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10 20
2012

歴史・地理

山深い紀州に暮らす人たち―『紀州』 中上 健次

4041456118紀州 木の国・根の国物語 (角川文庫)
中上 健次
角川グループパブリッシング 2009-01-24

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 大阪の町からほとんど出ることがなかったが、バイクに乗るようになって紀州の山や海岸にもたくさんの人々が暮らしていることを知った。大阪の人間からすれば紀伊半島には山しかないという印象である。町中の暮らしとは違うそこに住む人はどのような暮らしや仕事をしているのか、そういう興味がわく。

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▲熊野川に暮らす集落


 中上健次は新宮の出身で、小説の舞台も熊野をおおく選んでいるようで、この本は77年からの半年間、紀州を旅したルポタージュである。

 わたしとしては紀州の人たちがどのような仕事や暮らしをしてきたのかに興味をもったのだが、中上健次はそういう話を現地の人に聞き込みながら、問題意識の根本にあるのは部落差別の問題である。わたしはこういう問題にはつっこみたくないと思う。

 紀州というのは自然の景色がすばらしい。ほとんど自然がおおう山中や海岸のなかで人々はどのように暮らしてきたのか。わたしにあるのはそういうぼんやりとした興味であり、それが民俗的なことか、歴史的なことか、景観的なことか、興味はしぼりにくて、要領を得ないものである。

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▲古座川近くの集落


 紀伊大島では漁師は軽んじられている。海というものを相手にする不安定な職業であるし、流れ者という要素もある。また自然信仰を内にもってしまうため、自然から分離してしまった者は賤蔑視をもつからだという。

 和深という串本に近いところに住むお婆さんは大正のはじめ、大阪の岸和田、福島、名古屋の紡績にいっている。ここらに住む人は大阪に出てくるのである。福島の紡績のとき、半年賞与が九円あって、半分の四十五円を家へ送ると土地を買ったそうである。むかしは安かった。名古屋の紡績の前借で家を立てた。

 新宮に住んでいる人で三代住んでいる家はほとんどいないそうである。代々住んできそうなイメージであるが、そうではないのだな。

 和深の青年に話を聞くと、ダムの工事を専門的に追う女郎屋があるそうである。バラックでということである。天理教の修行にきている人は娘が多く、小遣いがなくなるとバイトで女郎をするという話が書いてある。この青年、女郎買いのために高い現場にうつったり、串本で長距離トラックをやったり、大阪のパチンコ屋やカシワ屋、西成で日雇いをやったりして、所帯をもうけて地元に帰ってくる。

 本宮は生活が豊かで、文化に恵まれていた。書、生け花、謡、琵琶。宮仕えの人もおおくくる。俳句、短歌をつくる人もおおい。

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▲山上にきずかれた熊野の丸枚千枚田


 山仕事の人に聞くと、土方みたいなもので、いちばんいやなことは、蛇と山蛭、ダニだといった。夏、カンカンに照りだすと蛭が出てくるそうだ。マッチ棒くらいの穴が開くという。血を吸うだけ吸ったらあとはポロっと落ちる。血がダラダラ出る。肌にくっつくと容易にはずれない。

 中上の旅は出身地の新宮からはじまって、古座や和深をまわって、朝来から本宮に入り、尾鷲、松坂、伊勢とめぐり、十津川、吉野、和歌山をへて、天王寺で終わる。天王寺は大阪に出るのはここしかない。天王寺は紀州の人にとっては和歌山・紀州の終点かもしれませんね。むかし歩道橋で海ガメなんか売ってたからね。ドヤ街があるのも?

 土地を語るのってむづかしい。中上は雑誌連載を三ヶ月ほど休止した。ひとつの土地ごとに中上がどのような話をくりだしてくるのかという目で見ていたが、やはりわたしの興味をひいてくれる核心の話はなかなか出てこないのである。

 わたしは紀州の人の働きや暮らしのような民俗学的な興味がいちばんあったのかな。この十五年ほどわたしは山にのぼったり、バイクで山中の農村をかけめぐったりして、興味は民俗なのか、歴史なのか、興味の焦点をなかなか絞れなかった。土地とはなんなのか。土地を問いかけることはあらためてむづかしい。

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▲「どどどーん」という轟音がなりひびく熊野灘の海岸


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