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03 14
2013

書評 ビジネス書

スキルアップ教を切る!―『なぜ、勉強しても出世できないのか?』  佐藤 留美

4797371161なぜ、勉強しても出世できないのか?
 いま求められる「脱スキル」の仕事術 (ソフトバンク新書)

佐藤 留美
ソフトバンククリエイティブ 2012-10-18

by G-Tools


 かなり手厳しい。著者はスキルアップを煽った記事を書きまくっていたライターで、その狂騒の片棒をかついだ非を悔いる気もちがあるといい、返す刀でばったばった切りまくる。

 わたしは人の努力や向上欲をすべて奪っていいのかという気もちがあるし、著者はいまの現場でがんばることが大切だと説くのだが、スキルアップに励んだ人たちはそこの危機や不満から脱出しようともがいていた人たちではなかったのか。もとの穴ぐらに蹴り戻して解決するのものかと思ってしまうのだが。ともあれ「青い鳥」症候群とおなじ構造だね。

 自己啓発やスキルアップを批判したり、検証する動きもだいぶ出てきたのだが、こういうもうひとつの視点というのはもつ必要があると思う。なにごとにもそれに溺れない批判的視点はもっておきたいものだ。

 著者の言い分をいくつかかいつまんでゆこう。

 スキルは必ずコモディティ化するといっている。資格とかスクールというのは供給と需要の関係を無視したサービスが横行している。供給がふえれば需要が足りなくなるのは自明の理なのに、教える商売は供給者をふやす一辺倒。

 「国は、弁護士、会計士をボロボロにした次は、開業医を狙い撃ちですからね」

 弁護士が足りないとかいって国はふやしていたけど、少ない客をめぐって奪い合いになり、年間40万の弁護士登録料をはらえずに資格を返上した人までいるという。大学院をふやしてワープアをあふれさせた構造とおなじだね。

 「キャリアアップするには、勉強そのものより、次に何が来るかを読み、リスクを取って行動する勇気のようなもののほうが重要なのである」。著者のいちばんの主張はこのようなことだろう。

 「本当にビジネスで役に立つ実務能力は、会社の中、あるいは仕事を通してしか学ぶことはできないのだ」。勉強というのは逃げかもしれないということを著者はつきつける。

 「実際に顧客がいて、失敗すれば顧客が金銭的にも不利益を被り、上司からも怒られる、といったヒリヒリするような臨場感がないと、本気でものを学べない」

 「勉強やボランティアは、「やること」自体に意義があるから、たとえ失敗しても誰からも責められない。つまり、ノーリスクなのだ」。学ぶことはこういうラクさがたしかにあるね。勉強は顧客の責務から逃れさせてくれるから一服の避難場所の安息をあたえてくれるという癒しもあるのでしょうね。その効用まで奪うのはなんとも、とも思わなくはないが、崖まで追いつめるのがほんとうの仕事といいたいのでしょうね。

 ビジネス書の著者というのは、「会社組織に対する恨みが強いため、読者にやたら自立した生き方を説き、どこかでサラリーマンを小馬鹿にした物言いをしがちだ」。これは頭の隅においておきたいことだね。

 スクール講師については、「彼らは、教える立場に立つことで自尊心を保ちたい人なのである。…先生の自尊心を守ってあげる必要があるだろうか」と手厳しい。教えるとか勉強するというのは、厳しいビジネスからの一種の逃避という冷厳な目も必要なのかもしれませんね。

 著者はかなりの数のインタビュー経験があるようなのだが、「偉そうなタイプに遭遇してしまうのは、平社員からマネジャー(係長、課長)クラスまでで、それ以上の部長クラス、ましてや、社長でふんぞり返ったタイプにはあまりお目に掛かったことがない」といっている。上の人は偉そうなイメージがあるのだが、物腰のひくい人が多いというのはよく聞くね。

 SNSについては「人は忙し自慢、病気自慢など自虐的な話題を含めて、人の話など、さして興味もないし、聞きたくもない。論客でもあるまいに、社会現象や政治などについて素人の自説なども、ほとんどの人は興味がない」と手厳しい。ひとつの意見として拝聴しよう。

 著者のいいたいことはさいごにまとめられている。「抽象的で曖昧な能力やお勉強は、いざというときに、何の役にも立ってはくれないということだ。自分の味方になって助けてくれるのは、今自分のいる場所で、今自分が持っている、具体的なものでしかないのだ」


▼批判というものは必要ですね。
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