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06 30
2012

書評 哲学・現代思想

現代思想の憧憬をドライブする本―『現代思想のキイ・ワード』 今村 仁司

4480422129増補 現代思想のキイ・ワード (ちくま文庫)
今村 仁司
筑摩書房 2006-05

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 現代思想をとても魅力的に紹介した本で、わたしは二十年前にこの本を参考に思想家の本を、知の頂点にふれられる期待や楽しみに駆られながら、読めるかなあと書店を回っていたものだ。現代思想家の印象はだいたいこの本から与えられた。

 85年に講談社現代新書から出された本で、いまはちくま文庫に入っている。浅田彰の『構造と力』が10万部のベストセラーとなり、「ニューアカデミズム」と騒がれた時代があった。栗本慎一郎や中沢新一、上野千鶴子とかが踊っていた。

 世はバブル、ファッションの記号的消費やワンランクアップの消費の流れの上に、知の所有や自尊心の優越に流れた部分もあったのだろう。「おしゃれ」や「カッコよさ」としての知の所有。デザイナーがヨージ・ヤマモトとかレイ・カワクボ、ジャン・ポール・ゴルチェなどの記号として所有された時代だ。現代思想家もその流れの一員だったかもしれない。まあ、それは大きな流れとならなくて、みんなマンガとか音楽で平気な時代だったので、教養のクソ強制の時代にならなくてよかった。

 現代思想家をスゴイとか、すさまじいことを語っていると外側から憧憬するようなミーハーな面ももっている本である。日本の西洋輸入品の受容のしかたというものはそういうものだろう。「西洋=進んでいる=カッコいい」という信仰はBMWとかベンツの記号とおなじようにずっとつづいているのでしょうね。

 今村仁司の興奮した語り方はまるでアイドルにたいしての熱中のように感情で語られている。でもそういう感情や興奮で語られた本であるからこそ、魅力をつたえたのでしょうね。現代思想もミーハーの一種。高尚で高級なものだって、受容の仕方はアイドルや俳優のミーハーな熱中と変わらない。

             *

 この本は現代思想の課題や問題をキイワードとしてとりあげた本で、現代思想家にたいする期待や熱中があつく語られている。たぶんに今村仁司という人の熱中と情熱がなかったら、その温度はつたわらなかっただろう。

 冒頭にはドゥルーズのノマドロジーやリゾームがとりあげられている。わたしも本屋で見かける『アンチ・オイディプス』や『ミル・プラトー』の高くてぶあつい本を手にとってながめては、読めるかなあと何度も値踏みしたものだ。文庫本になった『アンチ・オイディプス』をさっそく読んでみたが、詩とか文学みたいな内容に超絶不理解だった。権威や評価をさし引いたら、支離滅裂な妄想ともいえなくないか。

アンチ・オイディプス千のプラトー―資本主義と分裂症 →文庫化 アンチ・オイディプス(上)資本主義と分裂症 (河出文庫)千のプラトー 上 ---資本主義と分裂症 (河出文庫)


 アドルノやホルクハイマーのフランクフルト学派のドイツ思想にも今村はずいぶんと高らかに期待を語っていた。ベンヤミンの思想はそのあとにたくさん翻訳されましたね。啓蒙や理性といった近代的知性がどうして圧制や暴力などの野蛮を生んでしまうのか、フランクフルト学派はそういった問いと向き合い、フランスのフーコーはその業績を知らずに独力でその道を切り開いたということだ。

啓蒙の弁証法―哲学的断想 (岩波文庫)否定弁証法ベンヤミン・コレクション〈1〉近代の意味 (ちくま学芸文庫)複製技術時代の芸術 (晶文社クラシックス)


 フーコーは脱中心化というキイワードで語られている。今日はフーコーの翻訳はすさまじい数が翻訳されていますね。それだけフーコーの知識と権力の不穏な関係はインパクトがあるのでしょうね。わたしはフーコーの写真集をもっていますね(笑)。

監獄の誕生―監視と処罰狂気の歴史―古典主義時代における知への意志 (性の歴史)611gRwXpHKL__SL500_AA300_.jpg


 バタイユも破門された思想家としてとりあげられている。バタイユは栗本慎一郎が魅力的なかたちで紹介していますね。マルクスはもう経済学としてスルーされていたと思うのだけど、今村はマルクスをかなりもちあげている。アルチュセールの思想を読み込む人だから、マルクスは重要な思想家だったのだろうね。ん? 85年にはソ連の崩壊もベルリンの壁の崩壊もまだだったか。

 デリダは世界で大流行して、アメリカではおもに文学研究としてとりいれられたそうだ。わたしは『グラマトロジー』という本を読んだが、ほとんどわからなかったな。言葉では形而上学の土台をゆるがして、うんぬんというのだが、なんのことをいっているのかさっぱり。

 スピノザもずいぶんもちあげているのだが、『エチカ』を力ないし政治の存在論として読めという。『エチカ』という書物は数学の証明のようにものごとを語っており、真理の証明や確実性が揺らいでいる時代だったんだな、くらいの印象しかない。

 スピノザを読みこんだアントニオ・ネグリの迫力がすさまじいといっていたが、のちに00年代あたりになってぶあつい書物が何冊も翻訳されていたな。ネグリはアウトノミアのアンチ労働について知りたいと思ったが、どの書に語られているのかよくわからずじまい。

呪われた部分 有用性の限界 (ちくま学芸文庫)パンツをはいたサル―人間は、どういう生物か資本論を読む〈上〉 (ちくま学芸文庫)再生産について 上 イデオロギーと国家のイデオロギー諸装置 (平凡社ライブラリー)

グラマトロジーについて 上エクリチュールと差異 上 (叢書・ウニベルシタス)文学部唯野教授 (岩波現代文庫―文芸)

エチカ―倫理学 (上) (岩波文庫)野生のアノマリー――スピノザにおける力能と権力構成的権力―近代のオルタナティブ<帝国> グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性


 群集も問題としてとりあげられている。オルテガの懸念したような画一化・均質化する大衆ですね。カネッティの『群集と権力』、モスコヴィシ『群集の時代』がくわしいようですね。わたしはトフラーの『第三の波』で工業化の規格化にその理由を多く見えた気がするが。

 そして今村は暴力をとりあげる。今村は暴力について考えつづけた思想家であったかもしれない。ベンヤミンの『暴力批判論』、アレントの『暴力について』といったものを経由して「神話的暴力」について語る。

 ノイズ、儀礼について語り、全体主義に言及する。ハクスレーの『ガザに盲いて』、アレントの『全体主義の起源』、そしてトーマス・マンの『魔の山』。「社会改良の総合計画を持つ政府は、拷問をやる政府なのである」。

群衆と権力〈上〉 (叢書・ウニベルシタス)世論と群集群衆心理 (講談社学術文庫)第三の波 (中公文庫 M 178-3)暴力批判論 他十篇 (岩波文庫―ベンヤミンの仕事)

暴力について―共和国の危機 (みすずライブラリー)現代世界文学全集〈第19〉ガザに盲いて (1955年)全体主義の起原 1 新装版魔の山 (上巻) (新潮文庫)


 ユートピアについては20世紀は社会主義という夢にとりつかれたのだから、この思想的問題を考えるのは思想家としてとうぜんのことだろう。わたしはハイエクに「知性万能主義」の誤りということを学んだ気がするが。今村は中里介山の『大菩薩峠』を題材にえんえんとユートピアの型について語るのだが、この作品って大長編なのでつりつく島がないという感じだな。

 自由の項ではアイザイア・バーリンの『自由論』から、「積極的自由」と「消極的自由」について語る。わたしは企業や労働からの自由を考えたかったのだが、思想家でそういうことを考える人が少ないのだな。今村仁司は『近代の労働観』とか『労働のオントロギー』で労働も思想的課題として考えていたのだが。

 オートノミー(自律性)についてはカストリアディスをとりあげる。わたしは自分が興味ある共同幻想についてカストリアディスが『社会の想像的創出』という本で語っているかと思ったのだけど、そういうのはリオタールの『ポストモダンの条件』や竹田青嗣の著作に語られていたようだけど。

 希望の項ではレヴィナスの思想がとりあげられるのだが、フランクフルト学派の問題意識――暴力の発現を抑制する倫理的基準を探求するという課題を継承したものとしてあげられている。内田樹なんかはレヴィナスのファンらしいのだが、わたしはあまり興味をもてないというか、なにを語っているのかわからない。

希望の原理 第1巻ザ・大菩薩峠―『大菩薩峠』全編全一冊自由論近代の労働観 (岩波新書)

想念が社会を創る―社会的想念と制度 (叢書・ウニベルシタス)ポスト・モダンの条件―知・社会・言語ゲーム (叢書言語の政治 (1))全体性と無限 (上) (岩波文庫)


 この本でたくさんの思想家を知り、たくさんの思想の内容を知った。なにを問題にしていて、なにを乗り越える課題としてきたのか。

 でもわたしの関心事と思想家の問題意識がすべて重なるわけでもないし、なにを語っているのかちんぷんかんぷんの思想家もとうぜんいた。なぜそういうことを問題にしているのかわからない思想家もいた。

 わたしのおもに考えたいことは労働からの自由であり、共同幻想や思考の虚構性といったものをいちばん知りたいと思っていた。知りたいときというのはなにを問題にして、なにを知りたいのかもわからなくて、ただ漠然とそのテーマについて知りたいと思うものだ。そういう辿り方をして自分の知りたいことと出会ってゆくのではないだろうか。

 出会ってよかった本だと思っている。この本と出合わなかったら、思想家への熱中も生み出せたかわからない。ただ思想はわたしの実際的生活、お金を稼ぐことや仕事に熟するといった知恵はてんでさずけてくれなかったのだけど、まあ知識をむさぼり、あさる楽しみを与えてくれた。感謝の一冊である。


▼今村仁司の仕事
抗争する人間(ホモ・ポレミクス) (講談社選書メチエ)近代性の構造 (講談社選書メチエ (1))交易する人間(ホモ・コムニカンス) (講談社選書メチエ)群衆―モンスターの誕生 (ちくま新書)貨幣とは何だろうか (ちくま新書)

親鸞と学的精神近代の思想構造―世界像・時間意識・労働現代思想を読む事典 (講談社現代新書)アルチュセール全哲学 (講談社学術文庫)ベンヤミンの「問い」―「目覚め」の歴史哲学 (講談社選書メチエ)

暴力のオントロギー現代思想の基礎理論 (講談社学術文庫)マルクス入門 (ちくま新書)

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とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
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