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06 28
2012

書評 社会学

すぐれたガイドブックに出会うこと―『60冊の書物による現代社会論』 奥井 智之

okui.jpg60冊の書物による現代社会論―五つの思想の系譜 (中公新書)
奥井 智之
中央公論社 1990-04

by G-Tools


 20年ほど前にこの本を読み、社会論のよい導き手・ガイドブックになってもらった。興味のひかれた本や内容が気になる本を読み、この本にあげられている多くの本を読むことになった。すぐれた読書ガイドとなってくれた本だ。

 巻頭に文学をあげてくれたことも当時、小説は読むけど学問の本を読めないわたしにいいとっかかりを与えてくれた。このガイドブックに出会わなかったら、学術書の小難しい本を読めなかったままかもしれない。もしかして学問を難しくて読めないと思っている人はこのようなガイドブックに補助線をひいてもらわなかっただけかもしれない。

 この本では帝国主義論、大衆社会論、産業社会論、管理社会論、消費社会論に大きく分けられてその代表的な本が紹介されている。

 わたしは大衆社会論にいちばんひきつけられた。画一化・均質化する大衆というものにひじょうに危機感をもった。管理社会論にも興味をもったし、消費社会論にももちろん興味をひかれた。ただ消費社会論はバブル崩壊後には急速に興味をうしなったが。もう記号消費を誇示する時代ではないと思ったのだけど、じっさいの世の中は記号消費やブランド消費は終わっているわけではないのでしょう。

 だいたい一冊につき三ページ分の紹介文は、その内容が興味をもてるものかそうでないかの判定を十分になしてくれる分量だった。この本で興味の度合いをチェックして、古典的でお墨が着いた本を読めばいいのだ。すぐれた古典的な社会論と出会うことができた。

 各社会論についてそれぞれのべたいと思う。ただし、帝国主義論はあまりにも今日的ではないのではぶいた。著者はあとがきで情報社会論は安易すぎるのでやめたと書いているが、よほどこちらのほうが参考になったと思う。


大衆社会論

月と六ペンス (新潮文庫)大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)自由からの逃走 新版日本イデオロギー論 (岩波文庫 青 142-1)国家〈上〉 (岩波文庫)

フランス革命についての省察ほか〈1〉 (中公クラシックス)アメリカの民主政治(上) (講談社学術文庫)孤独な群衆人間の条件 (ちくま学芸文庫)自由論 (岩波文庫)

 わたしはこの大衆社会論にいちばん問題とシンパシーを感じた。いちばん熱心に読み漁ったジャンルだ。画一化・均質化する大衆、群集の群れに右往左往する頭のない人たち、そういったことにいちばん危機感を感じた。

 オルテガ『大衆の反逆』、フロムの『自由からの逃走』、リースマン『孤独な群集』、この本では参照されているだけだが、J.S.ミルの『自由論』あたりにはひじょうに密度の高い読書体験をさせてもらった。

 どうしてこれらの本に興味を深くひかれたのか。それは流行や世論の動向に流されて自分がないという状態に危機感や情けなさを感じていたからかもしれない。マスコミに踊らされる愚かな群衆といったものから抜け出したかったのかもしれない。メディア・リテラシーとしての大衆社会論だったのだろうか。

 バークの本は保守思想の意味を知ってから読むことになった。ハイエクとかの計画経済、福祉国家の批判としての保守思想の意味を知ってからである。トックヴィルはまだ読んでないのだが残念なことだ。アレントの『人間の条件』はすこし意味のわからなかった本だったかもしれない。



産業社会論

完訳ロビンソン・クルーソー (中公文庫)プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)徳川時代の宗教 (岩波文庫)資本主義・社会主義・民主主義ゆたかな社会 決定版 (岩波現代文庫)

資本主義の文化的矛盾 上 (講談社学術文庫 84)第三の波 (中公文庫 M 178-3)近代―未完のプロジェクト (岩波現代文庫―学術)産業社会の病理 (中公クラシックス)

 どうもこの産業社会論のくくりかたがよくわからないのだが、日本では60年代に論壇を主導した思想であったらしい。なにを問題にしていたのだろう。

 ウェーバーの問題なら日本がアジア圏でゆいいつ西洋化した理由を日本の宗教に求められる運動がおこっただろう。

 産業や経済がどうなるかという問題意識では、わたしはビジネス書のほうが役にたった。堺屋太一やドラッカー、日下公人など今日の経済はなぜこうなっているのかという理由探しを経済史まわりのビジネス書で学んだ。

 ダニエル・ベルは『イデオロギーの終焉』や『脱工業社会の到来』などの書を著したわけだが、これはトフラーの未来学とつながってくる問題だろうか。工業社会が終わり、情報・知識社会がやってくるという問題だ。ところでベルの上記の著は古すぎて手に入るのがもう困難になっていたのが残念だ。



管理社会論

森の生活 (講談社学術文庫)経済学・哲学草稿 (岩波文庫 白 124-2)この最後の者にも・ごまとゆり (中公クラシックス)稿本自然真営道―大序・法世物語・良演哲論 (東洋文庫 402)すばらしい新世界 (講談社文庫 は 20-1)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)隷属への道 ハイエク全集 I-別巻 【新装版】初期マルクス研究―「経済学=哲学手稿」における疎外論 (1968年)脱学校の社会 (現代社会科学叢書)スモール イズ ビューティフル (講談社学術文庫)

人間の経済 I 市場社会の虚構性 (岩波モダンクラシックス)気流の鳴る音―交響するコミューン (ちくま学芸文庫)監獄の誕生―監視と処罰再生産について 上 イデオロギーと国家のイデオロギー諸装置 (平凡社ライブラリー)

 管理社会論は60年代末に日本で熟成したそうである。カウンターカルチャーの時代だから反物質主義としてソーローの『森の生活』はおあつらえ向きかもしれない。

 この本ではフーコーもアルチュセールもとりあげられていないのだが、今日では管理社会論として監獄社会論や国家イデオロギーを究明したかれらをとりあげないわけにはいかないだろうと思うが。

 管理社会論には文学的想像力に力をあずかるらしい。ラスキン『この最後の者にも』、ハクスリー『すばらしい新世界』、オーウェル『1984年』。SFは今日や未来の懸念を拡大したかたちで描くのに適しているのだろう。

 マルクスの『経済・哲学草稿』は労働疎外論をのべたものとして学生運動の時代にバイブルとなったそうだが、それは管理社会論だろうか。マルクーゼは『一次元的人間』がとりあげられているのだが、アマゾンでは書影がなかったので、『初期マルクス研究』をあげておいた。

 イリイチの『脱学校の社会』は専門化された社会の個人の無能化を問題にした名著だと思うが、これも管理社会の文脈だろうか。ハイエクの『隷従への道』は福祉国家論や市場経済主義などの文脈で捉えられるべきだろう。

 真木悠介の『気流の鳴る音』はインディアン・シャーマンの世界をとりあげたもので、管理社会論にほどとおいものだと思う。「老荘的」世界のすぐれた記述であるが。

 これらはこのジャンルに入るものではないと批判しているが、この本のおかげで読むことになってわかった内容なので、すべてこの本に負っているわけだ。



消費社会論

ドン・ジュアン (岩波文庫)社会分業論(上) (講談社学術文庫)有閑階級の理論―制度の進化に関する経済学的研究 (ちくま学芸文庫)明治大正史 世相篇 新装版 (講談社学術文庫)饗宴 (岩波文庫)

ホモ・ルーデンス (中公文庫)遊びと人間 (講談社学術文庫)「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)呪われた部分 有用性の限界 (ちくま学芸文庫)消費社会の神話と構造 普及版

柔らかい個人主義の誕生―消費社会の美学 (中公文庫)ロラン・バルト モード論集 (ちくま学芸文庫)

 消費社会論というのはバブル崩壊によって、いちばん価値を下落させた社会論ではないだろうか。

 それまでは「みせびらかし消費」、「記号的消費」というのは世の中を席巻する価値観であった。ボードリヤールに学ぶものが多かった世の中であった。しかしバブル崩壊後、急速にその価値を減じた。もはや物質的な価値を見せびらかす、自慢することはカッコいいことではなくなった。だから景気が上向かないということがあるのだと思うけど。

 いまはネットによるつながりや知識のゲームというものが新たな認知の価値観として興隆している最中なのだろう。それを「評価経済社会」とかいったりするが、根本的に競われる価値は消費社会とおなじようなものかもしれない。

 記号消費の時代はマスコミに操作され、踊らされる時代になりつつあった。だからこそネットのような個人も発信できて、マスコミに対抗できるような個人発信のメディアは急速にうけいれられたのだろう。

 バタイユがいったような人は消費のために生産しているのではなく、蕩尽や破壊のために禁欲の生産をしているのだという問題はまだ解明できたわけではないので問題として残るだろう。だけど消費記号論というもは急速にこの社会の主要なテーマを語る道具ではなくなった、と思うのである。


           *

 このガイドブックを読むことによって社会論の名著とたくさん出会うことができた。このすぐれたガイドブックがなければ、あれこれこの本はどうだと評価を下せなかっただろう。

 学問というのは魅力的なガイドブックの出会いにかかっているのかもしれない。カタログ的なガイドブックに出会えば、一望的に読みたい本、読むべき本を見渡すことができる。もし学校で小出しに習うべき本だけを教えてもらっていたら、興味の持続や自分の道しるべを見つけることができただろうか。

 学校にいくより、魅力的なガイドブックに出会うことがもっとも大事な学びの第一歩かもしれない。


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