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06 18
2013

書評 小説

危機感は共有できなかったかな―『華氏451度』 レイ・ブラッドベリ

4150116911華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)
レイ・ブラッドベリ Ray Bradbury
早川書房 2008-11

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 ブラッドベリの『火星年代記』は少年のわたしに強烈なくさびを打ちこんだ。はじめはTV映画で見たんだけどね。はじめての火星到着に火星人の嫉妬で殺されたり、人それぞれがのぞむ顔に変わる火星人など、神秘的な雰囲気がたまらなくよかったね。

 この『華氏451度』は映画化もされたようだが、見たことはなかったので、「小説強化月間」として読むことにした。

 禁書が焼かれるもうひとつの世界の話だが、わたしとしては本が読まれなくなる危機、本が焼かれる恐ろしさというものにリアリティをあまり感じなかったかな。本を危険視する時代なんていまでは考えられないことだし、本や思想がそんなに危険視されるほど重要な変節や変化をもたらすのかという懐疑もあるしね。

 ブラッドベリがこの本を書いた53年ころはテレビが見られるようになって本や活字が読まれなくなるという危機があったのかな。日本でもテレビばかりが見られるようになって、「一億総白痴化」と叫ばれたりしたものだ。もうそういう声も聞かれることがなくなったひとめぐりした時代だから、よけいに危機感を共有できないのかもしれないね。

 マッカーシズムやマクルーハンのメディア論ブームなどの時代背景があったということだね。

「高い山がポツンとひとつそびえていたんでは、大多数の人間がおじけづく。いやでも自分の小ささを味わわなければならんことになる。といったわけで、書物などというしろものがあると、となりに家に、装弾された銃があるみたいな気持にさせられる。そこで、焼き捨てることになるのだ。考える人間なんか存在させてはならん。本を読む人間は、いつ、どのようなことを考えだすかわからんからだ。そんなやつらを、一分間も野放しにおくのは、危険きわまりないことじゃないか」



「みなに、もっと、もっと、スポーツをやらせる必要がある。あれこそ、団体精神のあらわれであり、人生の興味の中心である。あれをやっていれば、ものを考えることがなくなる。書物には、漫画を増やす。写真を増す。それによって、頭脳の回転を防ぐことができる。こみいったことは考えられなくなるが、それもまたけっこうなことさ」



「国民には、記憶力のコンテストでもあたえておけばいい。それもせいぜい、流行歌の文句。

まちがっても、哲学とか社会学とかいった危険なものをあたえて、事実を総合的に考える術を教えるんじゃない」



 まあね、そういう時代になってしまったのだけどね。べつにそういう時代であったとしても危機ではないと思う。考えたり、懐疑的になることが至上なものだとは思わない。まあ、人生は考えることより、楽しんだり、好きなことをして生きるのもそれでいいんじゃないかな。どちらかというと考えないで懐疑的にならないほうが人生の適応力や世間ウケは高くなるんじゃないかな。

 心配しないでも一定の人は本を読むだろうし、懐疑的に考えたい人は一定数あらわれるんじゃないかな。放っておいても考えたり、悩む人はあらわれる。外側から強制されるものは外面の体裁だけが整えられるだけである。学歴なんて成績の証明になっているだけで、好きな人は勝手に本を読んで、ものを考えるだろう。むかしの人のほうが本を読む人や自分で考える人が多かったとはいえないだろうしね。

 本を読め自分で考えろと外側から強制されると、外側だけ体裁をとりつくろって、好きでも興味あるわけでもない記号や外観だけを着飾る人たちが大量に生まれてくるだけである。能天気に生きていい時代のなかではぎゃくに自由に本を読んだり考えたりする楽しみが好き勝手にもてる余地が生まれる。人生を享楽や楽しみだけで生きたい人はそう生きてもなんら問題はないのではないかな。


火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)モンキー・ハウスへようこそ〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)


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