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02 03
2013

レイライン・死と再生

なぜ宗教は性を嫌悪するのでしょうね―『宗教とエロス』 ヴァルター・シューバルト

BK0020-300x300.jpg宗教とエロス (叢書・ウニベルシタス)
ヴァルター・シューバルト
法政大学出版局 1975-01

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 宗教というのはどうして禁欲や性嫌悪におちいってしまうのだろう。生命の存続と繁栄をもたらす性がどうして否定されるのだろう。

 こういった疑問はもっていたのだが、古代には豊穣の祈願として性が肯定され、放縦すら神的なものとして崇められた時代があったことを知るにつれ、疑問はますますふくらんだ。

 このシューバルトの『宗教とエロス』という本にはたしかにそのような問いが発せられている。第二章の「創造の歓喜」の章では古代の性的放縦が崇めたてられた自然宗教の概要や内実がのべられていて、わたしの知りたいことを満足させる内容だった。

 ただつづく章は神や信仰心のないわたしには深い理解をもたらすものではなかった。第九章ではキリスト教の禁欲主義が考えられているが、ややこしすぎることもあって深い納得性をもたなかった。精神的なことばかり考えられて、たとえば貨幣経済とか私有関係のこととか物質的な条件で説明されなかったことも、わたしの納得をひきださなかったひとつの要因かな。まあ、宗教を深く知らないことが最大の要因だろう。

 さいしょのボタンのかけ違いは生命の誕生に歓喜を感じる自然宗教と、そこに神の全一から引き離された悲劇を見るかの違いだったとシューバルトはいう。生命の誕生に根源的創造の悲劇を救済の宗教は見るわけだから、性にかかわるものを断罪するようになる。

 自然宗教の性は豊穣と再生をもたらすものだから、性的放縦はおおいにすすめられ、神聖なものとして崇めたてられた。この性賛歌の宗教がどうして衰退・断罪させられていったのかがわたしの疑問である。

 日本では比較的ながく江戸時代ころまではそのような性信仰の宗教は生き残っていたのだが、明治の西洋化によって表面上はほぼ根絶させられた。西洋では早くにキリスト教によって断罪させられてきた歴史がある。でも日本でも仏教は性否定と性嫌悪の歴史をもってきたのだけど。

 純潔を守れば人類は死に絶えてしまうのではないかという疑問にアウグスティヌスは「それだけ一層すみやかに神の国は実現され、この世の終わりは早められるだろうに」と答えている。

 宗教には世界否定や世界嫌悪がふくまれているのである。仏教もおなじようにこの世や俗世、肉体を嫌悪し、涅槃に入ることをすすめられるので、この世を否定する意味で俗世に執着させる女性や性を否定した。

 宗教というのはこの世を否定して神の国に入ることをすすめる世界嫌悪をもっている。女性や性はこの世にひきとめるものであって、だから性否定や女性蔑視はもたらされた。

 シューバルトは男性原理と女性原理、男権制と女権制の対比をこの性的嫌悪の歴史に見ているのだが、性を賛歌した創造の歓喜の自然宗教は女権制において育まれたと見る。だから男性は主導権を握るために性をおとしめ、女性蔑視を推進し、権力を握ったのだということがいわれている。性や女体にひきつけられたままでは女権にかしづくままだということだろうか。

 自然を征服・制御するという意味でも、禁欲は力を発揮する。本能のまま欲望のままにおもむいたなら、自然に操られたままである。制服・制御するためには自然から距離をおき、客観視し、操られないようにしなければならない。自然に打ち克つために男は禁欲を必要とし、性や女性を遠ざけ、侮蔑しなければならなかったのだろうか。女性の追放は男性の復讐だったのだろうか。

 シューバルトはキリスト教のエロス敵視によって、現代の合理主義や個人主義、人間存在の客体化がもたらされたという。エロスは市民根性や組織化する法的思考、生の客体化のもっとも猛烈な敵対者だという。だから市民文化は性恐怖にとりつかれているという。予測・制御できないものは、文化や文明の敵なのである。

 キリスト教のような救済の宗教は、個別化の原悲劇からはじまるという。完全化へともどり、全なるものを求め、個別化の根源苦を克服することが、救済の宗教の目的である。エロスには個別化を癒し、一体化し、融合し、全一にもどる力をもっているのだが、宗教はエロスを否定しつづけるのである。あるいは市民社会か。

 頭がこんがらがって要領よくまとめられないので、このへんにしておこう。禁欲の思想には男女の権力や個別化の人類の道、自然と文明など、いろいろ絡まっているようである。自然を制御・コントロールしようとした脳化・文明化をテーマとした養老孟司の問題意識に近づいてくるものがあるかもね。


▼禁欲思想ってあまり問われていないのね。
キリスト教とセックス戦争―西洋における女性観念の構造 (ポテンティア叢書)シヴァとディオニュソス 自然とエロスの宗教 (芸術人類学叢書)カトリック教会と性の歴史バロックの聖女―聖性と魔性のゆらぎ唯脳論 (ちくま学芸文庫)

母権制序説 (ちくま学芸文庫)母権論―古代世界の女性支配に関する研究 その宗教的および法的本質〈1〉男性同盟と母権制神話―カール・シュミットとドイツの宿命 (叢書・ウニベルシタス)無境界―自己成長のセラピー論自然の死―科学革命と女・エコロジー

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