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2012

書評 歴史

江戸三十景―『江戸っ子はなぜ宵越しの銭を持たないのか?』 田中 優子

4098250845江戸っ子はなぜ宵越しの銭を持たないのか? 落語でひもとくニッポンのしきたり (小学館101新書)
田中 優子
小学館 2010-06-01

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 タイトルは「宵越しの銭」となっているが、これは一章だけのテーマでほかは江戸の生活や文化、習慣などがとりあげられている。そのままタイトルにするとおカタくなってしまうので、ワン・テーマだけに絞ったタイトルを出すのが流行りなのだろうか。

 落語から江戸の話をひろげているのだが、落語は枕にしかすぎず、落語を知らない人でもほとんど支障はない。

 江戸っ子の宵越しの銭はもたないというのは幕末に出現した美意識らしい。落語で財布を落として返されてもつっぱねる話があるのだが、江戸っ子は腕がたしかで人間関係をきっちりしていたら仕事には困ることはなかった。他人のためにお金をつかったらめぐりめぐって自分に帰ってくる。宵越しの銭はもたないは自分のために贅沢するという意味ではなかったのである。

 江戸には「棒手(ぼて)振り」という天秤棒に多用な品物をかついだ売り子が家の近くまで売りにくることが多くあった。仕事に困ればとりあえずはじめられるので、お金に困ることはなかった。現代の人はスーパーやコンビニに買いにいくようになったのだが、ネットショップで品物が客先まで送り届けられる逆流がおこるのだろうか。

 江戸時代の人はお金のためにではなくて、世間のために働き、あるいは人と仕事をシェアしたという。自分の私財・私欲のためだけでなく、世間の助け合いという目的のために働けば、人のつながりというセーフティネットに助けられたかもしれない。

 江戸時代の結婚は生きるためにいっしょに暮らしたのであり、恋愛だけで結婚することは「浮気な結婚」といわれた。さもないと生きてゆけなかったのである。現代の恋愛結婚は経済成長時代のひとつの僥倖だったのだろう。

 修理の仕事もたくさんあって、なべや釜の穴をふさぐためにふいごで火をおこして金属をとかして穴をふさぐ商売も町にやってきていた。茶碗を継ぐ仕事もあり、提灯や傘もひきとって紙をはりかえて竹をつけかえた。循環リサイクル社会なのであって、そういう商売は昭和まであったはずである。「もったいない」文化というのは祖母の代まではあった。わらは雨具の蓑やわらじ、雪靴、家の屋根となんでも再利用された。

 江戸時代は水路がたくさんつくられ、米や味噌、泥棒までも船が移動して、河岸は活気に満ち、河岸にいきさえすれば仕事があった。河川に文化と活気があった時代って風流ですね。

 京都は教養主義で、高度な中国文化を好み、ヨーロッパ文化を下に見る傾向があった。たいして江戸はヨーロッパの文物、望遠鏡、眼鏡、蘭学でもうけいれた。高級文化と大衆文化はこのような構造になっていたのであり、ある意味、こんにちの新聞・教養文化とオタク文化のような対比かもしれない。けっきょくは低くて幼稚なものがのちの世を席巻し、高級なものは廃れてゆくのだ。

 江戸は明治以降の日本とまったく違った社会だったのか、それとも似たよう社会だったのか。憧れや幻想で脚色されたり、または近代化によって暗黒の時代とされることもある時代であるが、土台や基底部分はおなじものであったと考えるほうが実情に近いのではないかと思うのである。江戸の文化を研究する人ってやっぱり憧れや好みがあるのでしょうね。


江戸の想像力―18世紀のメディアと表徴 (ちくま学芸文庫)春画のからくり (ちくま文庫)江戸百夢 近世図像学の楽しみ (ちくま文庫)江戸を歩く (集英社新書ヴィジュアル版)カムイ伝講義

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宵越しの銭と長屋

≪江戸時代の人はお金のためにではなくて、世間のために働き、あるいは人と仕事をシェアしたという。自分の私財・私欲のためだけでなく、世間の助け合いという目的のために働けば、人のつながりというセーフティネットに助けられたかもしれない。≫

 江戸というと「長屋」のイメージがあります。長屋でその地域に住む庶民がつながりあることで、他人のためにお金を使うことが自身のセーフティネットを守ることに繋がっているのだと思いました。
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