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02 21
2013

書評 哲学・現代思想

保守はジジイのむかしへの情緒的愛着ではないよ―『日本人として読んでおきたい保守の名著』 潮 匡人

4569800076日本人として読んでおきたい保守の名著 (PHP新書)
潮 匡人
PHP研究所 2011-08-12

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 イメージでしか保守を知らなかったとき、時代の変化についていけないジジイの情緒的愛着くらいしか意味がないと思っていたけど、保守にも論理的批判力のあるバックボーンがあると知って見方がだいぶ変わった。

 わたしはハイエクの説くような経済的自由には賛同している。でも右翼の伝統とか全体主義につながるような保守には近づきたくないと思っている。わたしは個人主義礼賛で、集団主義や全体主義には批判的だ。保守思想はこれをどう結びつけているのだろう。

 ただアーレントは全体主義はアトム化や民主主義からはじまるといっている。ナチズムは民主主義からはじまったといわれるし、右翼の強権的な政治が自由をもたらすようにはとても思えない。いったい全体主義につながらない個人の自由はどこにあるのだろう。

 わたしはフランス思想の影響を吸収したのでどうも進歩思想的な考えにそまるところがあったのだが、心理学的にはこれは現状を批判するというネガティブ・シンキングに傾きがちになるので、現状を肯定するという意味ではポジティブ・シンキングに近い保守思想に耳を傾けたほうがいいのではないかとも思うようになった。批判ばかりなら人生を不幸に落とし込んでしまうからね。

 保守思想にかんしてはハイエクの『隷従の道』の「知性の限界」とか「知性の万能主義批判」ということにひじょうに学ばせてもらった。人間の知性は万能ではなくて、貨幣のような大きなものには自然のメカニズムに任せるしか、人間の独裁や権力をふせぐ方法はないのだという考えにはひじょうに納得する。

 中川八洋の『正統の思想、異端の思想』にも目からうろこが落ちるような思想の系譜をまなんだ。ただこの人の右翼的思想とか感情的罵倒、たまにもれる電波な意見とかは一ミリも共感できないのだけど。わたしは右翼的思想、国家主義的な思想には不快感を感じるだけである。

 だからこの本の著者の基本姿勢は右翼的なにおいを感じるのでそこは拒絶の気持ちがはたらく。わたしはマーケットに任せろという保守の考え方には共感をおぼえるが、右翼や国家主義的な考えにはまったく共感できない。ハイエクやフリードマンを保守の系譜から外せば、保守思想にはあまり共鳴するものがないのかな。

 この本では保守思想家がならべられて紹介されているのだが、中川八洋の『正統の思想、異端の思想』のような感銘もうけなかったし、思想家の人となりに紹介も多く割かれていて、まあ思想の深みにはあまりふみこんでいない内容といえるのではないかな。経済的自由からの保守のアプローチと国家主義的な保守のアプローチでは違うものを感じる。「日本人として読んでおきたい」といタイトルもひじょうに強制的でいやなタイトルだね。

 ざっとこの本から感銘した言葉をひきうつす。

「自分の先祖を振り返って見ようとしない徒輩は、決して自分の後裔にも目を向けないだろう」



 保守思想の祖エドマンド・バークの言葉である。バークはフランス革命に批判的だったわけだが、国家の前に裸に投げ出されるかたちになる民主主義国家の先にナチズムや社会主義国家を見ていたのかもしれませんね。わたしたちの国は民主主義に疑問をいだくことはすくないのだけど。

「私は商業の習性ほど革命の習性に対立するものを他に知らない」



 トクヴィルの言葉。トクヴィルの「多数者の専制」という言葉にひじょうに鋭い警句を感じてきたのだが、トクヴィルはフランス革命で家族、親戚など多くのものを失ったことをこの書で知った。

「それ(平等)は人間を互いに孤立させ、誰もが自分のことしか考えないようにさせる。それはまた人々の心を度外なほど物質的享楽に向かわせる。宗教の最大の利点はこれと正反対の本能を吹きこむところにある」



 平等は日本では絶対的な正義や善に思われることが多いのだが、トクヴィルや保守思想家は平等の危険性や招来するものにとくに警戒していた。平等に対立するものは貴族や高貴さであって、保守思想はこの思想に力点があると思うのだが、ニーチェやオルテガ、J・S・ミルなどの大衆批判はこの点から立ち上がっている。

「人間を正気に保ってきたものは何であるのか。神秘主義なのである。心に神秘を持っているかぎり、人間は健康であることができる。平常平凡な人間がいつでも正気であったのは、平常平凡な人間がいつでも神秘家であったためである」



 チェスタトンの言葉である。意外な気がするのだが、神秘のないニヒリズムは狂気に向かうのだろうか。

「民主主義の信条とは、もっとも重要な物事は是非とも平凡人自身に任せろというにつきる」



 危うさを感じるチェスタトンの言葉である。

「単にたまたま今生きて動いているというだけで、今の人間が投票権を独占するなどということは、生者の放漫な寡頭政治以外何物でもない」



 チェスタトンはそれゆえに伝統を重視する。死者の民主主義というわけだ。

「無実の人々が蒙った前代未聞の危難の見本を示すことによって、不可侵の人権などというものは単なるお喋りに過ぎず、民主主義諸国の抗議は偽善でしかないことを、実際に証明することにも成功したからである」



 アーレントはアウシュビッツを指しているのだろうが、のちのナチスに加担することになるハイデガーと不倫関係にあったとは皮肉なことである。でも戦後、公職から追い出されたハイデガーを公に擁護したということだが。


▼この本にとりあげられた保守の名著
新訳 フランス革命の省察―「保守主義の父」かく語りきアメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)正統とは何か全体主義の起原 1 反ユダヤ主義

開かれた社会とその敵 第1部 プラトンの呪文隷属への道 ハイエク全集 I-別巻 【新装版】道徳的人間と非道徳的社会 (イデー選書)

▼保守思想を学ぶ本
正統の哲学 異端の思想―「人権」「平等」「民主」の禍毒悪魔の思想―「進歩的文化人」という名の国賊12人思想の英雄たち―保守の源流をたずねて (角川春樹事務所 ハルキ文庫)ハイエク―マルクス主義を殺した哲人アメリカの保守とリベラル (講談社学術文庫)


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