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01 05
2013

レイライン・死と再生

性の解放はおこなわれたのか―『盆踊り』 下川 耿史

4861823382盆踊り 乱交の民俗学
下川 耿史
作品社 2011-08-19

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 盆踊りには乱交や性的アナーキーがつきものだったのか。歌垣といわれるものはお見合いパーティというなまやさしいものではなくて、ただの乱交パーティだったのか。そういうことを確認したくてこの本を読む。

 わたしとしてはこの著者の姿勢は感服しなかった。むかしの性を民俗学者のように農耕儀礼や祖霊信仰で説明してしまうのではなくて、性それ自体の問題としてとらえるべきだといっている。でもそれでは乱交や性的アナーキーがおこなわれた、許容された理由がまったく見あたらなくなると思うのだが、著者にとってはそのような抽象的な説明はシュールレアリズムのようだというのである。

 夜明けまで歌垣の契りをつづけていたために松に変わってしまった話をただ全裸で寝過ごした恥だと著者は解釈するのだが、わたしには「神の時間」から「人の時間」まで超過してしまったという解釈のほうがふさわしいと思うのだが、著者にはそういう解釈は是が非でもはねつけたいらしい。わたしは神や農耕儀礼の解釈をふくめないとむかしの性的観念はまったく理解できないと思うのだが。まずは著者との根本姿勢があいいれない本だった。

 ただの性的快楽や解放のために古来日本の性的アナーキーはおこなわれてきたのだろうか。それはやっぱり神や豊穣祈願の世界観を入れないと説明できないものではないのか。著者は庶民にはそのような高尚な理論は必要なくてただの性の渇望だけでなりたっていた世界はよいという観念があるのかもしれないが、それだけなら所有権や子どもの生育の問題をすりぬけて社会に許容されるとは思わない。

 この本は歌垣や夜這い、雑魚寝の項あたりまではわたしの知りたいことと合致したが、盆踊りが念仏踊りとか風流(ふりゅう)とよばれた人を驚かすような踊りとどう結びついてきたか、どう分けられるべきかという問いにはほんど興をそそられなかった。

 歌垣というのは性的放縦がおこなわれたのは事実のようですね。『万葉集』巻九につぎのような句がのせられていますね。

「鷲の住む筑波山の女陰を思わせる水辺で行われた嬥歌に、乙女や男たちが誘い合って参加した。私も人妻に交わろう、他の人もわが妻を誘ってほしい。この山を支配する神もいさめぬ行事であり、今日だけは見苦しいといって咎め立てしないでほしい」



 宮中でも踏歌というものがおこなわれたのだが、聖なる宮中儀式であったかというと、たびたび混浴禁止令や夜祭の歌舞も禁制されたようにそう上品なものではなかったようだ。

「市の立つ間は夜ごとに、男女が知る、知らずを問わず、行合ては即交接する。処女はもとより人の妻といへども交接するに、その夫たる者これを咎むることなし。そはその夫たる者もまた他の婦人と交はるが故なり」 『太宰管内志』



 雑魚寝といえば同性同士で寝ることが思い浮かぶのだが、むかしは男女入り乱れての行為をさしていたようで、江戸時代には西鶴のベストセラーで大原といえば雑魚寝と全国にひびきわたっていたそうだ。

 意外に思えたのだが、聖徳太子の御廟の叡福寺でも「一夜ぼぼ」というものがあり、それを宮本常一が『忘れられた日本人』でしるしていたという。現代のしずかな風景からは信じられないですね。

 お田植祭りといえば男女の交接が演じられたり、伝統芸能といわれるものでも夫婦和合の情景をうつしとったものも多い。性は豊穣や恵みをもたらすものであり、そういう面から見れば、こんにちの性的羞恥のほうが恵みも収穫もいらないのかとなるだろうね。

 明治になると混浴禁止令は八十回も出され、愛をかたどった道祖神や俗信はしりぞけられ、性的な放縦をふくむ盆踊りも禁止されるようになった。村とのいさかいもあり、巡査が殴殺されることもあったようだ。

 しかし盆踊りや若者組といったものは衰退していった。著者は明治42年からの国産レコードの登場や大正14年からのラジオ放送に、その衰退のひとつの理由をもとめているけど、マス・メディアの登場はそれだけ町の人たちの魅力を落としたのだろうね。町中で踊ることがカッコよくて魅力的であったような時代は、マス・メディアの登場によってすっかり駆逐されたのだろうね。西洋文化のカッコよさが土着的な日本の風俗はカッコ悪いと思わせたのも駆逐のひとつの要因だろうね。

 性観念の変遷は豊穣と恵みをもたらす善としての性から、隠すもの・私秘化するべき悪としての性に零落していったわけだけど、こんにちの世界観・常識ではむかしの善悪は測ることはできないね。

 なおこの本を出している作品社は「異端と逸脱の文化史」というシリーズでエロと性の文化史をたくさん出している出版社ですね。みなさんは評価しますか。


盆踊りの話徳島の盆踊り―モラエスの日本随想記 (講談社学術文庫)豪奢と流行 風流と盆踊り (大系 日本歴史と芸能―音と映像と文字による)歌垣―恋歌の奇祭をたずねて― (新典社新書27)雑魚寝

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