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07 03
2012

書評 社会学

40年前もいまも変わらない職業と自尊心の問題―『生きがいの周辺』 加藤 秀俊

CIMG000311.jpg生きがいの周辺 (文春文庫)
加藤 秀俊
文藝春秋 1978-09

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 いまから42年前、1970年に出された本だが、まったく古びたものを感じさせない。就職情報誌「リクルート」に連載されたものだが、職業や仕事のかんする感じ方や思い方はいまとなんら変わりはないのだなと感慨深くなる。十数年ぶりに読みかえした。

 ヒッピーとか全共闘とか、パンタロンとか当時、流行ったものがふっと出てくるのだが、いつの本かふせたら、あんがいそんなむかしの本に思えないものかもしれない。社会学者は時代の普遍的なところをつかまえる。

 ヒッピーが増えていたころで、加藤秀俊は小松左京の『そして誰もいなくなった』という政治家やみんなが仕事をやめて、経済機能が停止する短編をとりあげて、いう。

「現代はあらゆる職業の社会的価値が下落しつつある時代ではないのか。

誰にでもできる仕事ではなく、じぶんにしかできない仕事だ、と思うから職業生活には張りあいがある。その職業が、誰にでもできるものになってしまったときに、ひとは、それにくだらないという形容詞をつける。そして、現代社会は、くだらない仕事にみちあふれている」



 ヒッピーの時代から40年たって、われわれはもっと交換可能な仕事に生きているかもしれない。当時の人が自分しかできない仕事を求めていた欲求はもっと先細りして、枯渇してしまっているのではないか。それでもわれわれは仕事をしなければならないし、人生の充実も欲す。苦しい時代なのかもしれない。

 日本人は責任をとることをいやがる人種であるが、中には責任ある仕事もみずからひきける若者もいるという。

「課長さんから年次休暇をこころよく許される、というのは、じつは、サラリーマンにとっては「不可欠感覚」を傷つけられるということなのであった。みずからの「不可欠感覚」をたしかめるためには、むしろ、引きとめられることのほうが望ましかったのである。

失敗があったらわたしがひっかぶりましょう、という一種の決意――それがあらゆる「決定」の背後にある。

「責任ある仕事」の、もうひとつの条件は、決定権がある、ということになりはしないか。…決定権があるからこそ不可欠なのだ」



 われわれは唯一無二の存在として認められたい。責任という決定権をもったり、必要不可欠な存在になろうとするのは、自分の唯一の価値を認められたいからである。それは仕事に求められたり、ぎゃくに仕事にはそれがないと逃走したり、または所有物のわずかな違いによってそれを満たそうとする。

 プライドの項についてはトラック運転手の荒っぽさからはじまる秀逸な考察がくりひろげられる。いわく「仕事とは傷つけられることだ」。

「荷物を運搬する人が、「人夫」と呼びつけにされ、アゴで使われることが習慣になっているようなところでは、その人は、職業についても、また、じぶんの人間としての存在についても誇りをもつことができなくなるだろう。

われわれの社会での人間関係は、多くのばあい、互いのプライドを傷つけあうことで成立しているのだ。傷つけられた人間は、「どうせ」とつぶやき、せめてもの仕返しに、他人のプライドを傷つける」



 われわれは自分の自尊心や唯一性を認めてもらいたいと思っているのに世の中は押しつぶすことの連鎖がつづいている。ぎゃくにプライドが押しつぶされるからこそ、消費によっておのれの自尊心は補償されなければならないのかもしれない。いろいろなところに顔を出す人々の行動はこの一心からはじまるのかもしれない。

「「自由」を獲得したということは、同時にもしもあの時、という仮定法にもとづく一種の茫漠たる不安を背負いこんだ、ということでもある。

可能性がひろがることによって、人間のもつ、もしもあの時、という仮定法の幅もひろがってゆく。なんでもできたはずなのに、それをえらばなかった、いや、えらぶことができなかった。

現代における生きがいの探求は、多かれ少なかれ、彷徨である」



 そして自由の刑にも処せられている。あれもこれもできるは、「あれもこれもできた」かもしれないのに「できなかった」自分にたいする後悔や自責の念も増やす。さまざまなところから自尊心はつき崩され、でもなんとか自尊心を保とうとするわれわれ。社会とは自尊心のありかたがぐるぐる回る雄叫びの場なのかもしれない。

 この本を読むと仕事や社会における自尊心のあり方は40年たってもなんら変わっていないのだと思う。いつも同じ問題のまわりをぐるぐる回っているだけじゃないかと確認できる気がする。時間がたった本にはいつまでも変わらない人間の本質を見せてくれるという含蓄が生まれるものかもしれない。



▼自尊心についての本
自尊心を育てるワークブック100のノウハウよりただ一つの自信 ゆるぎない「自分」をつくる77の心理技術 (Nanaブックス)恥と自尊心―その起源から心理療法へ自己評価の心理学―なぜあの人は自分に自信があるのか自己肯定感って、なんやろう?

▼わたしのオススメの自尊心と承認欲についての本
人生がうまくいく、とっておきの考え方―自分を信じるだけで、いいことがどんどん起こる! (PHP文庫)幸福について―人生論 (新潮文庫)キリストにならいて (岩波文庫)もうひとつの愛を哲学する ―ステイタスの不安―自省録 (岩波文庫)

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Comment

旧著をお読みいただき、ありがとうございました。ずいぶん古い本なのに、うれしいことです。ブログ検索をしていて、偶然、みつけましたので、著者からのごアイサツまで。

加藤秀俊

こんにちわ^^
素敵なブログですね。
私は日々の興味ある情報をつづってます。
よかったら覗きに来てください^0^

社会人2年目でしたか。一気読みしてすぐもう一回読んだ本です。
こういう本こそ電子書籍にしてくれよと思います。

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