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10 14
2012

書評 小説

ファンタジーのすすめですね―『魔法ファンタジーの世界』 脇 明子

4004310202魔法ファンタジーの世界 (岩波新書)
脇 明子
岩波書店 2006-05-19

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 『ハリー・ポッター』以後、魔法ファンタジー作品がおおく創作され、子どもたちに人気で、つぎつぎと古典的なファンタジーが映画化された。どうしていまファンタジー人気なのだろうか。

 この本は古典的ファンタジーを論じた本で、ハリー・ポッターについてはまったくのべられていない。『指輪物語』『ナルニア国ものがたり』『ゲド戦記』といった古典だけである。心理学的手法はてんで使わないで、論じられている。

 著者には『読む力は生きる力』や『物語が生きる力を育てる』といった本が出ていて、こういう内容も興味あるな。

「ファンタジーには、常識にとらわれない自由な発想をうながす力や、土台のない空中にでも楼閣を組み上げていく技を会得させる力がある」



 ファンタジーは荒唐無稽や絵空事とみなす向きもあるが、こういう自由な発想という点ではこれほど優れたジャンルはないだろう。常識や自明性に頭が固まらない発想力は大事である。

 魔法が人気なのは、「まず第一に、それが、ふつうの手段ではかなえられない願望や欲望を満たすものであるからだろう」という。魔法はお手軽な欲望をかなえる手段なのである。それが性的なことがらになるとポルノになる。ポルノはお手軽に欲望がかなう。文学はかなわない悩みである。

 昔話なんかでは欲望がかなっても不幸や苦労ばかり背負い込む話もよく出てくる。

 著者が危惧するのは、「しかえし」や「こらしめ」のために魔法が使われる物語がおおくつくられているということである。自分が善で、相手が悪であることになんの疑問も抱かなければ、すかっと気分のいいものになる。

 ル=グウィンの『ゲド戦記』ではそんなお手軽な解決を提示しない。

「その男に勝つためなら世界を危険にさらしてもいいとまで思った相手が、いつのまにやらすっかりと遠ざかって小さくなり、勝とうが負けようがたいしたことではなくなっているのだ」



 ファンタジーがアニメや映像でとどけられてしまうことの危惧も表明する。「言葉から自分で想像しなくても、出来合いのイメージがどんどんもらえるということだ」。

 刺激をもとめて残酷なもの、グロテスクなものになるという。まあ言葉の想像の力が失われるのはよくないと思うが、昔話ももとはもっと残酷なもので、それが子どもの残酷な心を制御する力を身につけるといえるし、現実を知ることにもなるだろう。

 わたしは20歳くらいまでマンガや映像で育って言葉の想像力はものすごく乏しかったのだが、解釈や批評を読むときには言葉の力が必要であることを知ったが、物語はヴィジュアルで互換されてしまうから仕方がないのかもしれませんね。解釈や批評は映像ではムリだから、そのときまでに言葉の力を養えばいい。

 19世紀に冒険小説が流行ったわけは植民地支配とふかく結びついていたからだ。そのような作家たちはファンタジーに流れ込んでくる。

「リアリズムの物語で異人種を敵として描くと、人種差別になりかねないが、舞台が架空の世界であり、敵対するのがトロルや竜や魔王であれば、差別の問題は生じないし、軍国主義の片棒をかついでしまう心配もない」



 ただ、「絶対悪が相手なら、それを倒すためにはどんな手段をつかってもいいじゃないか」となるのは危険である。思い出せば、「仮面ライダー」や「ウルトラマン」ではテキとなれば容赦なく殺していたものである。もっとも当時から反省はあったし、悩む回もあったし、いまではその正義の相対化もかなりおこなわれていると聞く。

 よく「世界を支配する悪人」が出てきたものだが、具体的にどういうことだろうと著者も問うている。人間を奴隷としてこき使うことなのか、悪意をふきこみ、自滅をうながすのか、よくわからない。

「自分が正義の側にいると信じることの恐ろしさは、悪の側にいる者をどんなに厳しく処罰してもかまわないように思えてしまうことだ」



 描写の妙によって、植物や動物、風や雲や光などの自然が、そのままで魔法そのものだと思わせてくれる作者に拍手をおくる。

「そのなか(トールキンの架空世界)をゆっくり旅することによって、読者は、森の木や川の流れ、そそり立つ岩山など、いろんなものに愛着をもつようになり、その愛着は現実の木や川や岩山へもむかうようになっていく」



「現実の世界のなかに、愛するに足る人間や風景、動植物などを見出し、それを物語のなかに活かすことのできる作家は、その愛を読み手に手渡し、いつかその「本物」に出会ったときに、心からの願いが現実になったかのような深い喜びを与えてくれる」



 ファンタジーのよさやすばらしさを説いた本である。活字で読む物語の効用も説いた本である。わたしは映像で育ってしまった人間だから活字にこだわらなくてもいいと思うが、思考力や批評力がそこなわれるのはたしかだと思う。でもそういった力は物語をたくさん味わった後でも遅くないのかもしれませんね。


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