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04 06
2013

映画評

『シュガー・ラッシュ』はいまの自分に不満な大人のための寓話

 『シュガー・ラッシュ』はゲームの悪役・壊し屋ラルフがヒーローになろうとした物語である。

 これは傑作だと思う。大人には自己啓発に対する物語として楽しめるし、子どもにとってはゲームの世界の向こうにある想像の世界にわくわくできるだろう。(以下完全ネタバレ)

 
 ▲「誰だって"ヒーロー"になれる」という予告CM。その否定じゃないのか。


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 冒頭からグループ・セラピーの語りではじまっていて、これは自己啓発の物語であるとわかるようになっている。グループ・セラピーというのはアルコール依存症などを治すための自助的な集まりで、それぞれが自分たちの悩みを語って共有しあう。

 壊し屋ラルフは悪役を30年つづけてきて、ヒーローの修理屋フェリックスのようなヒーローに憧れる。メダルをとればラルフもヒーローになれるとほかのゲーム世界に冒険をはじめる。悪役というのは仕事や職業のことであり、自分の仕事に満足できない不満をかかえている大人が主人公にされているといえる。

 「自分でないだれかになりたいこと」。

 自己啓発や成功哲学というのはそういうことを語ってきたのではないか。夢や希望というのは、「いまの自分に満足しない、もっと輝いた、認められた自分になりたい、そういう自分になれるはずだ」という願望のことである。自己啓発や夢というのはそういうことを煽りつづけてきたし、社会にも奨励されていることである。

 この物語は悪役ラルフがヒーローになりたいと願う物語で、さいしょからムリなのである。この物語は自己啓発や成功を否定するテーマをもっているのではないか。

 「だれか自分でないヒーロー」に憧れるということは自分の否定のことである。自分にたいする不満や幻滅のことである。この社会はだれか有名人や成功者に憧れて、そういう人間になれ、有名になったり成功しろと煽る社会である。ずっと自分にたいする不足や不満を感じさせられる社会である。壊し屋ラルフというのはそういう社会の成功と自己否定にとりつかれた今日のみんなのことである。

 コインを奪われたラルフは欠陥プログラムであるヴァネロペのレースを助けることによってコインをとりかえすことになる。この少女も欠陥というハンデを背負っていて、悪役ラルフとともに自己否定と自己幻滅にとらわれているだれかである。欠陥プログラムをもっておりレースに出れば故障と見なされ、このゲーム世界が抹消されてしまうためにゲームに出れない少女である。少女はゲームにすら参加できない。

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 ▲ヒーローになりたいラルフとレースに出たいヴァネロペ

 ラルフはこの冒険の結果、悪役の自分に肯定できるような体験を得ることになっているのだが、わたしにはなぜそのような肯定と受容がおこったのか、いまいちわかりにくかった。

 この自分でないだれかに憧れて、自分のゲーム世界から飛び出て、そのふたつのゲーム世界を終了させてしまったのがターボである。こんにちの社会でいえば、成功者や有名人に憧れて外に飛び出した人になる。ゲーム世界では伝説の禁忌譚とされているのだが、結末にシュガー・ラッシュのゲーム世界の大王を乗っとっていた秘密が暴露される。じつはこれ、今日でいう成功のひとつのかたちでないのか。

 この社会での成功者のような人物が悪役にされているのである。欠陥バグにも感染され、奇怪な怪虫のような極悪人としてえがかれる。成功や自己啓発の否定である。予告CMでは「誰だって"ヒーロー"になれる」というコピーだったのだが、この映画はその否定ではなかったのか。

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 ▲成功を求めて大王になったターボは怪虫にえがかれる。

 ラルフは冒頭に出てきたグループ・セラピーの「悪役であることを受容する」という体験を一歩も出ない結末におちつくのである。いまの職業に不満をもたずに受容・肯定しなさいというメッセージではないのか。

 この映画は成功や有名になれという背伸びしたメッセージではなくて、「ありのまま」「そのままである」ことがメッセージされた自己啓発の内容になっているのである。自己啓発にもさまざまなものがあって、大きな成功をめざす成功哲学から、ただありのままの自分を肯定する・受容するというニューエイジまでさまざまなものがある。この映画は自分の職業や役割をそのまま肯定・受容するテーマをもっているわけである。

 大きな成功からただありのままの自分へ。『シュガー・ラッシュ』は子どもたちに大きく背伸びした夢から等身大の自分の受容への変化を、語りつたえるのである。自分を否定するのはよくないが、役割や立場を受容するだけなのもすこし問題だと思うのだけど。

 
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