。これに反し、見いだすことは、自由であること、心を開いていること、目標を持たぬことである。おん身は目標を追い求めて、目の前にあるいろいろなものを見ないのだから」



そしてシッダールタは川の渡し守になる。

「川は至るところにおいて、源泉において、河口において、滝において、渡し場において、早瀬において、海において、山において、至る所において同時に存在する。川にとっては現在だけが存在する。過去という影も、未来という影も存在しない」



「「おん身も川から、時間は存在しないという秘密を学んだか」

ああ、すべての苦しみは時間ではなかったか。みずからを苦しめることも、恐れることもすべて時間ではなかったか。時間を克服し、時間を考えないようになることができたら、この世の困難と敵は除かれ克服されはしなかったか。」



 このあたりはわたしは仏教の言葉より、クルシュナムルティやエックハルト・トールの時間についての言葉を思い出した。時間は観念や空想の産物にしかすぎないのだけど、人はそれを現実に存在するものと思ってしまう。そしてその隙間の中から苦痛や恐怖をつくりだしてしまうのである。時間による予防を捨てきれないゆえに苦悩も捨てられない。

 あと、言葉は一面しか伝えることがないといったことはヘッセの慧眼だね。シッダールタの魂が青サギになったり、死したヤマイヌになったり、コイになったり、殺人者の魂になったという話はどう考えたらいいのだろうね。

 ヘッセの仏教理解がどのようなものか、すっかりと流し込まれた作品なんだろうね。


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