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08 09
2013

おすすめ本特選集

創業100周年のおすすめ岩波文庫20選 哲学・社会書篇

 岩波書店が2013年8月、創業100周年をむかえたんだったね。古典・名著をながらく出してくれているおかげで時代をこえた名著と言葉にいつまでも出会うことができるね。これからも出版を維持していってほしいね。

 古典・名著というのは時代に古びず、いま出会っても大きな感動や考え方の転換をもたらす内容を秘めているものだと思う。

 わたしが出会って、考え方をおおいに修整を迫られた岩波文庫の20選。


                    ◆

4003202317菜根譚 (岩波文庫)
洪 自誠
岩波書店 1975-01-16

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『菜根譚』は人生のうちに一度は読んでほしい本。欲望の全開肯定の時代に、欲望の否定と諦観をかたった考え方に出逢うことはそうないと思う。テレビやスポーツ紙だけ見ていたら、欲望に歯止めをかけるという考え方とまず出逢うことはない。だれもが憧れる富や名誉にも苦しみや災いがあることを知っておくことは、欲望や富がかなわないことによって侮蔑される時代の慰めと安堵をもたらしてくれるだろう。


400338041Xキリストにならいて (岩波文庫)
トマス・ア・ケンピス
岩波書店 1960-05-25

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ケンピスの『キリストにならいて』は『聖書』についで世界で二番目に多く読まれたといわれるベストセラー。自己啓発の元祖といってもいい。これをキリスト教だといって敬遠するのは大きな損失。宗教や神を信じるのではなくて、心の平安を得るひとつの方便・考え方を手に入れるという姿勢で当るのがいい。人は人の非難や賞賛におおくの関心・心配事を寄せてしまうのだが、そういう煩いを神への依拠によってとりさる方法論が教えられている。宗教って心を安らげるための方便、ひとつの考え方と捉えるべきだと思う。


4003361016自省録 (岩波文庫)
マルクスアウレーリウス
岩波書店 2007-02-16

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ローマ時代の哲人王の書き残したものが二千年のときをへても読めるのってすごいね。とくに気をつけて読んでほしいのが思考や判断をさしおさえると苦悩や苦痛も去ってしまうという仏教の瞑想観と通じる教えをもっていることだ。思考や言葉がありもしない苦悩をわれわれにもたらすのだ。瞑想の原点の考え方と同じなのだが、仏教はそういう基本の考え方がなかなかつたわりにくいものだね。ほかに「死後の名声」についての考えも超越しているね。


4003363949道徳の系譜 (岩波文庫)
ニーチェ Friedrich Nietzsche
岩波書店 1964-10

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ニーチェの著作はほとんどアフォリズム・断想によって書かれているのだが、この書は論文形式。テーマが拡散しないまとまった読み物。ニーチェは道徳によって人間が画一化・均質化し、凡庸で堕落した「畜群」になってゆくのだと激しく非難した。善や道徳は人のおこないだけではなく、人の質も他者を傷つけないために劣った、より引き下げられたものになるのだと警告した。平等の理想なんてものもそうだね。道徳をなんとなく理想や最高のものと思っている人にはこの陥穽もあるということに気づかせてくれる。


4003411668自由論 (岩波文庫)
J.S. ミル John Stuart Mill
岩波書店 1971-10-16

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J.S.ミルの『自由論』もニーチェの『道徳の系譜』や『善悪の彼岸』でいっていたこととまったく同じことをいっていたと思うのだけど。慣習や規則が凡庸な人を育てる鋳型として役に立つとしても、天才や大いなる個性を持ったものにはかれが育つ環境を破壊してしまう。凡庸なものが型どおりに生きる社会がいいのか、天才が自由に息を吸える社会がいいのか。卑近な例でいえばオタク・バッシングなんてそういうものだったと思う。深さのないものにはその深さは犯罪の深さにしか共通のものを見出せないのだ。奇矯で奇妙なものを排除してゆくとのこるのは凡人ばかりの人畜無害な閉ざされた社会になるのではないか。


400323071X森の生活〈上〉ウォールデン (岩波文庫)
H.D. ソロー Henry David Thoreau
岩波書店 1995-09-18

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労働に疑問や懐疑をもった人のバイブルだね。家だのモノだの豪華なものをもつために、われわれはどうして四六時中働いていなければならないのだろうね。ほんとうにそういうモノが必要なのか。自分に必要なものは閑暇と孤独ではないのか。ソーローはそういう労働とモノを買うことのバカらしさに気づいて、自給自足の生活をいとなんだ。ソーローは日雇いやフリーターとして働いた。元祖ニートのような生き方を望んだ。われわれはソーローのような生き方を勇気をもって選べるか、家庭や富やモノ、将来設計、年金などを捨てて。


4003420810有閑階級の理論 (岩波文庫)
T. ヴェブレン Thorstein Veblen
岩波書店 1961-05-25

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岩波文庫では発売されていたり絶版になったりすることが多いので注意。「有閑階級」というのは富裕者のおヒマのある階級のことで、どうして「見せびらかし消費」がおこなわれるのかくわしく分析されている。わたしたちはどうして必要でもないモノや流行ものの服をたくさん買ったりするのだろうね。こういう言葉で分析された本と読むのと知らないのとでは消費の態度はおおいに変わってくると思う。こういう本を読むと消費の懐疑やバカらしさというものに気づいて、消費の抑制に役に立つと思う。


4003365623幸福論 (岩波文庫)
アラン Alain
岩波書店 1998-01-16

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はじめて読んだとき、ものを考えることが職業の哲学者がどうして考えないことの効用やよさを語るのか腑に落ちなかった。折にふれ、ものを考えない効用を説く。後にわたしはものを考えつづけることがゆううつや悲しみ、恐れなどの感情をつくり、その思考を断てばその感情もなくすことができるという考えに出逢って、アランの説いていた意味がよくわかるようになった。ものを考えることが好きな人にとってこそ、ものを考えないたいせつさが必要なんだろうね。


4003200810陶淵明全集〈上〉 (岩波文庫)
陶 淵明
岩波書店 1990-01-16

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「帰りなんいざ、田園まさに荒れなんとす」 陶淵明は官界への立身出世を断って田園での暮らしに立ち返った四世紀中国の詩人。中国は隠遁や脱俗の思想の系譜をながらくもってきて、日本もおおく影響をうけてきた。欲望を断つこと、分を知ること、心の安寧に価値をおくこと、中国や日本はそういった思想をながらくもってきたはずである。でもいまでは欲望肯定・全開の時代になっている。わたしたちは欲望や夢を追いつづけることが奨励される社会に苦しみを背負わされているのではないか。陶淵明の詩はそういう欲望からの逃避や安楽を垣間見させてくれるかもね。


4003364023宗教的経験の諸相 上 (岩波文庫 青 640-2)
W.ジェイムズ
岩波書店 1969-10-16

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心理学者のウィリアム・ジェイムズのこの本も物質主義に毒されない精神の安楽・高貴さをもとめた人たちがむかしにいたことを教えてくれるね。『清貧の思想』というのはなにも物質や富の否定ばかりではなく、まずもって精神の安楽・高貴さを追求したがゆえに物質に魅力をうしなうのだろうね。宗教というのは神を信じる信じないの論点より、精神に価値をおくか、物質に価値をおくかの判断のほうが大きいのかもしれないね。


400342221X世論〈上〉 (岩波文庫)
W.リップマン
岩波書店 1987-07-16

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リップマンの『世論』はなによりもわれわれがいかに間に合わせのイメージで外界像をつくりだしているかといったこの世の認識のありかたを解き明かしたことに価値があるね。われわれがもっている世界のありかたってたいがい人づてやマスコミによってつくられたイメージ、伝聞情報であって、ステレオタイプや勝手なイメージ、一面的な判断によってつくられたものだね。リップマンはそういうわれわれの歪曲された狭い世界観というものをつきつけてくるね。人は世の中のことをちゃんと認識できるのか、まず反省することがたいせつだろうね。


4003330811大乗起信論 (岩波文庫)

岩波書店 1994-01-17

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「一切の形あるものは本来、心にほかならないから、外界の物質的存在は真実には存在しない」。この『大乗起信論』はおおいなる疑問と謎を心に残す書である。心がはたらかなければ、外界や知覚は存在しないのか。それとも概念や思考の実体化のあやまちを説いているのか。外界や知覚は心がはたらかなければ存在することがないのはたしかだ。しかし心がはたらかなければそれは存在しなくなるのか。すべて虚妄や迷妄なのか。わたしには解けない謎を提出するこの書はいつまでも手放せない。


4003381912シレジウス瞑想詩集〈上〉 (岩波文庫)
A. シレジウス Angelus Silesius
岩波書店 1992-03-16

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絶版の時期のほうが多い本だろうね。17世紀の神秘主義的詩人だが、二行詩なので読みやすい。こういう宗教詩というのは宗教について語っていると読むのではなくて、心の安らかさについて語っているのだと読めば、信者でなくても役立てることができる。いまさらわたしたちはどうやって神を信じるというのか。もはや心理学的方法としか読むことができない。そういう読み方をすれば、どうすれば心が安らかになるのかといったヒントがたくさんつまっている。そういう方便として用いるべきである。


3412900.gifイギリスにおける労働者階級の状態―19世紀のロンドンとマンチェスター (上) (岩波文庫)
エンゲルス
岩波書店 1990-02-16

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社会主義者による書という偏見で読むのではなくて、無心でこの本の中に入ってみると19世紀イギリス人のおかれた貧困や飢餓、労働というものがどういうものだったか、リアルにつたわってくる本である。イギリスはむきだしの資本主義や労働搾取の世界を経験し、福祉や労働法といったものが遵守されない、存在しない労働の世界を生きた。こんにちに働くわれわれだって一皮むけば、このような恐ろしい労働無法と失業の飢餓にさいなまされる冷酷な経済の世の中を生きているのだ。エンゲルスの告発や怒り、警句がものすごくつき刺さってくる本である。


400323152Xどん底の人びと―ロンドン1902 (岩波文庫)
ジャック ロンドン 行方 昭夫
岩波書店 1995-10-16

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ロンドンの貧民街に浮浪者をよそおって潜入体験したジャック・ロンドンのルポである。ロンドン自身はアメリカで缶詰工場や渡り労働をおこなった貧しい労働者階級だったが、このルポでは悲惨で救いもない貧民街の状況や体験をつきはなしたように告発してゆく。社会主義へのパンフレットのような要請から告発の書となっているのだろうと勘ぐるほどの凄惨な状況がこれみよがしに羅列されてゆく。そういうことを割り引いて読むべきだろうが、写真入りのルポはリアルでなまなましい当時のすがたが眼前に見せられるかのような迫真の書になっている。


4003415019窮乏の農村―踏査報告 (岩波文庫 白 150-1)
猪俣 津南雄
岩波書店 1982-06-16

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農村や農業ってのどかで癒される田園風景のイメージがあるのだが、昭和恐慌下の農村の状況を語ったこの本を読めば、農村というものもどんなにカネに追いまくられた世知辛い世の中であるかよくわかる。いまでは農業はだいぶ変わったのかもしれないが、昭和はじめのころの農村の状況が丸ごとわかるようなすぐれた本である。


4003313518女工哀史 (岩波文庫 青 135-1)
細井 和喜蔵
岩波書店 1980-07-16

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ひところ『蟹工船』が読まれたようだが、繊維業で働いていた女工たちの過酷な労働状況をつぶさに報告したこの本のリアルさにかないっこない。私たちは労働者としてどこかの企業に勤めてお金を稼いでいるはずだが、むかしの人たちの労働生活がどのようなものだったか知ることは少ない。先人の女工たちの過酷な労働があったからこそ、こんにちの豊かといわれた日本がある。人柱のような女工たちの労働を見よ。


img_1427737_63420126_1.jpg金枝篇 (1) (岩波文庫)
フレイザー
岩波書店 1966-01

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岩波文庫ではながらく絶版で、ちくま学芸文庫や図説を講談社学術文庫で読めるけど復刊の願いもこめて。この歴史民族学的書物は「なぜ王は殺されるのか」というテーマをめぐって、似たような事例を古今東西からかき集めてくる。そのことによって「王殺し」の神話は世界じゅうで信仰されていたことがわかる。むかしの人や未開の人たちが「原型」として描いていた世界共通の宗教的世界観があったことをおしえてくれる。それは日本でも共有されていただろうし、こんにちでも正月やクリスマスの慣習に顔をのぞかせる世界観ではないのか。わたしたちの世界観・原始宗教の「原型」がここにある。


4003320611荘子 第1冊 内篇 (岩波文庫 青 206-1)
荘子
岩波書店 1971-10

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荘子の世界観にふれることは人間中心の世界ではなくて、天や宇宙という壮大なスケールからの世界観を思い知ることだと思う。こういった世界観にふれないことは金魚鉢の金魚のように生きることだ。また意外にも仏教の祖形となるような考え方も根底にあり、仏教を知るには老荘も欠かせないのではないかと思う。もうスケールや視野がてんで違う世界観。せせこましい人間の近視眼で終りたくなかったら必読の書。わたしの読み方として漢文なんて外国語だから現代語訳の意味だけ捉えたらいいと思う。


4003363221読書について 他二篇 (岩波文庫)
ショウペンハウエル Arthur Schopenhauer
岩波書店 1983-07

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ショーペンハウアーはなによりも新潮文庫の『幸福について』をすすめるのだが、ここは岩波文庫を紹介するところなので、この本を。「一日を多読に費やす勤勉な人間はしだいに自分でものを考える力を失ってゆく」。この一文でじゅうぶんに破壊力のある言葉だね。本を読むことよりもっとたいせつなことがある。それは自分の頭で考えることである。本を読むとはだれかが考えた思考の軌跡をたどることである。自分で考えるというのは先のレールがまったくない空白の道を歩くことである。自分で考えるということが「体験」をもたらす。本を読むというのはだれかの経験を又聞きするようなもの。心したいものだね。


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