HOME   >>  レイライン・死と再生  >>  死や死者がともにある人類学的思考―『大阪アースダイバー』 中沢 新一
11 25
2012

レイライン・死と再生

死や死者がともにある人類学的思考―『大阪アースダイバー』 中沢 新一

4062178125大阪アースダイバー
中沢 新一
講談社 2012-10-11

by G-Tools


 「大阪アースダイバー」は週刊誌に連載していたころから期待していたのだけど、本になって読んでみて、大阪に住んでいながら知らない大阪のことをたくさん教えてもらった。

 死者とともにある世界とか人類学的な思考とか、中沢新一でないとえがけない大阪の構造を切りとっているのでしょうね。ふつうのおカタい歴史書ではあじわえないたのしさを堪能させてもらった。

 大阪はいまでこそ平野は大きく広がっているが、縄文のころは生駒山まで内海が入り込んでおり、上町台地の岬をのこして海の下だった。神武天皇のころも生駒山の日下まで船で上陸している。

 中沢新一はこの上町台地に大阪の権力の軸が集中したことから、ここにひじょうに注目している。この南北軸をアポロン軸とよび、たいして生駒山地と住吉大社、四天王寺をむすぶ東西軸をディオニュソス軸とよんだ。

 この東西軸は生者と死者が円環する古代大阪にとってもっとも重要な主軸である。中沢新一はレイラインという言葉は使わないのだけど、大阪に残されたレイラインの痕跡をしっかりとプロト大阪の底にすえている。大阪は東西軸に「太陽信仰」が色濃く刻印された都市構造をのこしているのである。

 たとえば上町台地の突端にあった旧坐摩(いかすり)神社には冬至の太陽が高安山からのぼり、坐摩神社の巫女に光をさして新しい生命をみごもる。これは「日光感精神話」とよばれていて、レイラインはこのような神話を地形上にプロットしたものである。

 中沢は高石の等乃伎(とのぎ)神社をあげていないのだが、ここは『古事記』にも記述されているレイラインの痕跡がしっかりと残った場所である。夏至の太陽は高安山からのぼり、神殿はしっかりとその方向に向いている。春分・秋分には二上山から太陽はのぼり、冬至には金剛山からのぼる場所である。つまりはその場所は古代のカレンダー観測場所であったのである。大阪は古代の「太陽信仰」によってかたちづくられた町である。

 日が昇る生駒山地は新しい生命が宿る聖地であり、海に面する住吉大社や四天王寺は死者につながる場所であった。東西軸は生者と死者が円環する構造をもっていたのである。死と再生は古代大阪の重要な世界観であった。

 中沢新一は死者がともにあったり、死の国に構造づけられた人類学的思考でこの世界を解釈することに枠組みをおいているようである。墓場の近くにどうしてラブホテルが立ち並んでしまうのかという理由を、性愛というのは死に向かう構造、肉体をモノ化してゆく衝動をもっているからだと解釈する。それは「死」なのだろうか、あるいは人間の言語や文化の外にぬけでた世界を垣間見せるからだろうか。

 ナニワからなにわ商人、船場商人、資本主義が生成された理由をさぐる章もすこぶる興味深い。大阪の町や商人は海民から生まれた。お金や商品というのは「無縁」の関係に切ってしまうことである。商品・お金の「無縁」は人々に有縁のしがらみから切りはなす縁切りの力をもつのだが、それだけでは人々のつながりを解体するばかりである。船場商人が無縁から生み出したものはのれんに象徴される「信用」だった。

 千日前というのはミナミの繁華街の中心でもあるけど、むかしは千日前刑場があったおどろおどろしいところである。どうしてそんなところに演劇やお笑いが生まれたのだろう。処刑というのは一種の見世物、ショーであったということもできる。観劇やお笑いというのは日常生活からおおわれた非日常や秘密の扉を開いてくれるものである。それは死や死者の世界に相通じる「外部」をともにもつものではないかということである。

 西成や釜ヶ崎の日雇い労働者の町がどうしてミナミの繁華街からそう離れていないこの場所なのかと思ってきたのだが、ここでは四天王寺の重病人を収容した非田院の系譜があったことを知る。四天王寺はいまも大阪の悲しくてつらい部分を庇護しているのだろうか。

 この『大阪アースダイバー』は大阪の中心ばかりではなくて、河内や堺、平野、岸和田まで考察をひろげているのがうれしいね。河内音頭、物部氏の聖地・磐船神社、平野や堺の環濠都市、そして岸和田のだんじりは波をのりこなす船か、捕鯨であったのではないかと論をすすめる。外からきた人がそこまでふみこむとは思わなかったくらいだな。

 あまりにも興味深い大阪のディープな話題が組み込まれたこの一冊をまとめるのは容易ではないし、まだまだ考察や疑問がのこるところもたくさんある。でもこの中沢新一の人類学的思考に興味をもって大阪の歴史にふみこんでも、この人のような世界観の考察をくりひろげた人や本はほかにないだろうなともあきらめも感じる。大阪の人類学的考察として稀有な本ではないのかな。


アースダイバー大阪まち物語大阪今昔散歩 (中経の文庫)大阪―都市形成の歴史大阪における都市の発展と構造

大阪の神さん仏さん無縁声声 新版―日本資本主義残酷史現代ホームレス事情―大阪西成・あいりん地区に暮らす人々を見つめて釜ケ崎有情 すべてのものが流れ着く海のような街でさいごの色街 飛田

聖地再訪 生駒の神々: 変わりゆく大都市近郊の民俗宗教住吉信仰―いのちの根源、海の神住吉大社 (日本の古社)大阪府の歴史散歩 上 大阪市・豊能・三島 (歴史散歩 27)大阪府の歴史散歩 下 河内・堺・和泉 (歴史散歩 27)

関連記事
Comment
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top