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01 27
2013

書評 性・恋愛・結婚

羞恥心は西欧近代以前になかったのか―『秘めごとの文化史』 ハンス・ペーター・デュル

4588099086秘めごとの文化史―文明化の過程の神話〈2〉 (叢書・ウニベルシタス)
ハンス・ペーター デュル Hans Peter Duerr
法政大学出版局 2006-07

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 性はなぜ隠すと魅惑的になるのか、羞恥心とはなにかといった問いをもっていたので、このハンス・ペーター・デュルの『文明化の過程の神話』は興味をもっていたのだが、一冊6千円とか9千円もする大部の著作はとても読めないと思っていた。たまたま古本で8百円で見つけたのでゲット。ほかのシリーズ本はこの単価でないとまず読めないだろうね。

裸体とはじらいの文化史―文明化の過程の神話〈1〉 (叢書・ウニベルシタス)性と暴力の文化史―文明化の過程の神話〈3〉 (叢書・ウニベルシタス)挑発する肉体―文明化の過程の神話〈4〉 (叢書・ウニベルシタス)“未開”からの反論―文明化の過程の神話〈5〉 (叢書・ウニベルシタス)


 あからさまな陰部にたいする羞恥心がえんえんと世界中、古今東西からの集められていて、エロ本以上のきわどい記述満載の本である。出産と医療の羞恥の歴史、未開民族の陰部にたいする羞恥などがこの巻では追求されてゆく。

 ただこの本の目的は進歩史観・西欧中心主義のノルベルト・エリアスの『文明化の過程』にたいする反論のために書かれた本だとは知らなかった。反論のためにこのような大部の著作をものにできるのかとちょっと驚き。

文明化の過程〈上〉ヨーロッパ上流階層の風俗の変遷 (叢書・ウニベルシタス)文明化の過程〈下〉社会の変遷/文明化の理論のための見取図 (叢書・ウニベルシタス)


 この本から推察するにエリアスは未開や古代の人は羞恥心というものがなく、人前でも裸や性に関して平気であって、文明化にともなって羞恥心や作法がめばえたという進歩史観をとなえていたようだ。その反論にデュルは未開民族や古代、中世の人たちの羞恥心というものをえぐりだしてゆく。

 まあ、よくある西欧がいちばん偉くて、未開や古代は劣っていて遅れていたという進歩史観や西欧中心主義にたいする反論である。この反論で五冊の大部を書いてしまうとは、エリアスはよっぽどうらまれていたのか、反感を買うものだったのかと思ってしまう。西欧がいちばん偉くて進んでいるのだという優越感は当の西欧人からも疑問や当惑がたくさんつきつけられるようになったのでしょうね。

 わたしの問いとしては、羞恥心はなぜあるのかといった原理的なことであって、進歩史観か歴史相対主義であるとかの対立はあまり関心を占めていない。ただ日本人も江戸時代までは裸や性にかんしてひじょうにおおらかな庶民道徳があったようなので、明治以降の西欧化にともなって裸や性が弾圧されていった歴史は承知のことだと思われるので、未開に組み込まれていた日本としては西欧の目線どおりに従ったことは、歴史の選択として日本人に合致していたのだろうか。

 裸でいる未開民族でも陰部を隠すことのルールはひじょうに厳格に存在していて、洋服で裸を隠さないから淫乱や解放されていたというよりか、性を隠すことのルールは陰部にのみ引き下げられていたと見なすべきようである。西欧人はその段差に性的羞恥心や禁欲が存在しないと見なして、みずからの文明性や進歩度を優越したのだろう。

 デュルは陰部を隠すこと、羞恥心をもつことは、性的魅力を特定のパートナーに限定すること、私物化するためのものだと考察している。性交準備OKの信号をある程度まで管理するということだ。全裸でいる民族でも女性が陰部を隠すこと、男性が陰部を見つめることは厳しく管理されていた。

 性関係の支配関係、所有関係が、性の羞恥心を生み出している、または社会的ルールとして羞恥心を植え込むのでしょうね。所有関係の網の中で、性的魅力の信号を制限して、特定の関係だけにひらかれるあいだがらをつくることは、集団で暮らす人間において追加的に必要となった規則なのでしょうね。

 羞恥心や感情というのは社会が人をコントロールするために植え込む制御装置のようなものだと思う。感情や情動のままにつき動かされることは社会の動物となることである。それを言語化・意識化することはその動物のオリを抜け出すことだと思う。だから羞恥心の源・理由を探り、言語化することは、社会の管理装置をコントロールすることだと思う。操られるか、操るか。知識とはそのために求められるのだと思う。


羞恥の歴史―人はなぜ性器を隠すかパンツが見える。―羞恥心の現代史 (朝日選書)スカートの下の劇場 (河出文庫)お産 女と男と―羞恥心の視点から (勁草 医療・福祉シリーズ)裸はいつから恥ずかしくなったか―日本人の羞恥心 (新潮選書)

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