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01 22
2013

書評 社会学

比較とか他者の目から逃れよ?―『「上から目線」の構造』 榎本 博明

4532261392「上から目線」の構造 (日経プレミアシリーズ)
榎本 博明
日本経済新聞出版社 2011-10-12

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 なにをいいたかった本なのか。とちゅうから日本的自己論の話になっていって煙に巻かれて、最後には要点をつかめなかった。

 「上から目線」になる人は「上か下か」や「勝ち負け」のような人との比較にこだわるから、そこから抜け出して自分との比較に視点をうつす「理想的自己」をめざすようになれば、「上か下か」とか「見下される不安」を抱かなくなるといっているのか。

 「理想的自己」と「現実の自己」のギャップを癒すことがカウンセリングの目的だというカウンセリングの立役者のロジャースのような人もいるんだけどな。

 この本は上司の指導にも「上から目線ですね」と反発する若者や、フリーターのように職場を転々として「自分はこんなところにいる人間じゃない」とか「いまは仮の姿」という上から目線の若者はなぜ生まれるのかといった問いを立てている。

 そのような人は「上か下か」とか「勝ち負け」などの人との比較や序列だけで人を見ている。上から目線でアドバイスされると自分が「下」に感じられ、「見下される」不安をいだく。そんな「見下された」現実の自分を見るのがいやで、上から目線に反発を感じたり、みずから虚勢を張って「上から目線」にならないと自信のなさを露呈してしまうヒミツが暴かれている。

 でもね、その上から目線な人の虚勢が暴かれたとしても、横暴で尊大な人の対処法って導かれるのでしょうかね。上からや優位から見下しつづける人の内面の秘密を知ったところで、その人の行動が変わるわけでもない。こういう理論的な本は、ハウ・トゥや自己啓発のような対処法がわからないから、理論を知る意味ってなんだろうと思ったりするね。

 この本はとちゅうから上から目線の話からはずれて、ずっと「空気読み社会」とか「他人の目線に敏感な日本人」といった日本的自己論になってゆく。上から目線の話がどうしてそういう話になるのかと思っていたが、「他人の目に映ったものが自己である」というクーリーの「鏡像自己」や、他者のかかわりのなかでしか自分を出せない日本的自己といったものから、比較や序列に過剰に敏感になる「上から目線」の若者が生まれるのだといっているのか。日本の宿痾だといいたいのか。

 比較や序列を気にしない方法は、仏教や隠遁者が「脱俗」や「脱世間」といった方法で追求していないわけでもない。仏教は世間から「落ちこぼれること」により、最底辺に下落することにより、世間の序列から抜け出すという方法を教えさとしてきた。こういう方法をつかめといっているのだろうか。

 ショーペンハウアーは他者に評価される空しいあがきに蝕まれるより、認められようとする認知欲をできるかぎり引き下げろといっているし、キリスト教のトマス・ア・ケンピスは人にどうこういわれることが気になるのだったら、神の評価だけを気にしろといっている。まあね、人との比較や序列から抜け出す方策はいろいろと考えられてきたわけだ。

 榎本博明という人はいぜんに「自己とは物語である」「自己とはフィクションである」といったいい本を出していた(『私の心理学的探求』 有斐閣)。わたしはそれによってグルジェフの「自我は空想の産物」というメッセージの意味がよく理解できるようになったのだが、自己が物語ならいくらでも書き替えが可能であり、変えることも可能だということができると思う。

 性格や人格というのはしぜんに形成されるものというより、考え方や自己の物語によって演技づけられた、方向づけられたものだということができるのではないか。それなら自己は固定したものではなく、考えや物語を変えれば自己は変えられるということではないのか。「フィクション」だものね。

 上から目線の人は他者からの評価だけが自分になってしまっているという日本的自己から端を発しているというのが著者の問題意識なのだろうか。そういう日本的自己から抜け出そうというのが本書のメッセージなのだろうか。

 こういう「物語」は書き替えたいね。その前に自己が捉われている「日本的自己」の物語の意識化・言語化というものが必要で、でもその無意識の自覚化がむづかしいんだね。


「上から目線」の扱い方 (アスコムBOOKS)「上から目線」の時代 (講談社現代新書)敬語で解く日本の平等・不平等 (講談社現代新書)「私」の心理学的探求―物語としての自己の視点から (有斐閣選書)グルジェフとクリシュナムルティ―エソテリック心理学入門

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