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06 02
2013

書評 小説

「マニュアルでは小説を書けない」―『書きあぐねている人のための小説入門』 保坂 和志

4122049911書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)
保坂 和志
中央公論新社 2008-11

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 創作作法の本でもあるが、どちらかというと小説論の比重も大きいかな。ものごとを断言するマニュアルのほうがいいという人もいるかもしれないが、創作というのは正解も答えもないのだから、ひたすら逡巡する迷宮のほうがいいだろうね。

 

「マニュアルはすでに”地図化”されてしまっていて、あなたのための地図ではない。

地図を鵜呑みにした時点で、あなたは「小説とは何か?」という問いを忘れているのだから、…」



 新人賞の応募作品にはテクニックもあるし、文章も比喩もうまいという。しかし――。

「みんなそれを使わないことを考えていない。

なぜ小説の中で使われるようになったのか、という起源への発想・疑問を忘れている」



 これはマニュアルであれ知識であれすべてに通じることだろうね。けっきょくそれらに頼ると根本が問われなくなって、表面だけの技巧や糊塗だけがのさばる。根本が問われないと、表面のとりつくろいだけになって、えいえんに自分に必要なものや潮の変わり目に気づかなくなるだろうね。

 では、この本と著者の方法論も同じことである。著者の方法や守っていることもこの著者独自に通じることであって、ほかの万人に適応できるとはないだろう。「ほかの人の創作ルールに出会えば殺せ」が正しいのだろうね。もしそれが使うべきかそうでないか判断できないなら、まだその指針を使ってもいいと拝借させてもらえばいい。


「表現というのは、たえず何か逸脱するものを孕んでいないと、やがて滅んでいく」



 マニュアルはそういう流れの中で、根本の問いにふれないところを浮遊させてしまうのだろうね。

 保坂和志は「テーマはかえって小説の運動を妨げる」といっている。テーマを先に設定しても、物語みずからの運動や衝動というものはテーマとぎゃくの運動に導かれてしまうものかもしれないね。

「すでに社会にある問題を後追いしない、ということ。それらを小説のテーマにするのはとても安易だし、新人賞を狙う場合でも作戦として間違っている。

社会問題を創出するくらいの気構えが必要だろう。せめて「不登校」や「引きこもり」などとマスコミに命名される前にその事象に注目し、みんなに気づかせるために小説にする」



 これはものを書く人には感じてほしいことがらだろうね。マスコミの社会問題なんて三ヵ月後に忘れられている。本を書く人は何年後も何十年後ものこる問題をとらえてなければならない。マスコミの時事問題なんて数ヶ月であっという間に消費されて、のちにだれも省みない。お祭りで時間を浪費したいならつっこむのもいいだろうけど、価値の比重は念頭におきたいね。ブームの収束を見越して、ものを書くべきだろうね。

「小説というのは読んでいる時間の中にしかない」



 こういう著者の小説観は、読んでいるうちは楽しくても、終わるとけろりと忘れてしまうわたしを慰めてくれる言葉だねw

「小説のひとつの理想は、最初に解決不可能と思える問題(ないし対立)を提示して、それを解くことだ」



 問いは疑問をつくり、疑問は疑問をよぶ。解決を提示することはその問いを終焉させることで、とてもむづかしいことだと、問いの迷宮から抜け出せないわたしは思うね。

「自分の書いたものをせっかく書いたんだからという気持ちでかわいがっていてはダメなのです」



 書き直したり、ぜんぶ捨ててしまうという潔さ、判断はよい作品を築きあげるうえでとても大事なんでしょうね。わたしなんて「せっかく書いたんだから」という根性のかたまりだったw

「感傷的な小説は罪悪だとも思う。…その傍観者的態度が罪悪なのだ。

感傷的な小説を書く人は、自分を傍観者の立場に置いておくために、文章の世界にこもるのだ」



 このメッセージは共感をさそうが、ロジックがいまいち納得しにくかったかな。わたしは感情や情感はなんの解決ももたらさないという考え方からくるものだが。

 この本の後半に創作ノートがおかれているが、創作作法だけを読みたい人には必要だったのか。保坂和志のファンや通読者ならともかくね。

 ちなみにわたしは保坂和志の名前は知っているが、小説は読んだことない。

 この本はある個人の方法論として傾聴されても、否定して殺すという選択もうながされているのだろうね。創作に万人に共通の正解や答えなんてないのだからね。創作論や作法論はそれ自体、ひとつの矛盾をかかえこんでいるのだろうね。


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