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06 23
2012

セラピー・自己啓発

自我の愚かさと情けなさをあぶり出す価値ある本―『グルジェフとクリシュナムルティ』 ハリー ベンジャミン

4795223661グルジェフとクリシュナムルティ―エソテリック心理学入門
ハリー ベンジャミン Harry Benjamin
コスモスライブラリー 2000-09

by G-Tools


 グルジェフはかなり神秘的サークルの趣がある人であり、クリシュナムルティは宗教というより心理学的に思考の限界について語った人であると思う。ともにトランスパーソナル心理学の流れで紹介された人である。

 この本はおもにグルジェフのワークが語られている。弟子のモーリス・ニコルによる『グルジェフとウスペンスキーの教えに関する心理学的注解』の概説書となっているようだ。翻訳はされていない。

 トランスパーソナル心理学が東洋宗教となにが違うかというと理論や説明で人を納得させようとする点だ。禅なんて言葉や思考を否定して、なにも説明しないで「くそべらだ」とかいって、言葉と思考の断絶をおこなわせようとする。こんにちの理論好きな人の納得や説得を勝ちとることなんてできないだろう。

 この本は「無我」が語られた本である。ではなぜ「無我」にならなければならないか。「自我」とはなんなのか、「自我」はなぜ弊害や害悪をもたらすのか、その説明をしてくれる。驚くほどの自我の愚かさや情けなさに直面させてくれる。この本のほかに自我の愚かさや機能というものを説明してくれる本をわたしは知らない。

 自我というのは「想像上の私」であり、「内なるおしゃべり」であり、なぜそれを自分「そのもの」と思ったり、それに「同一化」してしまうのだろう。根本的な理由がのべられる。

「グルジェフ・システムによれば、われわれが自分自身と呼んでいるものは、単に想像上の存在または錯覚にすぎない。それはなんら存在しないのである。…それが錯覚に基づく安定した連続性を与えられるのは、単に、その間ずっと用いられているのが同じ身体であり、同じ精神と感情という事実のゆえなのである」



 われわれは根本的に錯覚しているのである。「わたし」というのはイメージや想像の束にしかすぎないのに、それを自分「そのもの」と思い込んでいる。それは地上ではなくて、「地図」である。「地図」であるのに「自分自身」だと思い込んでいる。われわれはこの錯覚から離れなければならない。

「もしわれわれが何かで動揺させれば、われわれは無意識のうちにその動揺させられるという感情に同一化し、自分は動揺していると言う。それはわれわれが自分自身を完全に当の感情に浸らせていることを意味する。それが起こる瞬間、その感情は即われわれなのである。

それが何であれ―快、不快、退屈、欲求不満、歓喜など―われわれはそのすべてと完全に同一化し、それがたまたま何であろうと、その感情または思考または行為に夢中になる」



 われわれは想像上のわたしに同一化するばかりか、感情や情動にも同一化する。リアルに現実に感じるものも、想像上のわたしや思考を起源にしている。現実というのは想像から発するものである。同一化によって現実やリアルになる。

 われわれはこの思考や感情の同一化によって根本的に錯覚しているのではないだろうか。それは現実やリアルだと。でもわれわれが同一化しているものは想像や虚構としてしか存在しないものなのである。

 その同一化のもたらす困難とは、感情の埋没による恐れや悲しみ、怒りである。想像に端を発するものに感情が囚われてしまい、その世界から抜け出ることができなくなってしまうのである。それはほんとうに存在するものかという疑問、問いを発せなくなってしまう。

 なぜわれわれは想像上のわたしにしがみついてしまうのか。それこそが想像上の自我が存在するゆえんである。われわれは「自分が正しい」という自己正当化をつねにおこなう。

「それによってわれわれは、われわれにとって貴重な「常に正しい」というわれわれ自身の気持を維持するのである」



「自己正当化の明白な目的は、われわれの士気(モラール)―われわれが自分だと思っているパーソナリティ=人格の士気―にとって不可欠の、われわれ自身のプライドとわれわれ自身の信念を強めることである。その士気がくじかれたり、あるいははなはだしく動揺させられると、われわれの全アイデンティティが脅かされているとわれわれはいやおうなしに感じる。それはパーソナリティがけっして耐えることのできない何かである」



 自我というのは自己のプライドや価値を守らなければならない。なぜなら―

「それは自身に何らの真の価値を持たず、そして基本的にそのことを知っているので、まったくの錯覚に基づいた自分自身についての価値感覚なしには生きることができないのである」



 自我というのは自己のプライドや価値を守るために存在している想像上の観念である。それを守るためにたえずわれわれは頭のなかで「おしゃべり」している。そしてそれが想像上の自我をいつまでも長らえさせるのである。

「内なるおしゃべりは、われわれが一人きりのときはいつでも常に自分自身とおこなう連続的会話である。われわれが一人きりになるやいなや、直ちに会話が始まる。その九十九パーセントはわれわれの想像の不平不満、個人的動揺、狼狽、いらいら、問題、意向、等々に関係している。例えば、われわれは誰其がわれわれにこんなことを言った、なぜ彼はわれわれを然るべく扱わなかったのか、そしてわれわれは彼にこう言うべきだったが、しかし言わなかったなどど心のなかで思い返し続ける」



 どうだろうか、身に覚えがない人はいないだろうと思う。われわれは頭の中のおしゃべりによって自己のプライドや価値を保ちつづける。われわれはなぜこのおしゃべりから離れられないのか。

「要するに、内なるおしゃべりを通じて、またそれによって、われわれは自己正当化と自己賛美キャンペーンをおこない、それによって自分自身を最高度の自己評価価値に保つのである」



 自我というのはだれにも身に覚えのあるこのために存在している。そしてその価値の幻滅や消滅をまぬがれるために、われわれは頭の中でたえず自己賛美と正当化のキャンペーンをおこなうのである。それが頭の中でつぶやきつづける言葉の内容である。

「すなわち、人生はわれわれに一定の生活の便益、一定の恩恵、特典、等々を施すべきだと感じているのである。

それらが来ようとしないとき、われわれはいらだちや狼狽を感じ始め、かくして、われわれが話していたあの内なるおしゃべりの絶え間ない流れを始めるのである。

例えば、われわれは、一定のこと―他人からの敬意など―はわれわれに帰せられる、他の人々はわれわれを好きになるべきだ、われわれは常に幸福であるべきだ、われわれは楽しい仕事、快適な家庭生活、等々を持つべきだ、外部のものごとがわれわれの安楽や楽しみを妨げるべきではない、などと思うかもしれない」



 どうだろうか、自分の羞恥や恥部を赤裸々にさらされたようで恥ずかしく思わないだろうか。われわれは頭の中のひとりごとでたえず自分の価値の回復や賞賛をおこなっている。そうしないと自我=想像上のわたしは、強度を持って存在し得ない。価値を減ずることはその消滅なのである。だから頭のなかでわたしの価値は昂進されつづけるのである。

 自我の機能とたくらみを知ることにより、それが想像や錯覚にすぎないことを知り、同一化から離れることによって、われわれはこの自我のはたらきに巻き込まれない境地に踏み入れることができる。われわれは想像上のわたしに同一化することからのがれられるのである。


 副題のエソテリックは「秘教」や「神秘主義」をさす。神秘主義や宗教はもちろん宇宙や世界との一体化をめざすものであり、そういったことに信をおけない現代人は心理学的用途としてそこまで踏み込んでいいかわからない。ただその途上には幻想の自我を知るという賢明な知恵が転がっているわけだが。

 グルジェフは難解な宇宙論をその自説においてくりひろげる。自分自身について知るのは宇宙を知ることが不可欠だという考えらしい。

 対してクリシュナムルティは思考や言葉の限界をあぶりだす作業に全精力をついやし、神や宗教について多くは語らない。心理学的なこんにちに適合した哲人だといえるだろう。言葉の限界を悟らせようとしたのは仏教のナーガルジュナ(竜樹)もそうなのだが、未読のため詳細は知らないが、私見ではウィトゲンシュタインのような論理的破綻をめざしていたように思えるのでわたしには難解すぎると思っている。

 この本は想像上の自我がどのようなはたらきをなし、それがどのように恥ずかしくて愚かなものか教えてくれる本である。仏教古典ではこのような解明は、あまり読んでいないので知らないが、そう見当たるものではない。この知見が加わるだけで、われわれは自我や思考についてのつき合い方を改めようと思えるだろう。この本はそのような価値ある本だと思っている。


奇蹟を求めて―グルジェフの神秘宇宙論 (mind books)生は「私が存在し」て初めて真実となる注目すべき人々との出会いベルゼバブの孫への話―人間の生に対する客観的かつ公平無私なる批判注目すべき人々との出会い [DVD]

恐怖なしに生きる静かな精神の祝福―クリシュナムルティの連続講話私は何も信じない―クリシュナムルティ対談集既知からの自由自我の終焉―絶対自由への道

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