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10 07
2012

映画評

成熟は世間のいいなりになることか―『映画は父を殺すためにある』 島田 裕巳

4480429409映画は父を殺すためにある: 通過儀礼という見方 (ちくま文庫)
島田 裕巳
筑摩書房 2012-05-09

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 映画を通過儀礼として読むという本だが、鋭い分析を見せてくれる本ではなかったな。あの映画のこういう場面はこう読むという解釈をのべてくれる点ではおもしろいのだが、「おお!」という感嘆するレベルにはとどかなかったな。もっともいっているわたしがそれより鋭い見方を提示できるわけではないのだけどw

 いちばん興味深い章はⅣの「アメリカ映画は父殺しを描く」と、Ⅶの「寅さんが教えてくれる日本的通過儀礼」あたりかな。それまでの『ローマの休日』、『スタンド・バイ・ミー』、『魔女の宅急便』の解釈はずいぶんあたりさわりがないような。

 父殺しというのは父のいいなりになって死す(自立できない)か、父をのりこえるかという選択を青春期に迫られることになる。ケビン・コスナーの『フィールド・オブ・ドリームス』で描かれるのは、メジャーリーグの夢が破れたさえない父への反抗と侮蔑だけだったが、父のいきいきした若いころに接して、和解をもたらすという話である。

 父はすでに敗残者のような姿を見せていたのだが、その時点で父殺しはなされていたので、「和解」が必要だったのである。

 60年代、若者たちは既存の価値観に反抗をつきつけたが、これも集団的な「父殺し」だったという解釈も可能である。『スター・ウォーズ』でもダース・ベイダーという父とルークにそういう「和解」が描かれているのではないかということである。

 『愛と青春の旅立ち』の解釈は興味深かった。父のいいなりになって自分の希望を押し通すことのできなかった友人は死んでしまう。ロビン・ウィリアムスの『いまを生きる』にも自分の希望より父の要望を押し通して死んでしまう友人が描かれる。試練を避ければ死んでしまうのである。

 『愛と青春の旅立ち』のザック(リチャード・ギア)は下仕官どまりで女性の心をふみにじった父と同じ人間にならないように父をのりこえなければならない。それで退学をせまられたとき、しごきに耐えていた彼が「いやだ。やめない。ぼくには行くところがない」と子どものように泣くのである。卒業した彼は上官の上の立場になり、かれは通過儀礼をはたすのである。わたしはこの映画はなにを描いているのかもやもやしていたので、よく解釈がわかった。

 父殺しというのは自立のことである。自分の意志や親の加護からの独立である。それが精神的な面では父殺しとして表象される、あるいは表現される。

 対して日本の父殺しは寅さんや漱石の作品にあらわれるように衝突が避けられる。

 寅さんは失恋などの問題にぶつかったとき、その場所から逃げてしまうため、試練としてうけとめ、克服してゆく努力をしない。

 漱石の主人公たちも大学を出ても働かないわがままな者たちが多く描かれる。

「寅さんは、「どうせ俺はこの家じゃ勘定に入れてもらえねぇ人間だからな」というが、漱石作品の主人公たちは、誰もが自らをそういった境遇に追い込んでしまっているように見える。彼らは、地道に働いて家庭を築き、社会に受けいれられて当たり前に暮らすことにどこか白々しさを感じ、わざと「勘定に入れてもらえねぇ人間」になろうとしているのだ」



 漱石の主人公や寅さんは、じつは日本人の男性のひとつの典型を示していると島田裕己はいう。

 わたしとしては日本の人たちは世間の求める人生コースやサラリーマンコースを躊躇なく選んでいるように見えるのだが、日本で愛されるのはそういう選択から逃れた寅さんや漱石の主人公たちである。できないことの願望なのだろうか。

 こう見るとアメリカのように父殺しをはたして自立する若者はいっけん自立しているようにみえるが、既成の社会に居場所をみいだすという点で、「父なる」社会に適合してゆくということではないだろうか。日本ではいっけん成熟や成長もはたさない若者たちが物語上で愛されるが、社会という父のいいなりになることを拒むことであるともいえるかもしれない。どちらのほうがほんとうに成熟したといえるのでしょうね。

 ヤンキーなんかは学校には反抗するが、社会や家庭の保守的な価値観にはすんなり順応する。自立って親からの独立ではたせるのか、それとも社会や世間の価値観からも独立することではたされるのか。寅さんや漱石主人公は成熟できていないのか、それとも世間からの独立をめざしているのだろうか。社会で成熟しないものは、社会「から」の成熟をつぎにのぞんでいるのかもしれませんね。














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