HOME   >>  書評 ビジネス書  >>  知識社会の予言書だったのだけど/『パワーシフト』 アルビン・トフラー
05 09
2012

書評 ビジネス書

知識社会の予言書だったのだけど/『パワーシフト』 アルビン・トフラー

51lk0X8PaHL__SL500_AA300_.jpgパワーシフト―21世紀へと変容する知識と富と暴力
アルビン トフラー
フジテレビ出版 1991-10

by G-Tools


 情報社会・知識社会を予測したトフラーの著作をいま読み返したら新たな発見があるかもしれないと読み返して見たのだが、ジャーナリスティックなささいな記述が多く、半分くらい読んだところで音をあげてしまった。

 十何年もまえに読んでいまだに気になる記念碑的な本だと思っていたのだが、意外だった。つまらなかった。トフラーの本は経済リポート、産業リポートのようなものをずっと連ねるので、水ぶくれの分が大きすぎるのである。

 そういえばトフラーのこの『パワーシフト』も『第三の波』、『未来の衝撃』(いずれも中公文庫)も絶版になっている。原理的・概要的なものだけを抽出していたら、いつまでも読まれる学問的な本になっていただろうか。それともビジネス書の常として読まれなくなるのは必然だったのか。

 トフラーの著作でいちばん訴えるところは工業労働の不満や怒りを昨日のものにしてしまう情報革命・知識革命の到来を告げた箇所かもしれない。労働者はいっぺんの情報も力もなく、ワイシャツを着た連中に指示され、なにも知らされなかった。情報革命はその奴隷の鎖から解放してくれる福音であったのである。

 情報革命・知識革命はその権力の鎖からわたしたちをほんとうに解放したのだろうか。情報は管理職がもっていた情報による権力を下のものにまで解放され、わたしたちはそのくびきから解き放たれたのだろうか。知識は経営者や資本家といった権力からわれわれを自由にしたのだろうか。われわれはあいかわらず経営者や資本家の奴隷や使役者ではないのか。

 工業社会の労働者はだれとでも交換可能なパーツであった。失業してもほかの仕事を見つければ、かんたんに仕事につくことができた。だが知識をもちいた仕事になるにしたがって交換不能になってゆく。トフラーはそこに知識権力の源泉をみた。知識社会では長期失業がなかなか解決しない理由である。

 管理職の権力は横の部署とつながり、情報を共有することにあるとトフラーはいっている。しかし日本の大企業では同期の新入社員たちをそれに近い横のつながりをもちつづける。はたしてこれは力だったのか、それとも90年ころの世界経済での日本への期待にすぎなかったのか。

 知識が権力をもつと物質にたいする軽蔑と価値下落がおこると文明論的に予測したのは堺屋太一である。『知価革命』(85)において中世の僧侶やキリスト教が権力を持ったような知識社会がやってくるのではないかと大胆に予測した。知識と物質はシーソーのようにその価値をトレードオフされるのである。はたして物質と労働に価値をもった社会はテーブルをひっくりかえしたような知識や清貧が至上にされる時代がほんとうにくるのか。

 トフラーは『第三の波』で工業社会の六つの原則を図式化してみせた。すなわち規格化の原則、専門化の原則、同時化の原則、集中化の原則、極大化の原則、中央集権の原則である。

 工場労働や学校教育ではこの原則が徹底され、われわれの身体・行動は工場労働に適したものにつくりあげられる。知識社会ではその原則が知識創造を阻害したり、破壊したりする。われわれの社会や労働はあいかわらずこの工業社会の原則に縛られ、正しい規律として用いられているのではないだろうか。知識を活かし、知識を用いる社会に適応できているのだろうか。

 トフラーの著作は概要的なことを抜き出せばひじょうに重要なターニング・ポイントをのべているのだが、著作はずいぶんと枝葉末節な経済リポートである。その記述に阻まれて、大事な要点に届かない、あいまいになってしまう欠点があったのではないかと思う。知識社会がすすんだいま、トフラーの著作はもっと魅力的に読めると思ったが、そうではなかった。


富の未来 上巻 The Third Wave: The Classic Study of Tomorrow 君主論 (岩波文庫) イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press) ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる
by G-Tools

関連記事
Comment

遅ればせながら、拝見しました。
そんなトフラーさんいじめちゃダメだよ。
この本のおかげで21世紀に何が起きてるかだいたい予測できたので、音楽と哲学に精力集中できたんだから。今日の状況に意外とおどろかない…

原書読んでます

今、「パワーシフト」の英語の原書を読んでます。

1990年台当時より、今のほうが、彼の言っていること一つ一つがピンときて、イメージしやすいと思います。

英語で読むと、かえってわかりやすいような気がします。難しい表現はあまり多くありません。文体は、ユーモアにあふれています。

文明の原理というものについて、いろいろ考えさせられます。
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top